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第50話 値段

焼きそばを食べ終えた俺たちは、再びダンジョンに向かうことにした。


「午後も探索する?」


「ええ。せっかく来たんだから、もう少し探索しましょう」


「そうだね。でも、あまり無理はしないようにしよう」


「もちろんよ」


俺たちは再び大扉をくぐって、若葉ダンジョンに入った。


「今度はどこに行こうか」


「東側はまだ行ってないわね」


「じゃあ東側にしよう」


俺たちは探索者マップを確認して、東側の通路に向かった。こちらは他のエリアよりも探索者が少ないようで、通路も静かだった。



それからしばらく探索し、数体のスケルトンを倒すと、俺たちは今日の探索を終了した。

俺たちはダンジョンを出ると、買取所に向かった。

中に入ると、午後ということもあって利用者が多いみたいだ。


「結構混んでるね」


「そうね。でも、順番はすぐに回ってきそうよ」


俺たちは空いている端末台に向かった。俺は探索者カードを端末に挿入して、タッチパネルを操作する。

ダンジョンポイントでの受け取りを選択して、黒い板をベルトコンベアの上に置いた。そして、今日手に入れた魔石の半分を板の上に乗せていく。


「魔石は半分だけ売ろっか」


「そうね。ダンジョンドローン用にも取っておきたいし」


次に、俺は亡霊召喚のスキルスクロールと鑑定書を板の上に置いた。


「スキルスクロールも売っちゃうの?」


「うん。Dランクの召喚系スキルだと気力の消費も凄いだろうし、たぶん使いこなせないかな」


「それもそうね」


俺はベルトコンベアのボタンを押した。機械が稼働して、商品を奥に運んでいく。


しばらく待っていると、タッチパネルに精算結果が表示された。

そこには合計で、約84万となった。


「うわ、すげぇ」


俺は思わず声を上げた。一之瀬さんも驚いている。


「84万円…」


「やっぱスキルスクロールは高いねー」


俺は【確定】ボタンを押した。機械が軽く振動すると、精算が完了し、探索者カードを抜き取った。


「今日は大収穫だったね」


「本当にそうね。でも、あの逃げた探索者のおかげでもあるのよね」


「ハハ!確かに。複雑だけど」


俺たちは買取所を出た。外に出ると、夕方ということもあって人混みはさらに増していた。


「すごい人だね」


「夕方の帰宅ラッシュかしら」


人混みの中を歩いていると、俺は一之瀬さんとはぐれそうになった。昼時と同じように、人の波に押し流されそうになる。

俺は咄嗟に一之瀬さんの手を掴んだ。


「あ、ごめん。何も言わずに」


「いいわよ、別に。私のためにやってくれたんだし」


一之瀬さんは素直に俺の手を握り返してくれた。


「明日はどうする?」


俺は歩きながら一之瀬さんに聞いた。


「明日は美女木ダンジョンの方に行きましょう」


「美女木ダンジョン?」


「ええ。若葉ダンジョンも楽しかったけど、やっぱりジャングルエリアでもっと経験を積みたいわ」


「いいね。明日も楽しみだな〜」


俺たちは手を繋いだまま、人混みの中を歩き続けた。

大通りを抜けて、若葉ダンジョン駅に向かう道は少し人が少なくなった。


俺たちは駅に到着した。改札を通って、ホームで電車を待つ。


「今日は本当にお疲れさま」


「こちらこそ。楽しい一日だったわ」


電車が到着して、俺たちは乗り込んだ。車内はそれほど混んでいなく、座席に座ることができた。

俺たちは並んで座って、今日のことを振り返った。


「今日はだいぶ儲けたね」


「ええ。明日、スキルスクロールでも見に行かない?探索終わりにでも」


「いいね!そこそこダンジョンポイントも貯まってるし」


電車は順調に進んで、一之瀬さんの最寄り駅に近づいてきた。


「もうすぐ私の駅ね」


「そうだね」


一之瀬さんは電車の窓から見える夕焼けを眺める。


「なんだか、名残惜しいわね」


「探索楽しかったもんねぇ」


「…そうね。それだけじゃ、無いのだけれど」


隣に座る一之瀬さんと目が合う。夕焼けのせいか、頬が赤く染まっているように見えた。


すると、電車が駅に到着した。一之瀬さんが立ち上がる。


「また、明日もお願いね」


「うん、またね」


一之瀬さんは軽く手を振って、電車を降りていった。俺は窓から一之瀬さんの姿を見送った。


電車が再び動き出すと、俺は一人になった。

俺は窓の外を眺める。夕日が空から沈みかけていて、空全体がオレンジ色に染まっている。美しい夕焼けだった。


(明日も楽しみだな)


俺は心の中でそう呟いた。

今日は本当に充実した一日だった。スキルスクロールで大金を手に入れたことも嬉しいが、それ以上に一之瀬さんと過ごした時間が楽しかった。


電車は俺の最寄り駅に向かって進んでいく。窓の外の景色が流れていくのを見ながら、電車の揺れに身を任せた。






「やべっ、寝過ごした」


探索の肉体的疲労からか寝てしまい、最寄り駅を乗り過ごしてしまった俺は、内心慌てながら次の駅で降りた。

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