「なるほど、それはとんでもないですね」
現在時刻、2時14分、暗闇に目が慣れて二人の輪郭がなんとなくわからなくもないが、やはり黒一色だ。
「もし本当に黒灰を人為的に引き起こせるとするなら、マズイですよね」
「カナリナ、ダガマダソウト決ッタワケジャナイ」
それを聞いて安心したが、それらを黒灰の原液と呼んでいるところを見ると。ほとんど決まっているようなものなのかもしれない。
「だから、私が調べてる」
「いい結末を祈ってますよ」
「何に祈るの、神様みたいなの嫌いでしょ」
「いやいや、願いを叶えてくれるのなら神様も捨てたもんじゃないですよ」
「ナラ、叶ワンナ」
暗闇の中、神様トークで静かに盛り上がった。
ただの散歩のつもりが長い時間、居座ってしまった。僕はそろそろ帰って寝ると話を切り出そうと大きく伸びをして。
「動いた」
「マダラカ」
「うん、どこかへ行きそう」
なんと、今更動いたらしい。
そういえば見張ってたんだっけ、完全に忘れていた。
というか今思い出した、かなりくつろいでいたがここのすぐ前(もしくは後ろ)は崖じゃないか。
意味がわかると怖い話ならぬ、思い出すと怖い話。どちらにしろ、ふと分かっただけで背筋が凍る。
背筋ということは、後ろに崖があるのか。
「追います、志東さんは帰ってどうぞ」
「ちょうど僕も帰ろうとしてたんですよね」
そう言いながらカンテラを手に立ち上がって、後ろに振り返り一歩前に出ようとして。
「ココヲマッスグ三百歩行ケ、ソコデ灯リヲツケロ」
ブリキさんに体を掴まれ、グイッと向きを変えられた。
ブリキさんを信じるなら、僕は今死にかけたのでは。
「わかりました、頑張ってください」
「アァ、オヤスミ」
「おやすみ」
梟さんからの言葉はいただけなかったが、何か言ってやろうと思った頃には僕以外誰もいなくなったようで。
相変わらず、暗闇が広がっていた。静かになると、無性にこの状況が嫌になってくる。
僕は駆け足で、まっすぐ前へ進んだ。