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姉が神になったので、世界を敵に回してでも日常を守ります
姉が神になったので、世界を敵に回してでも日常を守ります
りねん翠
現代ファンタジー異能バトル
2025年04月29日
公開日
10万字
連載中
「姉ちゃんが……神に、なった?」 平凡な高校生朝霧晴翔(あさぎりはると)のささやかな日常は、ある朝突如終わりを告げた。 姉の天音が“神”として覚醒し、現実そのものを無意識に書き換える力を持ってしまったのだ。 自覚も制御もできないその力は、世界を混乱に陥れるには十分だった。 「神は危険だ」と主張する“神狩り組織”が天音の排除に動き出し、 街は少しずつ静かに、しかし確実に壊れていく。 (執筆のガイド等に、一部AI補助ツールを利用しています)

第1話

朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。


朝霧あさぎり晴翔はるとは、いつものように目覚ましより五分早く目を覚ました。窓の外では、鳥たちが気持ちよさそうに鳴いている。そろそろ梅雨に入る頃だというのに、今日の妙典みょうでんの空は妙に澄んでいた。


「よっと」


身体を起こして、ベッドの上であくびをする。高校一年生になって一ヶ月。新しい制服にもようやく慣れてきたところだ。


晴翔は窓から外の景色を眺めて、深呼吸した。日課の準備体操をして、部屋を出る。


廊下に出ると、隣の部屋からは物音一つしない。

登校まであと1時間以上ありはするのだが、色々悩んだ末、晴翔は隣の部屋のドアをノックした。


「お姉ちゃん、起きる時間だよ」


返事はない。


「お姉ちゃん?」


もう一度ノックして、声をかける。それでも反応がないので、仕方なく戸を開けた。


カーテンが引かれた薄暗い部屋の中、布団の中から伸びる一本の腕。そして、枕元に落ちたスマートフォン。目覚ましを止めて、そのまま二度寝したに違いない。


「もう、いい加減自分で起きられるようにならないと」


姉である朝霧あさぎり天音あまねは、高校二年生。彼女が自力で起きられた朝を、晴翔は一度も見たことがない。


「お姉ちゃん、朝だよ。学校、遅刻するよ」


布団を引っ張る。中からくぐもった声が聞こえた。


「うーん...あと五分...」


「うわ。それ、毎回言ってるよね?」


「ほんとに、今度こそ...三分だけ...」


晴翔はため息をついた。姉の天音は、成績優秀で面倒見の良い優等生なのに、朝に弱いという致命的な欠点を持っていた。


「じゃあ、朝ご飯作らないけど?」


一瞬の静寂。


そして——


「作るの、晴翔なの!?」


布団が爆発したかのように跳ね上がり、長い茶色の髪を振り乱した女子高生が飛び起きた。


「今日も母さん、早番なの?」


「うん、メモ貼ってあったよ。『二人とも自分で何とかして』ってさ」


天音は、がっくりと肩を落とす。


「あー、晴翔の料理食べられると思ったのに...」


「いや、作るよ? だから起きないと間に合わないって言ってるんだよ」


姉の目が輝いた。まるで宝石を見つけた子供のようだ。


「本当!? やったー! 晴翔の卵焼き、大好き!」


天音はベッドから飛び降り、廊下へ駆け出そうとした。だが、晴翔は彼女の肩を押さえた。


「着替えてからな」


姉は自分がまだパジャマ姿で、しかも着崩れしていることに気づき、頬を赤らめた。


「あ...うん」


「先に顔洗っておいで。卵焼きと味噌汁作っとくから」


天音は笑顔で頷き、洗面所へと向かった。ドアの前で立ち止まり、振り返る。


「ねぇ、晴翔」


「ん?」


「いつもありがとね」


そう言って、彼女は照れ臭そうに駆け出していった。


晴翔は小さく笑い、階段を下りて台所へ向かった。四人家族の朝霧家。父は出張が多く、母は介護士として早番・遅番がある生活。実質、兄妹二人で生活することも少なくない。


「さて、今日も平和な一日の始まりだ」


冷蔵庫から卵を取り出し、朝食の準備を始める晴翔。今日も変わらない日常が始まる——そう思っていた。


◆◆◆


「お、美味しい! さすが晴翔!」


天音は卵焼きを頬張りながら感嘆の声を上げた。いつもの事だが、姉の素直な感想は悪い気はしない。


「そんなに大げさに褒めなくていいよ。ただの卵焼きだし」


晴翔は照れ隠しに味噌汁をすすった。


「でも本当に美味しいんだもん。あ、味噌汁も最高! 晴翔は主夫になれるよ!」


「主夫かよ...」


そんな他愛もない会話をしながらの朝食。時計は登校時間を指していた。


「そろそろ行かないと」


晴翔が席を立とうとした時、天音が急に思い出したように口を開いた。


「あ、そういえば! 昨日の夜、すごい夢を見たんだ!」


「夢?」


「うん! 私が空を飛べるようになる夢! 屋根の上に立って、ふわって浮いて...すごく気持ちよかったんだよ」


天音は夢の中の出来事を楽しそうに手振りを交えて説明する。


「空が綺麗で、鳥たちと一緒に飛んでいたの。それで、欲しいものを思い浮かべたら、手の中に現れるの」


「何を欲しがったの?」


「えっとね...」


天音は一瞬考え込み、それから少し恥ずかしそうに答えた。


「晴翔の卵焼き...」


「は? 夢の中でも俺の料理かよ」


晴翔は思わず吹き出した。姉は頬を膨らませる。


「だって美味しいんだもん!」


「まあ、夢の中なら何でもありだからな」


「そうそう! でもね、不思議だったのは...」


天音は急に真剣な表情になった。


「夢なのに、すごくリアルだったの。手に広がる感覚とか、風の冷たさとか...今でも覚えてるんだ」


「へえ、明晰夢ってやつかな?」


「なんか、特別な夢な気がして...」


天音はそこまで言って、急に時計に目を向けた。


「あ! もう八時前だよ!」


「だから早く行こうって言ってたんだよ」


二人は慌てて食器を片付け、玄関へ向かった。


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