翌朝、俺は早めに家を出て美女木支部に向かった。
昨日の若葉ダンジョンとは違って、今日はいつもの美女木ダンジョンだ。慣れ親しんだ場所での探索は、やはり安心感がある…ような気がする。
美女木支部の前に到着すると、一之瀬さんがすでに待っていた。
「おはよう、鈴木くん」
「おはよう、一之瀬さん。今日も早いね」
俺たちは軽く挨拶を交わして、ダンジョン入口に向かった。
ダンジョンドローンを起動させ、手続きを済ませて美女木ダンジョンの大扉をくぐると、いつもの樹木の香りが鼻をくすぐった。
新緑の匂いと、湿った土の香り、そして鬱陶しいほどの湿気。
「相変わらずの湿気ね」
「うん。ちょっと来たのを後悔してきたかもしれない」
「フフ、私もよ」
俺たちは探索者マップを確認して、探索を開始した。
ジャングルでの探索は順調だった。俺たちの連携も日に日に向上していて、魔物との戦闘もスムーズに進む。
治癒の花や浄化の実などもそこそこの数を採取できた。
「今日調子いいね」
「ええ。結構な頻度で魔物と遭遇するわね」
午前中だけで、かなりの数の魔物を倒すことができた。魔石と様々なドロップ品が集まっている。
お昼頃になると、俺たちは一度ダンジョンを出ることにした。
「お疲れさま。今日順調だったね」
「そうね。午前中だけでもそこそこ稼げたんじゃないかしら?」
俺たちは大扉をくぐって、大通りに出る。
「お昼はどうする?」
「シーカーズバーガーに行かない?この前食べて美味しかったし」
「いいね」
俺たちはシーカーズバーガーに向かった。店内は昼時ということもあって、多くの探索者で賑わっている。
タッチパネルで注文を済ませて、窓際の席に座った。
「今日は何にした?」
「私はテリヤキバーガーにしたわ。鈴木くんは?」
「俺はチーズバーガーにした。ポテトもシェアしよう」
注文した料理が運ばれてくると、俺たちは食事を始めた。
「美味しいね、やっぱり」
「ええ」
黙々と食事をしながら、俺たちは今後のことについて話し始めた。
「そういえば、今日スキルスクロール見に行くでしょう?」
「そうだね、どんなスキルがいいかなぁ」
「常時発動のスキルなんてどう?」
「常時発動か。確かにそれがいいかも、職業スキルぐらいでしか持ってないし」
俺は一之瀬さんの提案に頷いた。
「食べ終わったら、早速スキルスクロール販売所に行っちゃおっか」
「ええ、そうしましょう」
俺たちはハンバーガーとポテトを平らげて、シーカーズバーガーを後にした。
スキルスクロール販売所は、相変わらず厳重な警備が敷かれていた。ガラス張りの建物の入口には警備員が立っていて、中に入ると監視カメラがいくつも設置されている。
俺たちは常時発動スキルのエリアに向かった。そこには様々な種類のスキルスクロールが並んでいる。
《ハイジャンプ》
【分類:常時発動】
跳躍力を大幅に向上させる。
《鉄の拳》
【分類:常時発動】
拳が鉄のように硬くなり、素手での攻撃力が向上する。
《俊足》
【分類:常時発動】
移動速度を向上させる。
《鷹の目》
【分類:常時発動】
視力と動体視力を向上させる。
「色々あるね」
「ええ。どれも魅力的だわ」
俺たちは一つ一つのスキルスクロールを見て回った。どれも基礎能力を向上させる有用なスキルばかりだ。
しばらく見て回っていると、俺は一つのスキルスクロールに目を止めた。
《剛腕》
【分類:常時発動】
腕力と握力を向上させる。
「一之瀬さん、これ見て」
俺は一之瀬さんを呼んで、剛腕のスキルスクロールを指差した。
「剛腕?」
「うん。戦士の一之瀬さんと相性良さそうだけど」
