放課後、約束通り美羽と一緒にイオンへ向かった。
「ねえねえ、このカフェ、インスタ映えするらしいよ!」
美羽は嬉しそうにスマホ画面を見せる。確かにオシャレな内装のカフェだ。
「へえ、すごいな」
「『すごいな』じゃないよ! もっと興味持ってよ〜」
美羽が頬を膨らませる。
「ごめん、ごめん。どんなメニューがあるの?」
それだけで機嫌を直した美羽は、嬉しそうにメニューの説明を始めた。
「クラウドパフェっていうのがあるんだけど、綿あめみたいな雲の形をしたクリームが乗ってて...」
二人がカフェに入り、窓際の席に座った。注文を終えると、美羽が急に真面目な顔になった。
「ねえ、晴翔」
「どうした?」
「最近、なんかあった?」
唐突な質問に、晴翔は首を傾げた。
「特には...」
「そっか...」
美羽は少し安心したような、少し物足りないような表情を浮かべる。
「なんで?」
「いや、なんとなく。最近の晴翔、ちょっと考え事が多いなって思って」
晴翔は驚いた。そんなに分かりやすかっただろうか。
「そうかな...」
「そうだよ! 授業中もボーっとしてるし」
「まあ...ちょっと気になることがあっただけ」
「何? 話してみなよ」
晴翔は少し迷った後、口を開いた。
「お姉ちゃんが、最近変な夢を見るって言うんだ」
「夢?」
「うん、空を飛べるようになったり、欲しいものが手に入ったりする夢」
美羽は目を丸くした。
「それ、超能力じゃない?」
「夢の話だよ」
「でも、そんな夢見るようになったのって最近なの?」
「うん、ここ二、三日らしい」
美羽は急に身を乗り出してきた。
「ねえ、天音先輩に心配事とかない?」
「特には...」
「うーん...」
美羽が考え込んでいると、注文したドリンクと「クラウドパフェ」が運ばれてきた。綿菓子のような雲の形のクリームが、パフェの上に浮かんでいる。
「わぁ! すごい!」
美羽は早速写真を撮り始めた。色々なアングルから撮影し、満足した様子で頷いている。
「晴翔も撮ってあげようか?」
「いや、いいよ」
「もう、照れ屋さんなんだから」
晴翔がスプーンでパフェをすくい、口に運んだ。甘くて冷たい。
「うん、美味しい」
「でしょ!」
二人がパフェを楽しんでいると、晴翔のスマホが鳴った。天音からのLINEだ。
『生徒会終わったよ。今どこ?』
晴翔は返信する。
『イオンのカフェにいる。「クラウド」って店』
すぐに返事が来た。
『今から行くね!』
「お姉ちゃん来るってさ」
「マジで? やったー!」
美羽が喜ぶ様子を見て、晴翔は思わず笑った。仲の良い友達が姉と仲良くしてくれるのは、何だか嬉しい。
「ねえ晴翔、さっきの話の続きだけど」
美羽が再び真面目な表情になる。
「天音先輩の夢の話、なんとなく気になるんだよね」
「どうして?」
「なんか、
「望月が何か言ってたの?」
「うん、『最近、空が違って見える』って」
晴翔は思わず窓の外を見た。確かに、今日の空はいつもより青く、澄んでいる気がした。
「空が...違う?」
「そう、それと...」
美羽が言いかけたとき、カフェの入り口のドアが開いた。
天音が息を切らせて入ってきた。
「ごめん、急いできた!」
「お姉ちゃん」
「先輩!」
天音が二人の席に駆け寄る。その途中、足が滑ったのか、バランスを崩した。
「わっ!」
晴翔が反射的に立ち上がる。
その瞬間——
天音の体が宙に浮いた。
一瞬、完全に浮いたように見えた。
「え...?」
晴翔も美羽も、そして天音自身も、言葉を失った。
次の瞬間、天音はバランスを取り戻し、普通に立っていた。
「今の...」
美羽が目を丸くして天音を見る。
「お姉ちゃん、今...」
晴翔も言葉を失った。
天音は自分の手を見つめ、それから二人を見た。
「変...な夢を見たのは...夢じゃなかったのかな...」
カフェの窓から差し込む陽の光が、天音の姿を幻想的に照らしていた。
晴翔は、自分たちの「普通の日常」が、この瞬間から変わり始めたことを直感した。