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第51話 常時

翌朝、俺は早めに家を出て美女木支部に向かった。

昨日の若葉ダンジョンとは違って、今日はいつもの美女木ダンジョンだ。慣れ親しんだ場所での探索は、やはり安心感がある…ような気がする。


美女木支部の前に到着すると、一之瀬さんがすでに待っていた。


「おはよう、鈴木くん」


「おはよう、一之瀬さん。今日も早いね」


俺たちは軽く挨拶を交わして、ダンジョン入口に向かった。


ダンジョンドローンを起動させ、手続きを済ませて美女木ダンジョンの大扉をくぐると、いつもの樹木の香りが鼻をくすぐった。

新緑の匂いと、湿った土の香り、そして鬱陶しいほどの湿気。


「相変わらずの湿気ね」


「うん。ちょっと来たのを後悔してきたかもしれない」


「フフ、私もよ」


俺たちは探索者マップを確認して、探索を開始した。

ジャングルでの探索は順調だった。俺たちの連携も日に日に向上していて、魔物との戦闘もスムーズに進む。

治癒の花や浄化の実などもそこそこの数を採取できた。


「今日調子いいね」


「ええ。結構な頻度で魔物と遭遇するわね」


午前中だけで、かなりの数の魔物を倒すことができた。魔石と様々なドロップ品が集まっている。

お昼頃になると、俺たちは一度ダンジョンを出ることにした。


「お疲れさま。今日順調だったね」


「そうね。午前中だけでもそこそこ稼げたんじゃないかしら?」


俺たちは大扉をくぐって、大通りに出る。


「お昼はどうする?」


「シーカーズバーガーに行かない?この前食べて美味しかったし」


「いいね」


俺たちはシーカーズバーガーに向かった。店内は昼時ということもあって、多くの探索者で賑わっている。

タッチパネルで注文を済ませて、窓際の席に座った。


「今日は何にした?」


「私はテリヤキバーガーにしたわ。鈴木くんは?」


「俺はチーズバーガーにした。ポテトもシェアしよう」


注文した料理が運ばれてくると、俺たちは食事を始めた。


「美味しいね、やっぱり」


「ええ」


黙々と食事をしながら、俺たちは今後のことについて話し始めた。


「そういえば、今日スキルスクロール見に行くでしょう?」


「そうだね、どんなスキルがいいかなぁ」


「常時発動のスキルなんてどう?」


「常時発動か。確かにそれがいいかも、職業スキルぐらいでしか持ってないし」


俺は一之瀬さんの提案に頷いた。


「食べ終わったら、早速スキルスクロール販売所に行っちゃおっか」


「ええ、そうしましょう」


俺たちはハンバーガーとポテトを平らげて、シーカーズバーガーを後にした。


スキルスクロール販売所は、相変わらず厳重な警備が敷かれていた。ガラス張りの建物の入口には警備員が立っていて、中に入ると監視カメラがいくつも設置されている。


俺たちは常時発動スキルのエリアに向かった。そこには様々な種類のスキルスクロールが並んでいる。


《ハイジャンプ》

【分類:常時発動】

跳躍力を大幅に向上させる。


《鉄の拳》

【分類:常時発動】

拳が鉄のように硬くなり、素手での攻撃力が向上する。


《俊足》

【分類:常時発動】

移動速度を向上させる。


《鷹の目》

【分類:常時発動】

視力と動体視力を向上させる。


「色々あるね」


「ええ。どれも魅力的だわ」


俺たちは一つ一つのスキルスクロールを見て回った。どれも基礎能力を向上させる有用なスキルばかりだ。


しばらく見て回っていると、俺は一つのスキルスクロールに目を止めた。


《剛腕》

【分類:常時発動】

腕力と握力を向上させる。


「一之瀬さん、これ見て」


俺は一之瀬さんを呼んで、剛腕のスキルスクロールを指差した。


「剛腕?」


「うん。戦士の一之瀬さんと相性良さそうだけど」


