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第48話 アンデッド

金曜日の授業が終わると、俺は一之瀬さんに声をかけた。


「一之瀬さん、明日若葉ダンジョンに行かない?」


「若葉ダンジョン?」


一之瀬さんは少し驚いたような表情を見せた。


「そう。この前1人で行ったんだけど、せっかくなら一之瀬さんとも行きたいなって」


「…なるほど、確かに私も興味はあったのよね。良いわ、行きましょう」


「やった!じゃあ早朝に若葉ダンジョン駅で集合しよう。7時ぐらいでどう?」


「7時ね。分かったわ」


俺たちは教室を出て、廊下を歩きながら軽い雑談を始めた。


「そういえば俺、速のステータスが20を超えたんだ」


「凄いじゃない。私も力が20を超えたのよ」


「マジで?それはだいぶ頼りになるなぁ」


「その代わり、速と守があまり鍛えられてないんだけどね」


俺たちは基礎訓練施設に到着すると、入口で立ち止まった。


「それじゃ、今日はここで解散だね」


「ええ。明日よろしくね、鈴木くん」


「うん!楽しみにしてるね〜」




翌朝、俺は6時半に若葉ダンジョン駅に到着した。約束の時間より少し早めに着いたが、すでに多くの探索者が駅前に集まっている。


「鈴木くん!」


振り返ると、一之瀬さんが手を振りながら歩いてきた。


「おはよう、一之瀬さん。早いね」


「おはよう。私も少し早めに来たの」


「毎回ちょっと早めに来ちゃってるよね。2人して」


「フフ、そうね。そういえば、電車に乗りながら調べてたんだけど、今日の若葉ダンジョンはアンデッド系がメインで出てくるみたいよ」


一之瀬さんがスマホを見ながら言った。


「アンデッドかぁ、スケルトンとかゾンビとか?」


「そうね。動物系のアンデッドも出るみたいよ」


「へぇ〜、アンデッドはスケルトンぐらいしか戦ったことないなぁ」


そんなことを話しながら、俺たちは人の流れに乗って探索者協会若葉支部の方向へ歩き出した。


探索者協会若葉支部の敷地内にあるダンジョン入口に続く大通りは、相変わらず賑わっていた。

朝とは思えないほどの人混みだ。


「凄い人ね」


「やっぱ人気だよね〜」


歩いている途中、ポーションを売っている店を見つけた。俺たちは興味深そうに近づいてみる。


「ポーションいかがですかー!」


店員が元気よく声をかけている。俺は値段を確認してみた。


「一番安いのでも1つ20万か、やっぱポーションって高いね」


俺がそう言うと、一之瀬さんが説明してくれた。


「効果がしっかり出るまでには、結構な量の治癒の花と浄化の実を使うらしいわよ。

非戦闘職の調合師じゃないと作れないっていうのもあるみたいね」


「なるほどなぁ」


俺たちは店を後にして、再び大通りを歩き続けた。

しばらく歩いていると、ダンジョン入口の大扉にたどり着いた。俺たちは列に並んで、ダンジョンドローンを起動させて待つ。


列の進みは早く、10分ほどで俺たちの番が回ってきた。

手続きを終わらせると、俺たちは大扉をくぐってダンジョン内に入った。


今日の若葉ダンジョンは、薄い霧が漂っていて、照明に青い炎が壁に付いている。


「幻想的ね」


「うん。気味悪いけど、なんか綺麗だね」


俺たちは探索者マップを確認して歩き出した。マップには他の探索者が記録した簡易的な地図が表示されている。


「西側があまり探索されてないみたいね」


「そうだね。でも、逆に探索されてるところのほうが人が少なかったりするんだよね」


「なるほど。それじゃあ、結構探索されてるのは北側かな?」


「そうっぽいね。それじゃ、行こっか」


「ええ」


俺たちは北側の通路へ向かった。通路の入口はアーチ状になっていて、古代文字のようなものが刻まれている。


以前来た時と同じように、一歩踏み込むと湿った石の匂いが鼻をつき、ひんやりとした冷気が肌にまとわりつく。


「やっぱり迷宮型は独特の雰囲気があるね」


「ええ。トラップもあるかもしれないから、気をつけましょう」


俺たちは慎重に足を進める。視線は常に前方と床、そして天井の順に巡回させる。

そして周囲の異変に注意を払った。

少し歩いたところで、通路が左右に分岐していた。


「どっちに行く?」


「右に行ってみましょうか」


「おっけー」


俺たちは右の通路を選んで進んだ。石畳の床は古く、所々にひび割れが見える。

壁には枯れかけているような蔦が這っていて、より一層古代遺跡らしい雰囲気を醸し出していた。

歩いていると、前方から骨の擦れ合う音が聞こえてきた。


「来たね」


俺はサーベルを、一之瀬さんは斧を構える。現れたのは剣を持つスケルトンが2体だった。

スケルトンは俺たちを見つけると、カタカタと骨を鳴らしながら剣を掲げて走ってくる。


「『ライトニング』」


俺の左手から放たれた細い紫の雷が、先頭のスケルトンの胸部に直撃する。電撃が骨格全体に走り、スケルトンは崩れるように倒れて光となって消えた。


一之瀬さんも負けじと、残りのスケルトンに向かって斧を振り下ろす。

斧がスケルトンの頭部を直撃し、骨が砕ける音と共にスケルトンも光となって消えた。


「やったね」


「ええ。スケルトンは耐久がないからまだ楽ね」


俺たちは魔石を拾って、さらに奥へ進んだ。

通路は徐々に下り坂になっていて、空気がさらに冷たくなってきた。足元の石畳も微かに湿っている。


「滑らないように気をつけて」


「うん」


慎重に進んでいると、今度は違う音が聞こえてきた。

カタカタという骨の音に混じって、何かが床を駆ける音だ。


「何か来る」


俺が気配察知で感じ取った瞬間、通路の向こうから白い影が飛び出してきた。

現れたのは犬の骨格をしたアンデッドだった。サイズとしては大型犬ぐらいか。

眼窩には青白い光が宿り、牙を剥き出しにして俺たちに向かってくる。


「スケルトンドッグね。俊敏な動きに注意」


「了解」


スケルトンドッグは素早い動きで俺に飛び掛かってきた。俺は咄嗟にサーベルを横に構えて防御する。


ガキン!


