「ニコラの爺さんなんだって?」
「訓練も良いけどもっと遠くでやれって」
今日の訓練を終えたリザたちは、夕方アイトーロルに戻るや否やニコラに呼び出されたんです。
代表してリザとアレクが話を聞いて来たんですけど──
『ドンドコドンドコ爆発さすな! いちいち様子見に出なきゃならんトロルナイツの事も考えよ!』
──だそうです。ニコラの言い分ももっともなんですよね。
主に爆発音の理由はレミちゃんの魔術ですけど、リザの戦斧やジンさんの人間離れしたパンチが地面を抉る音も爆発音が轟いていましたから。
「本当にごめんなさいね」
「いやいや、姫さんが
「──なんっでジンが言うんだよ! 絶対それ僕がカッコ良く言うやつだよ!」
誰が言っても同じだと私は思いますし、ジンさんもそう思っているらしいですけど、こう見えて──いえ、そう見えてますけど──大人ですからね。
「悪かった悪かった。別にカッコ良くねえとは思うがよ、言いたきゃ言えよ。姫さん、頼む」
「本当にごめんなさいね」
「良いよ良いよ! リザが悪い訳じゃないし、ニコラ爺やさんの言う事も分かるからさ!」
やり直させて貰った割りに、あれ? っとアレクが首を捻っています。
「別にあんまりカッコ良くない?」
「だから言っただろうが」
二人のやり取りに、ぷーっとリザが吹き出しました。
笑われた二人が一瞬顔を見合わせて、同時にリザの顔へと視線を遣ります。
「なんでぇ、なんか可笑しかったか?」
「僕たち変なこと言った?」
「だってお二人とも、とっても仲良しなんですもの」
そう言ったリザに返した二人の言葉が重なって──
「仲良くなんてねぇよ」「仲良くなんかないよ」
「「普通だよ、普通」」
──そして全く同じ言葉を続けました。
ぷーっと再び吹き出すリザ。
そして再び二人が顔を見合わせました。
「お腹、空いた」
今のやり取りの間、実はずっとジンさんの肩の上でうつ伏せに乗っかっていたレミちゃんが唐突に言います。
「そうだね、夕飯にしよ! リザも行くよね!?」
「ええ、ご一緒させてください」
リザはアイトーロル王の計らいでトロルナイツ
愛する孫との夕食は王も毎日楽しみにしていましたから、
……団長と断腸を掛けたとか、そんなお寒い事を言ったつもりはありませんからね! 決してありませんからねっ!
その後ロンとカコナも合流し、一番亭の一階食堂で賑やかに夕食を摂り、食後のまったりした時間に突然ロンが頭を下げました。
「すまんが、やはり俺たちもロステライドへ赴こうと思う。但し別行動でだ」
「どういう事?」
今朝、私も交えて
「以前に『魔王の種』の話はしたな?」
ジンさんだけは表情で『?』を示しています。
そう言えばその話題、魔の棲む森でキショい魔族(弟)を倒した時ですものね。
ジンさんが何をしていたのかうろ覚えですが確かに居ませんでした。カルベさんと二日酔いでしたっけ?
そう言えばレミちゃんも貧血で居なかった筈ですが、昨夜のムフフの折にでも話題が出たのでしょうね。
しかしロンは気にせず話を続けます。
「弟に奪われた魔王の種、俺はそれを取り戻そうと考えている。しかしその為には、魔王ジフラルトが死ぬ際にその身から抜け出る『種』を
「掴む? そんな事ができるものなの?」
「出来る──出来る筈だ。実際に俺から抜け出た種を我が弟が掴み、飲み込むのを目の当たりにしたのだから」
ジンさんを放置して話は進みます。
「けれども一緒に行っては足手まといにしかならん。だからな、お前たちがジフラルトを倒す時、そーっと近付いて、こそーっと『種』を掴みたいのだ」
ロンの言葉選びが突然可愛いですね。
きっとその部分はカコナのアイデアなんでしょうね。
「なるほど。上手くいくかどうかは別にしても、発想は悪くないよね。ロンはロステライドの道に詳しいだろうし、カコナの
「──問題は、そうまでしてオメエは魔王に戻りたいのか、って事だ」
再びジンさんに良い所をとられて、ぷーっとアレクがまた頬を膨らませます。
ジンさんもなんとなく話題の『種』を理解した様ですね。
「全くもって戻りたくない。俺は今の俺を気に入っている」
「なら──」
「俺がやらなければ──! 俺が魔王に戻らなければ、魔族と人族の戦いは終わらんのだ!」
私が今朝聞いた、ロンの決意は堅いようですね。
「……オメエは? それで良いんかよ?」
「良い。何がどうなっても、レミはロン様と一緒にいる」
…………レミちゃんの決意も、負けず劣らず強固な様ですね。
ぼ・く・も、り・ざ・と・いっ・しょ・に・い・る・よ!
わ・た・く・し・も・あ・れ・く・と!
みんなにバレない様にこっそり口パクでイチャつく、まだ付き合ってもない筈の二人が居ますね。
二人とも顔真っ赤で初々しすぎて、見てるこっちが赤面しちゃいます。ちなみにみんなにバレてますからね。
両掌を上に向け、肩を竦めたジンさんが言います。
「はぁ〜あ。分かった、好きにしろよ。けどよ、やるからには失敗すんじゃねぇぞ」
こくり、とロンが力強く頷きます。
ロンにもしっかり伝わったと思いますよ。
言外に含んだ、『レミを泣かすなよ』というジンさんの気持ちも。