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第49話 ドロップ

ダンジョン入口の大扉周辺のエリアに戻ると、多くの探索者が休憩していた。

俺たちも石造りの壁に背中を預けて休憩する。


「ふぅ、ここは湿気が無いだけ良いね」


「ほんとにそうね、湿気が無いだけで気分が違うわ。

まぁでも、儲けは少ないかしらね?」


「そうだね〜、今のところ魔石しか手に入れてないし」


探索者マップを確認しながら一息つく。

周りには俺たちと同じように休憩している探索者が何組もいて、談笑の声が石の壁に反響している。


「次はどっちに行く?」


「そうね。さっきは北側だったから、今度は南側を探索してみない?」


「いいね。南側はどんな感じなんだろう」


俺は探索者マップで南側のエリアを確認する。

北側ほど詳しくマッピングされていないが、それなりに探索されているようだ。


「それじゃ、少し休憩したら行こっか」


「ええ」


俺たちは立ち上がって、南側の通路へ向かった。


南側の通路は北側よりも少し狭く、天井も低めになっている。

壁には北側と同じような古代文字が刻まれているが、こちらの方がより複雑な模様になっていた。


「なんか雰囲気が違うね」


「ええ。より古い感じがするわ」


歩いていると、前方から話し声が聞こえてきた。どうやら他の探索者がいるようだ。


しばらく歩くと、3人組の探索者とすれ違った。全員男性で、俺たちと同じくらいの年齢に見える。

軽く会釈を交わして、俺たちは先に進んだ。


さらに歩いていると、今度は2人組の女性探索者とすれ違った。こちらも俺たちと同じくらいの年齢で、親しみやすそうな雰囲気だった。


俺たちはまた軽く会釈して、それぞれの道を進んだ。


「こっちは結構人が多いのかもね」


「ええ。魔物が少ないかもしれないわ」


通路を進んでいくと、分岐点に差し掛かった。

左右に道が分かれていて、どちらも同じような石造りの通路が続いている。


「どっちに行く?」


「左の方が少し明るく見えるわ」


「確かに。じゃあ左にしよう」


俺たちは左の通路を選んで進んだ。

一之瀬さんの言う通り、こちらの方が燭台の数が多く、明るい感じがする。


歩いていると、また別の探索者とすれ違った。今度は中年の男性で、一人で探索しているようだ。


「お疲れさまです」


「お疲れさま。魔物は出たかい?」


「いや、全然見ないですね」


「やっぱりか。今この辺りは人が多いから、あまり出ないんだよな。外れ引いたなぁ」


中年の男性はそう言いながら去っていった。


俺たちはさらに奥へ進んだが、確かに魔物との遭遇はなかった。

通路には他の探索者の足跡が多く残っていて、頻繁に人が通っていることが分かる。


「本当に魔物が出ないね」


「人が多いエリアだからかしら」


「うーん、このままだと電車代も稼げないかも」


「別のエリアを探索してみる?」


「そうだね。一度大扉まで戻って、別の方向に行ってみよう」


俺たちは来た道を引き返すことにした。せっかく若葉ダンジョンまで来たのに、魔物と戦えないのは少し物足りない。


大扉に向かって歩いていると、前方の曲がり角から突然大きな悲鳴が聞こえてきた。


「うわああああああ!!」


「なんだ?」


俺と一之瀬さんは驚いて立ち止まった。悲鳴は男性の声で、明らかに恐怖に満ちている。


その直後、曲がり角から一人の男性探索者が全力で走って現れた。

20代前半くらいの男性で、顔は青ざめ、息を荒くしながら俺たちの前を通り過ぎようとする。


「ちょっと、どうしたんですか!」


俺が声をかけたが、男性は振り返ることなく走り去っていく。


「助けて!スケルトンが!たくさん!」


