目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

抹茶飲みバトル

 抹茶が城内で広まり、毎日飲むのが当たり前になっていた。もちろん、信長の自費だ。庶民には抹茶を買えるようなお金はない。しかし、抹茶推進令により人口が爆発的に増えたのだから、それなりのリターンはあるのかもしれない。



「なあ、利休」



「はい、なんでございましょうか」



 なんだか、嫌な予感がする。信長節炸裂の時間か? この頃、抹茶への愛がエスカレートしている。何を言い出すか分からないぞ。



「茶会を開きたい」



「茶会……ですか」



 あれ、この前やったじゃないか。信長、ボケが始まったか?



「それも、ただの茶会ではない。題して『抹茶飲み大会』だ!」



「殿、具体的にはどんな大会で?」



「北の国では『わんこそば』なるものを食べて量を競うと聞いた。それを抹茶でやる」



 なるほどね。面白い考えだ。さすが信長。待てよ……。



「殿、もしかして抹茶を立てるのは私だけでしょうか」



「当たり前だろう? 利休以外に茶道に通じている者はいない」



 参加者何人か知らないけど、抹茶を飲み干すなんて五秒もかからないぞ。つまり、五秒以内に抹茶を立てる必要がある。いやいや、それ無理ゲーですって! なんとかしないと、俺が過労死するわ。



「あのー、参加者は何人で……?」



「秀吉、光秀、勝家の三人だ」



 死ぬ、間違いなく死ぬ。秀吉の切腹命令より早く死ぬの確定。何か手立てはないのか。



「提案ですが、抹茶を立てるのも競技の中に組み込んでは? つまり、飲むばかりでは茶道は広まりませんから」



 信長は何やら考え込んでいる。さあ、俺の案を採用するんだ。



「よし、分かった。利休の案を取り入れる」


**


 多くの武将が見守る中、いよいよバトルが始まろうとしている。抹茶飲み大会というくだらないバトルが。



「さて、皆のもの。ここにいる三人は利休から抹茶の立て方を教えてもらっている。ただ量を飲むのではなく、立て方も評価の対象とする」



 さすがだ。量飲めばいいなら適当に混ぜたフリすれば済むからな。



「では、抹茶飲み戦を開始せよ!」



 三人の武将は茶器を手に抹茶を立て始める。明智光秀は、そつなくこなす。しかし、他の二人は違う。柴田勝家は戦は得意だが、この手のものは苦手らしい。秀吉はというと……。ハンドスピナーのように指先で茶器を回し、効率よく茶を立てている。腕を使わずして茶を立てるのは、柔軟な発想力の秀吉だからこそだ。



「秀吉! きちんと茶を立てろ。それは茶道を侮辱する行為にあたる」



「殿、申し訳ございません」



 各々、抹茶を飲んでいくが問題が一つ。抹茶の量が足りない。これ、決着つく前に引き分けで終わるのでは? と思った瞬間、抹茶切れに。



「ふむ、これは引き分けとするしかあるまい」



**


「殿、呼び出しの理由とは……?」



 そう、俺は信長に呼び出されていた。「抹茶飲み大会」の翌日に。なんかやらかしたか?



「昨日の競走は実に面白かった。が、問題点が一つ出てきた」



 信長は何やら真剣な顔つきだ。



「三人とも、腕がイカれてしまった」



「えーと、どういうことですか」



 いやいや、抹茶立てるだけで腕がイカれるわけないでしょうよ。



「つまり、力を入れて混ぜたがゆえに、腱鞘炎になったのだ。まったく、情けない」



 あー、なるほどね。俺も最初はなったわ、腱鞘炎。あれになると、刀持つなんて無理でしょ。



「奴ら、すぐに戦に出るのは無理だろう。だかが、一つ学びになった。常日頃から茶道を嗜んでいれば、こうはならん。茶道は侘び寂びを学ぶと同時に、手首の筋肉を鍛えるのにも役立つ。よって、抹茶飲み大会を毎月催す。さて、利休よ。他の者にも立て方を教えるのだ」



 なんだか、本来の茶道から離れつつある気がするが。まあ、信長は抹茶に関してはこうだから仕方あるまい。後世に語り継がれれば、抹茶ブーム間違いなしだ。「抹茶健康法」なんてフレーズで。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?