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第4話

放課後、約束通り美羽と一緒にイオンへ向かった。


「ねえねえ、このカフェ、インスタ映えするらしいよ!」


美羽は嬉しそうにスマホ画面を見せる。確かにオシャレな内装のカフェだ。


「へえ、すごいな」


「『すごいな』じゃないよ! もっと興味持ってよ〜」


美羽が頬を膨らませる。


「ごめん、ごめん。どんなメニューがあるの?」


それだけで機嫌を直した美羽は、嬉しそうにメニューの説明を始めた。


「クラウドパフェっていうのがあるんだけど、綿あめみたいな雲の形をしたクリームが乗ってて...」


二人がカフェに入り、窓際の席に座った。注文を終えると、美羽が急に真面目な顔になった。


「ねえ、晴翔」


「どうした?」


「最近、なんかあった?」


唐突な質問に、晴翔は首を傾げた。


「特には...」


「そっか...」


美羽は少し安心したような、少し物足りないような表情を浮かべる。


「なんで?」


「いや、なんとなく。最近の晴翔、ちょっと考え事が多いなって思って」


晴翔は驚いた。そんなに分かりやすかっただろうか。


「そうかな...」


「そうだよ! 授業中もボーっとしてるし」


「まあ...ちょっと気になることがあっただけ」


「何? 話してみなよ」


晴翔は少し迷った後、口を開いた。


「お姉ちゃんが、最近変な夢を見るって言うんだ」


「夢?」


「うん、空を飛べるようになったり、欲しいものが手に入ったりする夢」


美羽は目を丸くした。


「それ、超能力じゃない?」


「夢の話だよ」


「でも、そんな夢見るようになったのって最近なの?」


「うん、ここ二、三日らしい」


美羽は急に身を乗り出してきた。


「ねえ、天音先輩に心配事とかない?」


「特には...」


「うーん...」


美羽が考え込んでいると、注文したドリンクと「クラウドパフェ」が運ばれてきた。綿菓子のような雲の形のクリームが、パフェの上に浮かんでいる。


「わぁ! すごい!」


美羽は早速写真を撮り始めた。色々なアングルから撮影し、満足した様子で頷いている。


「晴翔も撮ってあげようか?」


「いや、いいよ」


「もう、照れ屋さんなんだから」


晴翔がスプーンでパフェをすくい、口に運んだ。甘くて冷たい。


「うん、美味しい」


「でしょ!」


二人がパフェを楽しんでいると、晴翔のスマホが鳴った。天音からのLINEだ。


『生徒会終わったよ。今どこ?』


晴翔は返信する。


『イオンのカフェにいる。「クラウド」って店』


すぐに返事が来た。


『今から行くね!』


「お姉ちゃん来るってさ」


「マジで? やったー!」


美羽が喜ぶ様子を見て、晴翔は思わず笑った。仲の良い友達が姉と仲良くしてくれるのは、何だか嬉しい。


「ねえ晴翔、さっきの話の続きだけど」


美羽が再び真面目な表情になる。


「天音先輩の夢の話、なんとなく気になるんだよね」


「どうして?」


「なんか、望月もちづきくんが言ってたことと似てるなって」


望月もちづきれん。銀髪の不思議系男子だ。同じクラスだが、あまり話したことはない。


「望月が何か言ってたの?」


「うん、『最近、空が違って見える』って」


晴翔は思わず窓の外を見た。確かに、今日の空はいつもより青く、澄んでいる気がした。


「空が...違う?」


「そう、それと...」


美羽が言いかけたとき、カフェの入り口のドアが開いた。


天音が息を切らせて入ってきた。


「ごめん、急いできた!」


「お姉ちゃん」


「先輩!」


天音が二人の席に駆け寄る。その途中、足が滑ったのか、バランスを崩した。


「わっ!」


晴翔が反射的に立ち上がる。


その瞬間——


天音の体が宙に浮いた。


一瞬、完全に浮いたように見えた。


「え...?」


晴翔も美羽も、そして天音自身も、言葉を失った。


次の瞬間、天音はバランスを取り戻し、普通に立っていた。


「今の...」


美羽が目を丸くして天音を見る。


「お姉ちゃん、今...」


晴翔も言葉を失った。


天音は自分の手を見つめ、それから二人を見た。


「変...な夢を見たのは...夢じゃなかったのかな...」


カフェの窓から差し込む陽の光が、天音の姿を幻想的に照らしていた。


晴翔は、自分たちの「普通の日常」が、この瞬間から変わり始めたことを直感した。


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