男性の叫び声が通路に響く。そして、その直後に俺たちの前に現れたのは、十数体のスケルトンの群れだった。


「うっそだろ…」


剣を持つスケルトンが8体、槍を持つスケルトンが5体、弓を持つスケルトンが2体、合計15体のアンデッドが俺たちの前に立ちはだかった。


スケルトンたちは逃げていった男性を追いかけていたが、俺たちに気づくと一斉にこちらを向いた。

青白い光を宿した眼窩が、俺たちを見据えている。


「うわっ、押しつけられたんだけど」


俺は軽く悪態をつきながらサーベルを構える。


「やるしかないわね」


一之瀬さんも斧を構える。

スケルトンたちは一斉に俺たちに向かって突進してきた。

剣を持つスケルトンが前列に、槍を持つスケルトンが中列に、弓を持つスケルトンが後列に陣形を組んでいる。


「『ライトニング』」


俺は前列のスケルトンに向けて雷撃を放つ。電撃が剣を持つスケルトンに命中し、1体が光となって消えた。

一之瀬さんも別のスケルトンに向かって斧を振り下ろす。

斧がスケルトンの頭部を直撃し、骨が砕ける音と共に光となって消えた。


しかし、残りの13体はまだまだ健在だ。剣を持つスケルトンが俺に、槍を持つスケルトンが一之瀬さんに向かってくる。


俺たちは背中を合わせて、四方から迫ってくるスケルトンたちに対応した。


剣を持つスケルトンが俺に斬りかかってくる。

俺はサーベルで受け止めて、反撃で胸部を貫いた。スケルトンは光となって消える。


一之瀬さんも槍を持つスケルトンの攻撃を斧の柄で受け止めて、カウンターで頭部を粉砕した。


後列の弓を持つスケルトンが矢を放ってくる。俺は咄嗟に身を屈めて回避する。矢は石の壁に突き刺さった。


「弓が厄介だ!」


「先に後ろの弓を倒しましょう!」


俺たちは連携して、後列の弓を持つスケルトンに向かった。しかし、前列と中列のスケルトンが邪魔をしてなかなか近づけない。


「『ライトニング』」


俺は弓を持つスケルトンに向けて雷撃を放つ。電撃が命中し、1体の弓スケルトンが光となって消えた。

残りの弓スケルトンがまた矢を放ってくる。今度は一之瀬さんを狙っていた。


俺は一之瀬さんを押し倒して、矢を回避させた。


「ありがとう!」


「どういたしまして」


俺たちはすぐさま立ち上がって、再び戦闘を続けた。剣と槍を持つスケルトンが次々と攻撃してくる。


一之瀬さんが槍を持つスケルトンの攻撃を受け流して、反撃で胴体を両断した。

俺も剣を持つスケルトンの攻撃をかわして首を斬り飛ばした。


「あと8体ぐらい!」


しかし、残りのスケルトンたちも必死に攻撃してくる。俺たちは徐々に疲労が蓄積してきた。

最後の弓スケルトンが矢を放ってきた。俺は矢の軌道を読み、ギリギリで回避する。


「『ライトニング』」


俺の雷撃が弓スケルトンに命中し、最後の遠距離攻撃手が光となって消えた。


「よし、後は近接だけ!」


残りは剣を持つスケルトン4体と槍を持つスケルトン3体の合計7体だ。

俺たちは息を合わせて同時に攻撃を仕掛け、2体のスケルトンを倒した。


一之瀬さんも斧で槍を持つスケルトンを粉砕し、続けて剣を持つスケルトンの頭部を斧で砕いた。


「あと3体!」


「任せて! 『ビーストクロー!!』」


一之瀬さんの左手に光の爪が現れる。そして左手を大きく振りかぶって5本の斬撃を放った。

その斬撃は3体のスケルトンをまとめて倒し、光へと変えた。


俺たちは息を荒くしながらも、笑みを浮かべてハイタッチをする。


「ナイス!すごい数だったね」


「ええ。でも、何とか倒せたわ」


「ね。いやぁ疲れた、てかビーストクローまじでカッコいいね」


「フフ、ありがと」


俺たちは散らばっている魔石を拾い集める。


「あ!スキルスクロールよ!」


「え!まじ!?」


