「他に質問がある人は?」
「はい!はーい!」
現在、同業者の皆さんが車両をひとつ貸切って、それぞれの任務の確認をしている。
「はい、またモルちゃんね!質問が多すぎてもはや新手のいじめかと思ったけど!質問は大事だからね!それで!なんだい?」
「教団の人ってなんで敵なのー?」
「ほうほう、それはつまりあれだね!なぜ人間を根絶やしにして世界を滅ぼすのが悪いことなのかを問うてるのかな!もしかしてモルちゃんはスパイ!?それとも自堕落で怠惰な志東が説明を省いているのかな!ね!志東!あ!寝てる!そういう事だね!」
その場を仕切るラクーンさんはモルの質問攻めに、苦しんでいるようで、何の責任もない僕に話を振ってきた。
確かに僕は説明などしていない、けれど説明しないといけないような状況を作り出したのはラクーンさんなので僕は寝たフリで乗りきろうと思う。
「あの教団の人たちは人を沢山殺して、世界をもう一度滅ぼそうとしてるんだよ!ちなみに!その宗教の名前は口に出さないことをオススメするよ!」
「どうして敵なの?話し合いはしないの?」
「悪いから殺す!僕達はそれ以上の深い理由を追う理由はないんだよ!殺せばいい!殺すのに深い理由なんていらない!」
「……私って、マシな方だよね、志東さん」
「僕は寝てます」
教団の話は、僕らの仕事には関係はないはずだ。
それより、聞きたいのは、僕たちが退治しないといけない獣のこと。
先程襲ってきたフェンリルには、親玉がいるはず。親玉のフェンリルは普通の個体より大きさがあるのだが。
親玉らしきフェンリルは見かけなかった、見かけたという話もなかった。
もしかすると、今回僕らが相手をするのは────。
「はい!質問!」
「またまた!どうぞ!モルちゃん!もうこの会話のやり取りが定番になっちゃったね!」
「黒灰って、なーにー?黒砂糖みたいなの?」
「黒砂糖は関係ないねっ!」
甘いものが食べたい。
砂糖がたっぷり入った、コーヒーとか。
というか、割られた窓から入ってくる外気が寒い。小さな毛布を配給されてはいるが、それで何とかなる寒さじゃない。
「黒灰は感染しちゃうと死ぬか、暴れてから死ぬかの二択の何かだね!」
「とってもわからない……ウイルスなの?」
「たぶんね、でもまだ全くわかってないんだよ、原液なんてものがあるって言うのも最近発覚したからね!」
「全く何も分かってないの?」
「その通り!」
ラクーンさんは、むしろ何故か自慢げに肯定してみせた。
分からないことが多いから不思議であって、そんな不思議を何とかするのが僕らだ、分からないものを分かるようにすることは出来なくても。
分からないものを、勝手に分かった気になることはできる。
そして今の僕の言葉もややこしすぎて、よく分からない。
「にゃあにゃあ」
「僕は寝てますよ」
隣で寝ていたはずの猫さんが、いつの間にやら起きていて僕の肩をつついた。
しかし、僕は今寝ているのでどうしようもない。
「ふにゃー!ガブッ!」
「っ!?」
急に腕に噛み付いてきた猫さん、しかしながら僕はまだ寝ていたい痛い痛い痛いっ。
「んー、健康な血の味にゃね」
「知り合いの吸血鬼にしか言われたことありませんよ、そんなセリフ」
嘘だが。
いや、知り合いに吸血鬼はいるのだが。その時は『不味い』と言われたうえに頭突きをくらった。
だから僕は吸血鬼は嫌いだ。
「にゃー、しどー、また戦争になるにゃー?」
「知りませんよ」
「させませんよ!はい!確かに二年前は大変に!しかししかししかし!今回はこちら側の完全な不意打ち!すぐに決着をつけてやりましょう!」
なら大丈夫なんじゃないかな。
僕は小さな毛布を顔に被せて、今度こそ本当に仮眠を取る体勢になった。
「まぁ、ミミたちには関係ないもんねぇ、ねぇ、志東ぉくん」
「……」
後ろから頭をつついてくるミミさんを無視して、僕は雪国ではどう過ごそうか考えていた。
どうせ着いたところで、直ぐに作戦が決行される訳でもないだろうし。僕たちの方も、肝心の暴れている獣を探さなくちゃならない。
怪鳥の調査も、本来ならもっと時間がかかる任務なのだが。まあ、あれは元から場所が限定されていたからな。
「僕達は勝つ!二年前の二の舞にはならないように!被害者は出さない!みんなで必ず生きて帰ろう!」
「死亡フラグだー!」
「典型的なやつですね」
「ふにゃぁぁあ」
あと数時間で、雪国に到着する。
僕たちと同じ任務の人はきっと少ないだろう、ここにいる殆どの同業者が教団関連の任務に来ているはずだ。
僕は腕に噛み付くモルと猫さんと、頭をペシペシ叩いてくるミミさんを後でどうやって懲らしめようか考えながら。
ゆっくりと目を閉じた。