「フィオリスさん!」
重い腰を引きずりながら、城内に入ると昨日から住むことになったとかいう人間の女が駆け寄って来た。確か名前はシアと言ったか。
「何だ」
俺はもう、人間と深い関わり合いを持ちたくはない。
「アルトリウスさんから、事情を聞きました。ごめんなさい」
女は、深々と頭を下げた。アルトリウスから事情を聞いたというのは、どこからどこまで聞いたのか。
「何故、お前が謝る」
「フィオリスさんを傷つけたのは、私と同じ人間だからです」
へぇ、と少し感心してしまった。自分は何も悪いことをしていないのに、同じ種族がやったからと言って心から謝っている。こいつは、悪い奴ではないのかもしれない。だけど、簡単に信じることは出来ない。
「別に、どうってことない」
こんな傷は魔法ですぐに直すことが出来る。
「疲れたから、俺は部屋に戻る」
「私に手当をさせてください!」
「必要ない」
「ダメです。傷は放っておくと悪化します」
「魔法ですぐに直せる」
「そうかもしれませんけど、手当をさせてください。フィオリスさんともう少し一緒にいたいんですっ」
女は見た目に寄らず意外と強引だった。じっと見つめているその青い瞳は綺麗だと思った。嘘のない真っすぐな瞳。
「分かった」
そんな瞳で見つめられ続けて断れるはずもなく俺は、仕方なくそう呟いた。
「ありがとうございますっ」
女は、嬉しそうにしていて変な奴だなと思った。自分で思うのも可笑しいけれど俺は、無愛想だし怖いと思われるのは仕方ないと思っている。そう振舞っているのだから当たり前だ。なのに、女は怖がるどころか嬉しそうに俺の後を着いて来ている。
「じゃあ、救急箱を借りて来るので少し待っていてください」
「そんなものは魔法で用意出来る」
そう言って俺は、ポンッと目の前に救急箱を出現させた。
「わ! ほんとに出て来た! じゃあ、そこに座ってください」
俺は、玄関の広間に置いてあるソファに腰を下ろした。女は慣れた手つきで武器で殴られた腕や足を手当てしていく。
「……慣れているんだな」
「よく怪我をする人と一緒に住んでいましたので」
「へぇ」
足と腕の手当てが終わると、今度は腰を上げて顔に触れてきた。目の前に人間の女の顔があることに心臓が大きく高鳴った。
「顔は良い」
つい、俺はそう強い言葉を発してしまっていた。間近に人間の女の顔があることに耐え切れなかったのだ。
「でも……顔が1番ひどいのに」
「魔法でどうとでもなると言っているだろう」
俺はそう言って、女の目の前で魔法を使い顔の傷を瞬間的に直した。
「……それって本当に直っているんですか?」
「あぁ。気が済んだか」
「……フィオリスさん、私これからしばらくここにいることになったんです。出来れば、フィオリスさんとも親しくなりたくて。無理やり手当をさせてもらってすみませんでした。それは謝ります。でも、またお話させてくれませんか」
……5年前の少女ならば、こんな態度を取られたらもうとっくに逃げ出していただろう。なのに、この女は俺はずっとこんな態度だというのに諦めないどころかどんどん距離を縮めてこようとする。なんて奴だ、と呆れた。
「親しく、というのは例えばどうすれば良い?」
だから、少しだけ興味を持ってしまって会話を続けてみることにした。
「そしたら、今晩から一緒に食事をしたいです! 食事はみんなで取る方が絶対おいしいので」
つづく