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第12話 『間違いはない』

「似合うじゃないですか」

「そうでしょ」


 服を買い、一度着替えに家に戻り、荷物からも開放された。

 モルも紺色のコートに赤いマフラーを着て、何やら満足そうだ。


「あとはどこに行くの?」

「ギルドって言うところに行きますよ、面白いところですよ、あそこは」


「ギルド……」と言葉を再確認するように小さく言葉を吐くモルを後目に。

 僕は今の一瞬の出来事をどうしたものかを考えていた。

 この街には路地裏の通りが多い。街の至る所に路地裏の道があり、クモの巣状に拡がっている。中には路地裏に公園があることも。


「どうしますか、今の追いかけますか」

「今の黒いやつ?」


 黒い装束を着た何かが、一瞬のうちに現れ、瞬く間に路地へ消えていった。それを見て、モルに問いかけてみたものの彼女はあまり気にしていない様子だ。

 しかし、僕からすれば怪しいことこの上ない。

 どうしたものか、今は休暇だが。

 そんなふうに悩んでいると、モルが何かに反応を示した。


「いまの聞こえた?」

「いえ、まったく」

「わかんないけど、死んだ音した」


 死んだ音とは、なんだろう。

 少なくとも、平和な街の路地裏から聞こえていい音ではない。

 殺人鬼の住む街が平和かどうかは、悩ましいが。生憎、哲学を披露している時間の余裕はないだろう。

 休日なのに、時間に余裕が無いとは。


「首突っ込みに行きます?」

「楽しいかな?」


 どうだろう。

 もしかすると、彼女にとっては楽しくはなるかもしれない。


「ノーコメントと言うことで」

「じゃあ行く!」


 幸いにも、周囲の人々はこの異常事態には気づいていないようだった。

 変なことに巻き込まれても、静かにことを終わらせることが出来そうだ。


「なら、急ぎましょう」



      〇



「気にすんなよっ、俺に比べてお前らが弱かっただけだ、よくある事だぜぇ?」


 黒装束の1人と対峙している、周りには他にも黒装束が散らかっている、意識はないようだが。

 唯一まだ意識のある黒装束はガン・ステッキなる珍しいものを持っているが片方の男が向けるリボルバーよりも大きい。

 つまり、小回りが利かなく黒装束は不利な状況である。


 そもそも、ガン・ステッキは魔力を用いた魔力弾式の、杖のようなライフルで、スコープが装備されている単発型の武器だ。

 主に支援などに使われるため、主戦力を削がれたこの状況ではどうしようもない。


 ガン・ステッキは装填までに時間がかかるが高威力。男も、下手に手出しができない。

 黒装束は怯えている、男は慢心している。

 そして、先に動いたのは男の方だ。

 リボルバーを高く上に投げた、向けられる銃口に警戒をしていた黒装束は反射的に本能的に、意識を、目線をそちらへ移してしまう。


 黒装束はすぐ気付いた、目の前で対峙する敵を見据えようとして。

 男の拳に、鼻をへし折られた。

 視界も歪み、身体がふらついて。

 男がその隙を見逃すはずもなく、男は続けて黒装束の横面にかかとを食らわせた。

 男の後ろ回し蹴りを受け黒装束は完全にノックダウンし。


 男は宙から降ってきたリボルバーを片手で受け取り、引き金を引いた。


「あぐっ……」


 意識を朦朧とさせながら必死に起き上がり、男の裏をかこうとしていた黒装束の脳を鉛の玉が貫いた。


「おおっと、顔がいいと運も良くなるみたいだなぁ?……いや、いい、やっぱり今のは忘れてくれ」


 渾身の冗談を言ってみたがしっくりこなかったらしい男は、僕たちの方に振り返りながら頬をかいた。


「てなわけで、久しぶりだな、えーと、なんだっけか、あの、あれだ」

「はぁ」


 黒髪の青年が、つまりは僕はため息をついた、そして後ろにはモルも不審者を見る目で男を見ている。


「そうだ、不可色ふかしょく!そうだそうだ、もちろん覚えてたぜぇ」


 男ははっきりと覚えていた、名前を。


「間違ってますね」


 だから僕は、それを否定した。



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