「え、え、え、今の...」
「何が?」
「今、先輩が...」
「つまずいたように見えたけど、大丈夫?」
晴翔は姉の目を見つめながら、小さく頷きかけた。天音は一瞬だけ困惑した表情を見せたが、すぐに理解したようだ。
「あ、うん。ちょっとつまずいただけ。床がツルツルしてるからね」
美羽は二人を交互に見つめ、首を傾げた。
「でも先輩、今...」
「あ、このパフェすごいね! 雲みたいだ!」
晴翔は強引に話題を変えた。天音もすかさず相づちを打つ。
「わぁ、本当だ! 初めて見た!」
姉弟の息の合った演技に、美羽はまだ半信半疑といった表情だったが、次第に疑いの色は薄れていった。
「そうそう、クラウドパフェっていうの。インスタ映えするでしょ?」
「うん、すごく可愛い!」
天音が席に座ると、美羽は彼女に向かってスマホを向けた。
「先輩、一緒に写真撮りましょう!」
「え、急に?」
「いいじゃん! ほら、晴翔も入って」
三人で写真を撮り終えると、美羽はスマホを操作しながら眉をひそめた。
「あれ? 先輩、ぼやけちゃってる...」
「え? 見せて」
天音が覗き込むと、確かに彼女の顔だけがわずかにぼやけていた。まるで微かな光の膜で包まれているようだ。
「変だね、もう一回撮ろうか?」
二度目の写真も同じ結果。天音だけがぼやけている。
「補正かけすぎたかな?」
美羽は肩をすくめた。
「まあいいや。パフェ食べよ!」
晴翔は心配そうに姉を見つめたが、天音は平然と振る舞っていた。ただ、彼女の瞳の奥に、わずかな戸惑いが浮かんでいることを見逃さなかった。