一之瀬さんはスキルスクロールの説明を読んで、考え込んだ。


「確かに良いわね。斧の扱いも楽になりそうだし、攻撃力も上がる」


「でしょ?」


「そうね。このスキルスクロールにしましょう」


一之瀬さんは決断すると、呼び出しボタンを押した。すぐにスタッフがやってきて、購入手続きを進める。


「剛腕のスキルスクロールですね。ダンジョンポイントでのお支払いでよろしいですか?」


「はい、お願いします」


一之瀬さんは探索者用のスマホでバーコードを読み取って、支払いを完了した。


スタッフがガラスケースからスキルスクロールを取り出して、一之瀬さんに手渡す。


「その場でご使用ください」


「はい」


一之瀬さんはスキルスクロールを受け取って、ゆっくりと広げた。巻物から淡い光が放たれて、一之瀬さんの体に吸い込まれていく。


「どんな感じ?」


「すごいわ。腕に力が漲ってくるのが分かる」


一之瀬さんは両手を握ったり開いたりして、効果を確認している。


「これで斧の扱いがもっと楽になりそうね」


「良いね。それじゃ、俺のスキルも探そう」


俺たちは再び常時発動スキルのエリアを見て回った。

俺に合うスキルを探していると、一つのスキルスクロールが目に入った。


《危険察知》

【分類:常時発動】

罠や敵の攻撃を察知し、危険を回避しやすくなる。


「これだ」


俺は危険察知のスキルスクロールを見つめた。

盗賊である俺にとって、罠を察知する能力は非常に重要だ。

敵の攻撃を事前に察知できれば、戦闘でも有利になる。


「危険察知?いいスキルね」


「うん。盗賊には必須のスキルだと思う」


俺も呼び出しボタンを押して、スタッフを呼んだ。


「危険察知のスキルスクロールをお願いします」


「かしこまりました」


同じように購入手続きを進めて、スキルスクロールを受け取った。

巻物を広げて使用する。特に体の変化は感じない、ダンジョンでの感覚が気になるところだ。


「それじゃ、出よっか」


「そうね」


俺たちはスキルスクロール販売所を出て、探索者協会の休憩スペースに向かった。


「アイスでも食べない?口が甘いものを求めてる」


「フフ、私もかも」


探索者協会に入り、アイスクリームを購入した。

俺はバニラ、一之瀬さんはストロベリーを選んだ。


ベンチに座ってアイスを食べながら、俺たちは今日のことを振り返った。


「今日はいい買い物ができたね」


「ええ。これで私たちの戦闘力も向上するわ。

…あっ、そういえば」


一之瀬さんが突然何かを思い出したような表情を見せた。


「明日、私たちの特集が配信される日ね」


「そういえばそうだった!18時からだったね」


俺は霧島さんとの約束を思い出した。シーカーズ・ニュースでの特集番組の配信日だ。


「ええ。せっかくだから、私の家で一緒に見ない?」


一之瀬さんの提案に、俺は少し驚いた。


「大丈夫なの?ご両親とか」


「大丈夫よ。私、今一人暮らしだから」


「そうなんだ!」


俺は一之瀬さんが一人暮らしをしていることを初めて知った。


「なら一緒に見よう。楽しみだなぁ」


「ええ。私も楽しみよ」


俺たちはアイスを食べ終えると、少し早いが今日は解散することにした。


「明日訓練が終わった後に、そのままうちに行きましょ」


「オッケー。明日楽しみだなぁ」


「フフ、何回言うのよ」


俺達は今日手に入れたものを売ると、一之瀬さんを駅まで送って、解散した。

家に帰る電車の中で、俺は明日のことを考えていた。


初めて友達の家に行くことになる。一之瀬さんの家はどんな感じなんだろう。特集はどんな風に仕上がっているんだろう。


考えれば考えるほど、明日が楽しみになってきた。

俺は窓の外を眺めながら、ウキウキとした気持ちで帰路についた。

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