「え、さっきと同じ曲歌ったら正体バレちゃうよ……?」
心配になって目を伏せる俺に、無情な現実を突き付けたのは
「さっき四人しか聞いてないからバレないよ」
くそっ、全然客が増えなかったことを思い出させんな!
「一曲でも多い方がみんな喜ぶわよ? それに
確かに
「もう二度と魔法少女に変身することもないんだから心配無用かもな」
俺の小声を聞き取った
「ちょっと名残惜しいでしょ。
「いや、かわいいものは――」
否定しかけて俺は口ごもった。
先ほど心の中で綺麗なものや美しいものも好きだと認めたばかりだよな、俺。とはいえ年下の女子に指摘されるのはなんか違う。すごく抵抗したくなる。
「だって
素直な
「
本人が目の前にいるのに
「いや俺はがさつだし――」
俺の弱々しい抗議など耳に入らないらしく、
「だから
「いや俺が目指しているのはロックスターで――」
ぶつぶつと反論を繰り返す俺を
「
慈愛に満ちた笑みがまぶしくて言葉を失った俺の代わりに、
「
今まで否定してきた男らしくない自分を認められたら、俺は表現者として一皮むけるのだろうか?
ギターのネックを握ったまま立ち尽くす俺のうしろから、はしゃいだ女子トークが聞こえる。
「そうよ
「
大丈夫、
「よし、セトリ頭からやろうぜ!」
俺が威勢よく声をかけると、
「そう来なくっちゃ!」
「うわ、もうステージ始まってるんじゃね?」
一団が慌てて腰を下ろし始めたので、俺たちは一通り観客がそろうまで待つこととした。
「本日は魔法少女ジュキちゃんのステージにお越しいただきありがとうございます」
適当にしゃべって場をつないでくれる。
「今日のステージではジュキちゃんのオリジナル曲を四曲聴いていただきます。二曲はネットに上げていますが、残りは新曲ですので、どうぞお楽しみください」
「えっと、一曲目の『I’m Livin’ Now』は一番の歌詞を自分が、二番の歌詞をキーボディストの
俺は慌てて付け加えた。全部が俺のオリジナル曲というわけではなく、メンバーと協力して作っていると伝えたかった。
だが客たちはMCの内容より俺がしゃべった事実に興奮したらしい。
「魔法少女ちゃんがしゃべった!」
「あれ? さっきの放送の声と違う?」
「ワン・トゥ・スリー・フォー!」
「さっきの声はあっちの魔法少女だったか!」
観客が手を打つが、俺は聞こえないふりをしてアコギをかき鳴らし、ストレートなロックを歌い出した。
「Everybody, welcome to the show!
I’ve been waiting for this night」
「暴れよう この夜が噴火するまで
きみが今日言ってくれるなら」
俺がバース部分を歌い終わると、
「Yes, I’m livin’ now!」
「死んでた昨日にグッバイ」
「I’m livin’ now!」
「息できる場所みつけたよ」
掛け合いのようにサビが進んでゆく。
「Yes, I’m livin’ now!」
「ずっと探してたmy home
I’m livin’ now! 心のカーテン開け放つ」
最後は俺も一緒に歌ってワンコーラスを終えた。
落ち込んでる場合じゃねえ。切り替えて二番に行くぞ。
「教室のはじの席 頬杖ついて
ひとりで窓の外みつめるばかり」
歌うと想像以上にかわいい声で、俺はにやけそうになるのを必死で我慢しながらギターに集中する。スタジオで何度も聴いているけれど、大好きな女の子の歌声に心が慣れてしまうことなんてない。
「きみ自身気付いてない花咲かせたい
輝き閉じ込めず言ってほしいのさ」
「Yes, I’m livin’ now!」
「フザけた教師にグッバイ」
二番後半からは俺がリードヴォーカルに復帰する。
「I’m livin’ now!」
「馬鹿げた世間にグッバイ」
客席では若者のグループが缶チューハイ片手に、曲に合わせて拳を突き上げている。
「Yes, I’m livin’ now!」
「ずっと探してたmyself
I’m livin’ now! なくした翼 目覚める」
ノリのよい観客のおかげで会場があたたまってきた。
「魔法少女ちゃん、かっこいいぞー!」
客席から歓声とともに拍手が沸き起こる。
えーっ、ツインテールで歌ってるのにかっこいいって言われた!
一曲目を歌い終わった俺は、ドキドキしながらマイクスタンドを握った。MCって苦手だ。歌い始めると落ち着くのに、曲が終わると緊張しちまう!
でもこのMCはさっき、魔人襲撃で中断された念願のMCなんだ。
「次の曲は『窓をあければ』です。聴いてください」
客席が拍手で答えてくれる。俺はゆるやかなシャッフルのリズムでアコギをストロークし、のびやかに歌った。
一曲目と比べると落ち着いたオールドロック調の曲に、最前列のおっちゃんたちが、
「なつかしいですなあ。私も昔はギターを弾いていたんですよ」
「ほんとですか? 実は私も軽音楽部なんか入ってかっこつけてた頃がありますよ」
笑顔で話しているのが聞こえてくる。俺の音楽でみんながなごんで楽しんでくれている。夢みたいだ。
どこかなつかしいサビの旋律が始まると、おっちゃんたちは生ビールの入った紙コップを足元に置いて手拍子を始めた。
二曲目が終わるころにはパイプ椅子は全て埋まり、立ち見客まで現われた。公園の外を偶然通りかかった人も、立ち止まって俺たちの立つステージに首を伸ばす。あまりの盛況っぷりに、有名なアーティストでも来ているのかと気になるのだろう。
だが木々の間から聞こえた声に、俺の心臓は跳ね上がった。
「あれ? あの赤いドレスの子、うちのクラスの
学校の女子グループが現れた!?