一之瀬さんはスキルスクロールの説明を読んで、考え込んだ。
「確かに良いわね。斧の扱いも楽になりそうだし、攻撃力も上がる」
「でしょ?」
「そうね。このスキルスクロールにしましょう」
一之瀬さんは決断すると、呼び出しボタンを押した。すぐにスタッフがやってきて、購入手続きを進める。
「剛腕のスキルスクロールですね。ダンジョンポイントでのお支払いでよろしいですか?」
「はい、お願いします」
一之瀬さんは探索者用のスマホでバーコードを読み取って、支払いを完了した。
スタッフがガラスケースからスキルスクロールを取り出して、一之瀬さんに手渡す。
「その場でご使用ください」
「はい」
一之瀬さんはスキルスクロールを受け取って、ゆっくりと広げた。巻物から淡い光が放たれて、一之瀬さんの体に吸い込まれていく。
「どんな感じ?」
「すごいわ。腕に力が漲ってくるのが分かる」
一之瀬さんは両手を握ったり開いたりして、効果を確認している。
「これで斧の扱いがもっと楽になりそうね」
「良いね。それじゃ、俺のスキルも探そう」
俺たちは再び常時発動スキルのエリアを見て回った。
俺に合うスキルを探していると、一つのスキルスクロールが目に入った。
《危険察知》
【分類:常時発動】
罠や敵の攻撃を察知し、危険を回避しやすくなる。
「これだ」
俺は危険察知のスキルスクロールを見つめた。
盗賊である俺にとって、罠を察知する能力は非常に重要だ。
敵の攻撃を事前に察知できれば、戦闘でも有利になる。
「危険察知?いいスキルね」
「うん。盗賊には必須のスキルだと思う」
俺も呼び出しボタンを押して、スタッフを呼んだ。
「危険察知のスキルスクロールをお願いします」
「かしこまりました」
同じように購入手続きを進めて、スキルスクロールを受け取った。
巻物を広げて使用する。特に体の変化は感じない、ダンジョンでの感覚が気になるところだ。
「それじゃ、出よっか」
「そうね」
俺たちはスキルスクロール販売所を出て、探索者協会の休憩スペースに向かった。
「アイスでも食べない?口が甘いものを求めてる」
「フフ、私もかも」
探索者協会に入り、アイスクリームを購入した。
俺はバニラ、一之瀬さんはストロベリーを選んだ。
ベンチに座ってアイスを食べながら、俺たちは今日のことを振り返った。
「今日はいい買い物ができたね」
「ええ。これで私たちの戦闘力も向上するわ。
…あっ、そういえば」
一之瀬さんが突然何かを思い出したような表情を見せた。
「明日、私たちの特集が配信される日ね」
「そういえばそうだった!18時からだったね」
俺は霧島さんとの約束を思い出した。シーカーズ・ニュースでの特集番組の配信日だ。
「ええ。せっかくだから、私の家で一緒に見ない?」
一之瀬さんの提案に、俺は少し驚いた。
「大丈夫なの?ご両親とか」
「大丈夫よ。私、今一人暮らしだから」
「そうなんだ!」
俺は一之瀬さんが一人暮らしをしていることを初めて知った。
「なら一緒に見よう。楽しみだなぁ」
「ええ。私も楽しみよ」
俺たちはアイスを食べ終えると、少し早いが今日は解散することにした。
「明日訓練が終わった後に、そのままうちに行きましょ」
「オッケー。明日楽しみだなぁ」
「フフ、何回言うのよ」
俺達は今日手に入れたものを売ると、一之瀬さんを駅まで送って、解散した。
家に帰る電車の中で、俺は明日のことを考えていた。
初めて友達の家に行くことになる。一之瀬さんの家はどんな感じなんだろう。特集はどんな風に仕上がっているんだろう。
考えれば考えるほど、明日が楽しみになってきた。
俺は窓の外を眺めながら、ウキウキとした気持ちで帰路についた。