牙とサーベルがぶつかり合う音が響く。スケルトンドッグの力は思ったより強く、俺は数歩後ろに押し戻された。


一之瀬さんがすかさず横から斧を振るったが、スケルトンドッグは素早く跳躍して避け、壁を蹴って着地する。

そのまま低い体勢でぐるりと回り、再び俺を狙って突っ込んできた。


俺は地面を蹴って後退しながら、左手をスケルトンドッグに向けた。


「『ライトニング』!」


雷撃がスケルトンドッグに向けて放たれる。だが奴は魔法スキルを察知したのか、跳躍して回避した。

電撃は壁に弾け、青白い閃光を迷宮に反射させる。


スケルトンドッグが着地した瞬間を狙って突撃する――が、先に動いたのは一之瀬さんだった。


「こっちよ!」


彼女は声を張り、わざと足音を立ててスケルトンドッグの注意を引いた。

それに乗った犬型アンデッドが標的を切り替え、牙を剥いて突進する。


俺は奴の背後から駆け寄り、サーベルを構えて思いきり背中に突き立てた。

骨が砕ける手応えとともに、スケルトンドッグがぐらつく。


そこへ一之瀬さんの斧が、正面から振り下ろされた。

正確に頭蓋骨を砕き、青白い光がスーッと消えていく。


骨が地面に散らばり、スケルトンドッグは崩れ落ちて光となった。


「ふぃー…」


俺は肩で息をしながら、サーベルを下ろす。


「ナイス、結構強かったね」


「ええ。表層領域とはいえ、やっぱり油断はできないわね」


俺たちは落ちた魔石を拾い、再び前方を警戒しながら歩き始めた。

通路は徐々に広くなり、天井も高くなってきた。空間の変化に気づいた俺たちは、足を止めて周囲を確認する。


「…少し開けてきたわね。ホールかも」


「うん。魔物はいなそうかな」


俺は探索者マップを確認する。大扉からは大して離れていない。


「まだ浅いし、この辺も探索されてるね。でも、何かしらありそうだな」


「ええ。警戒しつつ、壁に沿って進みましょうか」


「そうだね」


俺たちは互いに頷き合い、壁に沿って慎重に歩き出す。

ホールの空間は四方が石壁に囲まれていて、中央の天井には豪華なシャンデリアが吊るされている。


「なんでシャンデリア?」


「さぁ?綺麗ではあるけど」


そんな疑問を口にしつつ進むと、壁沿いに通路を見つけた。


「ここ進もっか」


「そうね」


通路は少し広く、壁には古い壁画のようなものが描かれていて、そこには人と様々な魔物の戦いが描かれていた。


「ダンジョンのこういう明らかに人工物みたいなの、面白いわよね」


「んね…結局ダンジョンって何なんだろ」


「異世界からの遺物だったり、人々の空想から出来上がったものだったり、色んな説があるわよね。

未だに何も分かっていないけど」


そんなことを話しながら進んでいると、先に複数の敵が待ち受けていた。


「うわ、多いね」


通路の先には剣を持つスケルトンが3体、槍を持つスケルトンが2体、合計5体のアンデッドが並んでいた。


「数が多いけど、連携で行きましょう」


「うん。一之瀬さんは正面、俺は横から叩くね」


「了解」


一之瀬さんは返事をすると、先に踏み出して堂々とスケルトンたちの前に立ちはだかった。

俺は壁際を走り出し、足音をできる限り抑えて距離を詰めていく。


一之瀬さんが斧が振るう。剣スケルトンの一体が斬撃を受けて崩れ落ちた。

他の4体は一斉に反応し、一之瀬さんに向かって槍と剣で攻撃しようと接近。


その瞬間、俺は横から一気に飛び込んだ。


まずは後列の槍スケルトンに狙いを定め、足元に滑り込むようにして接近。

サーベルを振り上げ、膝関節を斬りつける。


ガキン、と硬い骨の感触が手に伝わると同時に、スケルトンの体勢が崩れる。追撃で胸部を貫くと、青白い光が弾けてそいつは光となって消えた。


「ナイス、残り三体!」


一之瀬さんの声が飛ぶ。


俺が振り返ると、彼女の斧が剣を持つスケルトンを振り払っているところだった。

しかし、もう一体の槍スケルトンが背後から狙っている。

俺は左手を向ける。


「『ライトニング』!」


紫の雷が一直線に飛び、槍を持つスケルトンの背中に直撃した。骨が痙攣し、光となって消える。

その間に一之瀬さんが最後のスケルトンの頭を斧で粉砕した。


「ありがとう、助かったわ」


「どういたしまして」


俺たちは魔石を回収して、探索者マップを確認する。


「そろそろ引き返そうか。あまり深く行きすぎるのも危険だし」


「そうね」


俺たちは来た道を戻り始めた。途中、3体のスケルトンと遭遇したが、難なく倒すことができた。


ダンジョンの入口エリアに戻ると、多くの探索者が休憩していた。

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