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第5話

「え、え、え、今の...」


結城ゆうき美羽みうの声が、カフェ内に響いた。彼女は信じられないものを見たという表情で、目を丸くしている。


朝霧あさぎり天音あまねは、まるで何も起きなかったかのように笑顔を作った。


「何が?」


「今、先輩が...」


朝霧あさぎり晴翔はるとは、咄嗟に口を挟んだ。


「つまずいたように見えたけど、大丈夫?」


晴翔は姉の目を見つめながら、小さく頷きかけた。天音は一瞬だけ困惑した表情を見せたが、すぐに理解したようだ。


「あ、うん。ちょっとつまずいただけ。床がツルツルしてるからね」


美羽は二人を交互に見つめ、首を傾げた。


「でも先輩、今...」


「あ、このパフェすごいね! 雲みたいだ!」


晴翔は強引に話題を変えた。天音もすかさず相づちを打つ。


「わぁ、本当だ! 初めて見た!」


姉弟の息の合った演技に、美羽はまだ半信半疑といった表情だったが、次第に疑いの色は薄れていった。


「そうそう、クラウドパフェっていうの。インスタ映えするでしょ?」


「うん、すごく可愛い!」


天音が席に座ると、美羽は彼女に向かってスマホを向けた。


「先輩、一緒に写真撮りましょう!」


「え、急に?」


「いいじゃん! ほら、晴翔も入って」


三人で写真を撮り終えると、美羽はスマホを操作しながら眉をひそめた。


「あれ? 先輩、ぼやけちゃってる...」


「え? 見せて」


天音が覗き込むと、確かに彼女の顔だけがわずかにぼやけていた。まるで微かな光の膜で包まれているようだ。


「変だね、もう一回撮ろうか?」


二度目の写真も同じ結果。天音だけがぼやけている。


「補正かけすぎたかな?」


美羽は肩をすくめた。


「まあいいや。パフェ食べよ!」


晴翔は心配そうに姉を見つめたが、天音は平然と振る舞っていた。ただ、彼女の瞳の奥に、わずかな戸惑いが浮かんでいることを見逃さなかった。


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