一之瀬さんが声を上げたので見に行くと、そこには確かにスキルスクロールがドロップしていた。


「うおぉ…ドロップしたのは初めてだなぁ」


「私もよ。でも、どんなスキルかは鑑定してもらわないと分からないわね」


「そうだね。いったん戻って、昼休憩がてら探索者協会で鑑定してもらおっか」


「ええ、そうしましょう」


俺たちは魔石とスキルスクロールを回収して、大扉に向かって歩き出した。

歩いている途中で、俺は探索者用のスマホを取り出した。


「そういえば、さっきの件を探索者協会に報告した方がいいかな」


「そうね。一緒に戦うならまだ良かったんだけど…ね」


俺はスマホの探索者協会アプリを開いて、報告フォームに先ほどの出来事を入力した。

これでドローンの配信映像も含めて判断してくれるだろう。


「送信っと…それにしても、ここまで魔物が見つからなかった南側であれだけのスケルトンに追われるなんて、逆に運が良いよね」


「確かにそうね?」


俺たちは大扉に到着した。ダンジョンを出ると、人混みは朝よりもさらに増していた。


「すごい人…」


「お昼の時間だからかしらね」


人混みの中を歩いていると、俺は一之瀬さんとはぐれそうになった。


「はぐれないように手繋ごっか」


俺がそう提案すると、一之瀬さんは一瞬黙った。そして軽く頷いて答えた。


「ええ、そうね」


俺たちは手を繋いで、人混みの中を歩いた。一之瀬さんの手は思ったより小さくて、少し冷たかった。


少し歩くと探索者協会若葉支部に到着した。建物の中も外と同じように人が多く、受付カウンターには長い列ができている。

俺たちはそのまま鑑定所に向かう。


こちらは受付カウンターほど混んでいないが、それでも数人の探索者が順番を待っている。

少し待って、俺たちの番が回ってきた。


「スキルスクロールの鑑定をお願いします」


「スキルスクロールですね。探索者カードをお見せください」


俺は探索者カードを渡した。受付の女性は端末にカードを通して、何かを確認してからカードを返してくれた。


「ありがとうございます。それでは鑑定させていただきますね」


女性はスキルスクロールを受け取って、奥の作業室に運んだ。白衣を着た男性がスキルスクロールを専用の機械に入れて、何かの操作をした。


機械が稼働して、紙が1枚出てきた。白衣の男性は記録用のカメラでスキルスクロールを撮影してから、受付に戻ってきた。


「お待たせしました。こちらが鑑定結果になります」


受付の女性が紙を渡してくれた。


ーーーーーーーー

《亡霊召喚》

効果:武器を持った亡霊を3体召喚し、一定時間戦わせることができる。

持続時間:3分間

ランク:D

ーーーーーーーー


「へぇー、亡霊召喚だって」


「ええ。召喚系のスキルは珍しいわね」


俺たちは鑑定結果を確認して、スキルスクロールを受け取り鑑定所から離れた。


「お腹空いたわね。何か食べましょうか」


「そうだね」


俺たちは協会の外に出て、大通りの屋台を見て回った。

焼きそば、たこ焼き、唐揚げなど、様々な食べ物が売られている。

人もかなり多く、まるで祭りみたいだ。


「何にする?」


「俺は焼きそばにしようかな。一之瀬さんは?」


「私も焼きそばにするわ、2つ頼みましょ」


俺たちは焼きそばを2つ注文して、近くのベンチに座って食べた。


「うん、美味しい」


「ええ。そういえば、スキルスクロールはどうするの?」


「まぁ売るかな、俺らが持ってもしょうがないし。売ったお金で何か新しいスキル買ったほうが良いでしょ」


「まっ、そうよね」


俺たちは黙々と食事をして、しばらく雑談をしながら休憩をした。

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