五月の風が心地よい。桜の季節が終わり、新緑の香りが漂い始めていた。
兄妹は並んで歩く。天音の長い髪が風に揺れる。
「あ、
天音が手を振った先には、短い茶色の髪を振り乱した少女が立っていた。
「おはよー、天音先輩! あ、晴翔もおはよ!」
美羽は元気よく走り寄ってきた。活発な性格で、入学してすぐに晴翔と仲良くなった女子だ。
「おはよう、美羽」
晴翔が挨拶を返すと、美羽は天音の方をじっと見つめた。
「先輩、今日も可愛いですね! その髪型、どうやってるんですか?」
「え? これ?」
天音は自分の髪を触り、少し照れた様子で笑う。
「別に何もしてないよ。朝、適当に結んだだけ...」
「えー! そんな適当なのに可愛いなんて反則ですよ!」
美羽は大げさなリアクションで二人を笑わせる。
三人で歩きながら、美羽が話題を振った。
「ねえ、今日の放課後、新しくできたカフェ行かない? イオンの中にできたんだけど」
「ごめん、今日は生徒会の仕事があるんだ」
天音が申し訳なさそうに答える。彼女は生徒会副会長を務めていた。
「そっか〜。晴翔はどう?」
「俺はいいけど...」
「よし、決まり! 放課後、教室で待ち合わせね!」
美羽の勢いに押され、晴翔はただ頷くしかなかった。
学校の門が見えてきた。「
「じゃあ、私はこっちだから」
天音は職員室方向へ向かう廊下へ。晴翔と美羽は教室のある階段へ。
「またあとでね!」
天音の笑顔を見送りながら、晴翔は何とも言えない感覚に襲われた。
「どうかした?」
美羽が訝しげに晴翔を見ている。
「いや...なんか今日、お姉ちゃんが特別に眩しく見えるなって」
「朝から姉弟のノロケですかー」
「ち、違う!そんなんじゃないんだよ」
「はいはい、否定するところが可愛いよね〜」
「うるさいな...」
「でもさ、天音先輩って本当に綺麗だよね。学年一のお姫様って感じ」
美羽の言葉に、晴翔は少し誇らしげに笑った。
「まあな」
この日常が、ずっと続くと思っていた。あの時は——。