確かに梁瀬のいうとおりだ。
本気でこの国に攻め入ろうと思ったら、なぜ火を放ったすぐあとに次の部隊がなだれ込んでこなかったのか。
もしも直後に、いつもの部隊がでてきていたら、援軍も間に合わず堤防を突破されていただろう。
仮に先陣が捨て駒だったとしても、あれだけの数をつかって泉翔の戦士数十人を減らしただけでは、ロマジェリカにとってはお粗末な結果だったんじゃないだろうか?
「目的か……」
心当たりはある。ダメージは受けた。
多分相当な痛手だろう。
けれどそれは個人のレベルでの話しだ。
今回のことで一番キツイ思いをしたのは、麻乃。
そして必ずあとに引きずるとハッキリわかる。
(そう、俺にとっても麻乃と同等に――)
修治は立ちあがるとと棚を開け、酒瓶とグラスを二つ出した。
「このあとはなにも予定はないよな? 少しくらいならいいだろう?」
酒をそそぎ、梁瀬の前に置くと、そのまま一気にあおった。
空になったグラスに、今度は梁瀬が酒をそそいでくれた。
これまで黙っていたことを、今ここで話してもいいものか迷う。
けれど、自分の中だけで処理するには、今日の出来事が大きすぎた。
隊員のほとんどを失ってしまったこともそうだ。
修治は心のどこかで、話せる相手を探していたのかもしれない。
たまたま聞きたいことがあって梁瀬を呼んだけれど、修治の思いを聞いてもらうには、梁瀬は十分すぎるほど信頼できる相手だ。
それをわかっていても、どうしても踏みきることができない。
言葉が継げず、ただ黙ったままでうつむいていると、梁瀬のほうから水を向けてきた。
「で……? 本当はなにを話したかった? 術のことだけじゃないでしょ。僕が思うに、話しのメインは麻乃さんのこと」
「さすが、鋭いな」
ためらっている心の奥底を見透かしているかのように、梁瀬はやわらかな口調で淡々と話す。どこかで言い訳を探していた修治にとっては、ありがたい問いかけだった。
(やっぱりもう、知ってもらわなければいけない時期がきたのかもしれない……)
椅子の背に体をあずけ、大きくため息をついた。
「あんた、麻乃をどう見る?」
「どう、って……あの人は鬼だよ。戦いにおいては、ね。同じ女でも巧さんとはまるで違う。ほかの部分じゃ、ぼんやりしてるし打たれ弱いし、変に不安定だったりするけど」
梁瀬はそう言いながら、クスリと笑った。
同じように修治もつい、口もとがゆるむ。
麻乃は本当に、剣術のこと以外となると、まるで駄目になる。
ただ、問題なのは行動よりも、その中身だ。
「そうなんだ。不安定なんだよ。梁瀬は俺たちと同じ西区出身だから、知っているかもしれないが、あいつの親のこと……」
「詳しいことは知らないけれど、堤防を抜けた敵兵を追って亡くなったって聞いているよ」
「あれは俺と麻乃……いや、俺のせいなんだよ」
うなだれてそうつぶやき、窓の外に目を向けると、静かに話し始めた。
「――あの日、西区は各道場の合同演習だったんだ」