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第3話

教室に入ると、すでに何人かのクラスメイトが席についていた。窓際の席で本を読んでいる鴻上こうがみ直人なおと。黒縁メガネをかけた理知的な男子だ。


「よう」


「おはよう、晴翔」


直人は本から目を離さずに挨拶を返した。


「また難しそうな本を読んでるね」


美羽が直人の本を覗き込む。『形而上学けいじじょうがく入門』と書かれたタイトル。


「興味ある? 貸してあげるよ」


「えー、遠慮しとくよ! 私には難しすぎる〜」


「そうかな? 晴翔は読んでみない?」


直人が晴翔に本を差し出す。


「今度にするよ。今は小説読んでるし」


「相変わらず、SF小説か?」


「うん、星新一ほししんいちの短編集」


直人は満足そうに頷いた。


「なるほど。君らしい選択だ」


この何気ない会話も、普段と変わらない日常の一部だった。


チャイムが鳴り、担任の佐藤さとう先生が入ってきた。ホームルームが始まる。


「では出席を取るぞ」


名前を呼ばれるたび、教室に「はい」という声が響く。


朝霧あさぎり晴翔はると


「はい」


結城ゆうき美羽みう


「はーい!」


いつもと変わらない朝。ただ、晴翔の胸の奥に何かが引っかかる感覚があった。朝、天音が話していた夢の話だろうか。


「なんだろう...この違和感」


窓の外を見ると、雲一つない青空が広がっていた。あまりにも鮮やかで、現実離れした青さ。


晴翔は空を見上げたまま、つぶやいた。


「今日は、いつもと少し違う気がする...」


そんな予感は、この後すぐに現実となる。


だが、その時の晴翔には、まだ何も分からなかった。


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