「サテ、教エテ貰エルカナ」
「その前にさ、どうして不可色もこの街に居るのか、教えて貰えるかな」
様々な雑貨が商品棚に並べられ、蛍光灯が時々チカチカと店内を照らしていた。
今は看板は
そして希望に満ち溢れた、否、希望そのものである少年は苛立っていた。情報を貰いに来た機械にとって、それは不都合だ。
「連レテキタンジャナイ、カッテニツイテキヤガッタンダ、今回ノトハ別件ダ」
「別にいいけどさあ、ああいうのとはなるべく関わりたくないんだよね、何も無い君たちとは違って僕には愛もいるしさ」
「スマナイナ」
彼には希望がある、
何も無い者より、そちらの方が辛く苦しいだろうと、鼓動の鳴らない機械はそう思った。
「ソレデ、ワザワザ俺ヲ呼ビダシタンダ、相当ナ情報ナンダロウナ」
「もちろん、マダラについての情報だよ、とっておきのね」
「ナンダ、ヤツノ居場所デモ突キ詰メタノカ」
機械は皮肉を言った。
しかし機械の言葉は、感情を表現するのには向いていない。
その皮肉が、伝わらない事も多々ある。
「そんな言い方しないでよ、すっごくいい情報なんだからさ、お茶飲む?」
彼には、希望しかない少年にはどんな言い方に聞こえたのだろうか。
「飲メン」
「じゃあ、ガソリン飲む?」
「遠慮シテオク」
「残念」
少年は戸棚から取り出したマグカップにコーヒーを淹れ、角砂糖を6つばかり入れた。
金のスプーンで混ぜられたコーヒーは、トロリとしていて、蛍光灯に照らされ妖しく光る黄金は妙な感覚を覚えさせる。
まるでコーヒーの溶けきらない砂糖のように、ドロリとした暗闇は重みを増していた。
「明かりを変えようか」
蛍光灯を消し、代わりにそこへ持ってきたランタンに火を灯した。
火は静かに揺れている。
「マダラの居場所をつきとめた」
「ヤツハ、ドコニイル」
何万人もの命を奪った、生物学者。
居場所を転々とし、決して跡を辿られないように関係者を全て始末している男。
蝶という名を飾った毒蛾だ。
何度も、
機械は高揚していた、心臓が炎のようにグラグラと揺れていた。
鼓動が、高鳴っているのを感じた。
「この街に、潜伏してるよ」
少年は、機械にそう希望を零して。
揺らめく炎は黄金を煌々を輝かせ、滴るスプーン越しに、拳を強く握った鉄屑を眺めた。
〇
「でワ、俺はこの街を出ルが」
身長が、3mにも及ぶ覆面の男が言った。
「好きにしろ、私にはまだ課題がある、貴様の決定などに左右されるものでは無い」
ガスマスクを着けた、大きな蝶々の羽を持つガタイのいい男が言った。
「あァ、わかっテいるつもりダ」
「蜘蛛ごときが、私の何を理解していると言うつもりだ」
「……」
「あまり図に乗るな、私はあくまで、私自身の目論見のために貴様らを利用しているに過ぎん」
「お前モ、だがナ、アマり調子にノるな」
覆面の男は、地に付くほどに長い鉤爪を、ガスマスクの男に突きつけた。
「全くもって、くだらん」
「……」
「ひとつの生命として、まだ完結を知りたくないのだとすれば、さっさと私の前から消え失せることを推奨しよう」
「……利用していルにしロなんニシろ、今ハ仲間だ、争うノはよそウ、また……次の機会ニ話ソう」
そう言って去って行く蜘蛛に、ガスマスクの男は────毒蝶は舌打ちを打った。