フクロウの目の感度は人間の100倍らしく、静止していても対象までの正確な距離を把握できるらしい。
それはそれで逆に不便な気もするのだが、真実は本人にしか分からない。
ところで、先程からの問題。
例のブルーバードから降りてきたのは、案外知り合いだった。
「オマエカヨ」
鉄パイプの集合体、人間ではなく人の形をした機械の男(男か?)。
大剣を背負っていて、大剣は錆びた鉄を寄せ集めて作ったような見た目をしている。
「ブリキさんでしたか、久しぶりです、それと……」
ブルーバードの助手席から、少しこわばった表情を浮かべブリキさんの隣に立った男の子に目をやって言葉が詰まった。
たぶん、僕は会ったことがない人だ。名前が出てこない。
「
「どうも」
高いな、声。変声期をまだ迎えていないのだろう。
それにこれまたとんでもない美少年だ、随分と華奢で黒いズボン、カッターシャツにベストを着てループタイを身に付けている。
ショートカットの黒い髪に、
黒い髪というところで親近感を覚えなくもないが、残念ながら僕は美少年ではなく美青年ですから。
……そんなただの文字を見るかのような冷たい目はやめてほしい、傷ついたじゃないですか。
ともあれ僕の周りに美男美女が多いのは、なにかの嫌がらせだろうか。
美しいモノの近くだと、自分がよりいっそう醜く思える。
そんな考え自体が、既に醜いのだが。
「ブリキさんも、仕事ですかね」
「アァ、ランテルヘ向カウトコロダッタンダガナ」
「同じ目的地ですね」
「オマエノシゴトハナンダ」
「怪鳥の調査だとか」
「平和ダナ」
それがそうでもなさそうなのだ、今回の編成メンバーを見てみると。
『狙撃の名手』『死んでいない生き物なら蘇生できる回復役』『殺人鬼』
そしてポンコツこと、この僕だ。
なぜ鳥の観察で、こんなバランスのとれた戦闘編成になったのか。
チラッと視線を後ろにやると、何やら楽しそうにモルとなひゆさんが雑談をしている。
「それで、その子は重要参考人か何かですかね、明らかに本名でしょう」
「マァ、ソンナトコロダ」
「頑張ってください」
「……ソウダ、宿ニ泊マルンダロ?コイツノ面倒ヲ見テヤッテクレナイカ、金ワハラウ」
「そういうことなら、任せてください、ぼく面倒見がいいほうなんですよね」
ブーッと、車のクラクションをなひゆさんが鳴らしたらしい。
長話が過ぎたようだ、そろそろ行こう。
「夜になると危険なので、そろそろ向かいましょう」
「ワカッタ」
僕達はそれぞれの車に乗り込んで、同じ目的地に向かって車を走らせた。
「そういえば、さっき言ってたこと」
「ん〜?」
新聞紙で折り鶴を作っている器用ななひゆさんに、先程聞けなかった話の内容を聞こうとした。
「なんだっけ〜?」
本人も忘れているらしい、もしかすると実は用なんかなくて、ただ邪魔をしたかっただけなのかもしれない。
なひゆさんになら、十分にありうる可能性だ。
「灰魔法がどうだとか」
「あ〜、ニュークリアのことね」
灰魔法は、世界の崩壊前にその危険性と残虐性ゆえに法律上で禁止された初めての魔法である。
灰魔法は高度な技術で織り成される魔法であり、使用できる人間はごくわずかだった。
そして、これはあくまで灰魔法という一括りの分野での話で。その中でも、最も多くの人の命を奪い、人類の最大の誤ちとも言われる、最強で最凶であり最恐の最狂と名高い灰魔法。
法律が意味をなさなくなった今でさえ、灰魔法は倫理的観点からその使用は許されていない。
「一日に、かなり離れた場所で三箇所も発動したらしいよ〜」
「その記事捏造じゃないですかね」
もとより、信用ならない人物から貰った物なのでこの新聞紙自体ももしかすると嘘っぱちの捏造記事ばかりかもしれない。
「あとはね〜、これ、ランテルの街で三十人が毒殺された事件とか〜」
「今すぐ引き返すべきですかね」
その人数になると、無差別殺人の可能性が高い。
しかも、それが毒殺となるとランテルでの食事が不安になる。
「けどこれは〜、毒って言っても毒性の強い蝶の
「尚更怖いですね」
気をつけるべきは食事ではなく、野外活動か。
屋内で鳥の観察はできるだろうか。
「物騒なことしか載ってないんですか、その新聞」
「ううん、平和なのもあるよ〜、ほら期間限定特大シュークリームが半額だって〜」
「その新聞読んでると感情の起伏が大変そうですね」
広大な景色が未だ広がっている、日は傾き始め刻々と夜が近づく。
少し強い風に、また草花が揺らされ。
遠くに小さく、煙をあげる煙突が見えた気がした。