6月中旬。
梅雨入りが発表されてから数日が経ち、今日も朝から小雨がぱらついている。
湿度が高くて、制服のシャツが肌にまとわりつくような感覚が不快だ。
俺は授業を終えると、いつものように基礎訓練施設に向かった。
基礎訓練施設に入ると、冷房の効いた空気が心地よく肌を撫でる。
しばらく速の訓練をした俺は、真っ先に鑑定機のあるエリアに向かった。
鑑定機の前に立つと、学生証を挿入して手のひらを読み取り部分に置いた。
機械が軽く振動し、画面にデータが表示される。
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〔鈴木海斗 年齢:16歳〕
〔職業:盗賊 Lv.5〕
[力:12][守:9][速:20][気:11][運:4]
〔職業スキル〕
[忍び足]
[気配察知]
〔任意発動スキル 3/10〕
[ライトニング Lv.4]
[気配遮断 Lv.2]
[斬撃強化 Lv.2]
〔常時発動スキル 0/5〕
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「うん。結構いったな」
思わず声が漏れた。
速が20に到達している。これは大きな節目だ。
そして気も11まで上がっている。
力と守も順調に上がっているし、各スキルのレベルも着実に向上している。
特にライトニングがレベル4になったのは嬉しい。最近は気の訓練で使いまくってたからな。
「よし」
俺は安堵のため息をついた。
努力の成果がしっかりと数値に現れている。
これなら鬼龍先生への月次報告でも胸を張って報告できる。
俺は鑑定機から学生証を取り出し、教室に向かった。
教室に入ると、鬼龍先生は机に向かって何かの書類を整理していた。
顔を上げると、いつもの淡々とした表情で俺を見る。
「鈴木か。努力成果の提出か?」
「はい。ステータスの上昇値でお願いします」
俺が学生証を渡すと、鬼龍先生は机の上にある端末に学生証を差し込んだ。
そして確認していく。
「ふむ…速が20、気が11まで上がったか。他のステータスも悪くない。
今月の努力成果はこれで良いだろう、引き続き努力を怠るなよ」
「はい。失礼します」
俺は教室を出て、廊下を歩いていた。
(報告も無事に終わったし、今日は早めに帰ろうかな)
そんなことを考えながら学園の正門に向かっていると、リュックのポケットに入れてあったスマホから着信音が鳴り響いた。
俺は立ち止まって、スマホを取り出した。
画面を見ると、見覚えのある名前が表示されている。
「霧島さんだ」
シーカーズ・ニュースの記者、霧島さんからの着信だった。
以前取材を受けて、新人特集の企画について話していたが、あれからしばらく連絡がなかった。
俺は通話に出る。
「もしもし、鈴木です」
『鈴木さん!お疲れさまです!シーカーズ・ニュースの霧島です!』
相変わらずのテンションの高さに、俺は思わず苦笑した。
「こんにちは。どうかしました?」
『実はですね!例の新人特集企画の件で、とても良いお知らせがあるんです!』
「良いお知らせ?」
『はい!鈴木さんと一之瀬さんを取り上げた短編映像が完成したんです!』
「お、完成したんですね」
思っていたより早いな。
『はい!編集部が気合を入れて作ってくれまして!
タイトルは『新星探索者の軌跡 〜チーム・ツインブレードの挑戦〜』になりました!』
「チーム・ツインブレードって…俺たちのチーム名まで調べたんですね」
『もちろんです!それで、映像の内容なんですが、この前話した通り取材でお話しいただいた内容と、探索Lifeでの配信映像を組み合わせて、約15分の短編ドキュメンタリーに仕上げました!』
俺は正門の近くのベンチに座った。
雨が少し強くなってきたが、屋根があるので大丈夫だ。
「それで、その映像はいつ公開されるんですか?」
『来週月曜日の18時にシーカーズ・ニュースの公式チャンネルで配信予定です!』
「分かりました。ありがとうございます」
『こちらこそ!本当に素晴らしい映像になりましたので、ぜひ楽しみにしていてください!
一之瀬さんにも同じ内容をお伝えしますね!』
「はい、よろしくお願いします」
通話が終わると、俺はスマホを見つめた。
短編映像が完成したのか。
自分たちの探索の様子がどんな風に編集されているのか、正直気になる。
「今更ながら、すごいことになってきたな」
俺は小さくつぶやくと、ベンチから立ち上がり、雨の中を歩き始めた。
傘を差しながら家に向かう途中、ふと空を見上げた。
雨雲の隙間から、薄っすらと青空が見えている。
「明日は晴れるかな〜」
そんなことを言いながら、俺は帰路についた。