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第2話

五月の風が心地よい。桜の季節が終わり、新緑の香りが漂い始めていた。


兄妹は並んで歩く。天音の長い髪が風に揺れる。


「あ、結城ゆうきさん!」


天音が手を振った先には、短い茶色の髪を振り乱した少女が立っていた。結城ゆうき美羽みう、晴翔のクラスメイトだ。


「おはよー、天音先輩! あ、晴翔もおはよ!」


美羽は元気よく走り寄ってきた。活発な性格で、入学してすぐに晴翔と仲良くなった女子だ。


「おはよう、美羽」


晴翔が挨拶を返すと、美羽は天音の方をじっと見つめた。


「先輩、今日も可愛いですね! その髪型、どうやってるんですか?」


「え? これ?」


天音は自分の髪を触り、少し照れた様子で笑う。


「別に何もしてないよ。朝、適当に結んだだけ...」


「えー! そんな適当なのに可愛いなんて反則ですよ!」


美羽は大げさなリアクションで二人を笑わせる。


三人で歩きながら、美羽が話題を振った。


「ねえ、今日の放課後、新しくできたカフェ行かない? イオンの中にできたんだけど」


「ごめん、今日は生徒会の仕事があるんだ」


天音が申し訳なさそうに答える。彼女は生徒会副会長を務めていた。


「そっか〜。晴翔はどう?」


「俺はいいけど...」


「よし、決まり! 放課後、教室で待ち合わせね!」


美羽の勢いに押され、晴翔はただ頷くしかなかった。


学校の門が見えてきた。「市川いちかわ市立妙典みょうでん南高校」の看板が朝日に照らされている。


「じゃあ、私はこっちだから」


天音は職員室方向へ向かう廊下へ。晴翔と美羽は教室のある階段へ。


「またあとでね!」


天音の笑顔を見送りながら、晴翔は何とも言えない感覚に襲われた。


「どうかした?」


美羽が訝しげに晴翔を見ている。


「いや...なんか今日、お姉ちゃんが特別に眩しく見えるなって」


「朝から姉弟のノロケですかー」


「ち、違う!そんなんじゃないんだよ」


「はいはい、否定するところが可愛いよね〜」


「うるさいな...」


「でもさ、天音先輩って本当に綺麗だよね。学年一のお姫様って感じ」


美羽の言葉に、晴翔は少し誇らしげに笑った。


「まあな」


この日常が、ずっと続くと思っていた。あの時は——。


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