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ダンジョンの掃除係だったのにある日最強になりました
ダンジョンの掃除係だったのにある日最強になりました
六山葵
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年04月28日
公開日
1.7万字
連載中
ダンジョン最先端国、日本。突然小さな島国に現れた未知の遺物は人々に富と繁栄をもたらしていた。探索者と呼ばれる者達が攻略を進め、ダンジョンから遺物を持ち帰還する時代に主人公ラクはダンジョン内の魔物の片付けをする仕事「掃除係」よして働いていた。 ある日、探索者一行の後について仕事をしていたラクに不運が降りかかる。魔物の群れに襲われたのだ。絶体絶命の窮地。助かる術が見つからない最中にラクは巨大な魔石を発見するのだった。

第1話

技術先進国。あるいはアニメ先進国。それらが極東の島国日本が世界に誇れるものの一端だった。

次代は巡る。いつまでも一番ではいられない。

日本が文化を伸ばそうとする裏で他国もまた伸ばそうとするのだから。


そして今、日本にはもう一つ誇れるものができた。

世界では日本をこう呼ぶようになった。「ダンジョン先進国」と。


ダンジョンがもたらす物は大きい。未知の資源。未知のエネルギー源。未知の技術。

日本に無数に出現した未知の遺跡、ダンジョンは発展と繁栄のきっかけになった。


人々はダンジョンに潜り、攻略し、資源を持ち帰る。「探索者」になったのである。



「おっ。ラッキー。赤の魔石だ」


東京。渋谷ダンジョンの奥深く。

探索の最前線で一人の男が感嘆の声を漏らす。つまんだ赤い宝石のような石が光っている。


「おい、中川。後にしろ。まずは殲滅したか確認してからだ」


探索チーム「冴島隊」のリーダー、冴島はそう言って中川をたしなめた。中川は少し不満そうに「はいはい」と返事をする。


冴島隊のメンバーは五人。そのうち戦えるのは四人だけ。今は数回目の戦闘を終えたところだった。

冴島を筆頭にそれぞれが倒れた魔物に剣を突き刺していく。


倒したと思った魔物がまだ生きていて、戦利品を回収しているときに不意打ちを食らうというのはダンジョン内ではよくある話だった。

油断大敵。それがダンジョンを攻略する探索者たちのモットーである。


しっかりと全部の魔物にを指してから冴島は戦利品の回収を命じた。

倒した魔物には使える部分が多い。種族によって違うが、牙や角。羽や骨なんかも素材になり得る。

その素材をもとに武器や防具、攻略を楽にするアイテムなんかを作るのだ。


冴島隊のメンバーたちは慣れた手つきで魔物を解体し、あっという間に素材を集めていく。


「取り忘れるなよ。魔石は回収したら俺のところに集めろ。後で分配する」


冴島が言った。

「魔石」とはその名前の通り、魔力を秘めた石である。秘めた魔力の性質によって石の色が変わる。炎の魔力が込められた石は赤く、水の魔力であれば青く。

そしてこの魔石こそがダンジョン攻略の肝だった。


日本に初めてダンジョンが出現した頃、「一般の人間がファンタジー世界の化け物に叶うわけがない」というのが大多数の意見だった。

ダンジョンの中にはゴブリンやスライム。アンデッドにスケルトン。そしてドラゴン。それまで架空の存在としてしか認識されていなかった生物が生息していたのだ。


その内部にどれだけの財宝が眠っているとしても、攻略は不可能だと考えられていたのだ。


その考えを覆したのが魔石である。

ある科学者が魔石には人体に不思議な力を与える効果があることを発見したのだ。


炎の魔石を使えば人は炎の魔法を使える。水の魔石であれば水を。魔石はダンジョンを攻略するカギだった。


集まった魔石を冴島が確認する。赤い魔石が二つ。青い魔石が一つ。

魔物を倒せば必ず魔石が手に入るわけではない。どういうわけか、同じ種類の魔物を倒しても手に入る魔石は違う色であることが多い。どれだけ探しても魔石を持っていない魔物もいるし、ダンジョン内に不意に落ちていることもあった。


魔石の入手には運が絡むのだ。


「また中川が調子に乗るな」そう思いながらも冴島は青い魔石を自分の物にして赤い魔石を二つとも中川に渡した。


「すまんな。次に期待してくれ」


下品に喜ぶ中川を横目に見ながら残りの二人に冴島が言った。故意に渡す相手を優遇しているわけではない。

魔石には特徴があった。人を選ぶのだ。例えば冴島隊で言えば赤の魔石の力を体内に取り込めるのは中川だけである。

同じように冴島は青い魔石から水の力を。他の二人もそれぞれ風と土の魔石から力を得ている。


ある色の魔石に選ばれた者は、他の色の魔石からは力を得られない。それがルールだった。だから回収した魔石は誰が取ったかに関わらず、色ごとに分配される決まりになっている。


今回分配されなかった二人もそれはわかっている。残念そうな顔をしたが文句を言うことはなかった。

代わりに早くもっと奥に行こうと冴島に提案する。


奥に行けば他の魔物がいる。そいつらを倒せば自分たちの魔石が出るかもしれないと思っているのだ。

魔石は一つあればいいというわけではない。むしろ集めれば集めるだけ使える魔法の力は増大する。


冴島隊で一番魔石を回収しているのが中川だった。魔石を集めれば力が増大する。そうすればダンジョンの攻略が楽になる。楽になれば稼ぎも増えるし手に入る魔石も多くなる。

その好循環を目指して彼らはダンジョンを攻略しているのである。


冴島は残りの二人の提案を了承する。ダンジョンに入って随分奥まで来たがまだ帰るつもりはなかった。

足元に転がる魔物に目をやり、それから周囲にも目を向ける。

魔物の血が至る所に飛んでいて、解体して回収しなかった部位もそこら中に散っている。慣れていなければ中々にグロテスクな光景だ。


「ラク、後は頼むぞ」


冴島が言った。暗闇から青年が顔を出す。

冴島隊のメンバーは五人。四人は戦闘員だが、一人は違う。

戦いが終わるまで後方で身を隠し安全を確保する。戦いが終わって、素材の回収が済んでからが彼の仕事である。


彼の名前は冴島ラク。ダンジョンの掃除係だった。

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