「それで、志東さんの話は?」
「ドレダケアイツノ事ガ知リタインダヨ、惚レタノカ?」
「それは、ありえませんね」
本気で心外だった。
螺旋状の階段は、未だ続いている。
「ソウダナ、ソモソモ奴ノ年齢モワカラン」
「魔学の授業を受けて、それが中学校って言ってましたねそういえば、ということは…」
「ソレモ信用ニナルカドウカ」
吊るされているランタンの、頻度が少なくなってきて。暗闇が徐々に侵食し始めた。
暗い所は苦手だ、不安な気持ちになる。梟さんがそばにいるなら別だけど。
「奴ハ、二年前ノ雪国デノ抗争デ、親友ヲ一人失ッテイタナ」
「親友?」
「魔王ノ、タシカ最恐ダッタハズダ、魔王仲間ッテイウヤツカ」
「サイキョウ、ですか」
魔王の最強、最強の魔王のことかな。
そう自己解釈して、自己完結した。
「2年前の、冬…」
「ソウダ、マスクヲチャントツケテオケヨ」
「あ、忘れてました」
思い出してカバンから取りだし、慌ててマスクをつけ直した。呼吸がしにくいから、取っていたのだ。
直結式小型タクティカルガスマスク。
名前が長い、けどなかなかにカッコイイ。
「似合ってます?」
「イインジャナイカ」
「どうもどうも」
褒められて、悪い気にはならない。
ガスマスクが似合うって、一体全体どういうことなんだろう。
少し、師匠に似てるのかも。
「木菜」
「……はい」
少し錆びた重い鉄製の扉が、ランタンに照らされて鎮座していた。
静かだ。
空気も重く沈んでいる。
「行クゾ」
「はい」