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第13話 ここに来てこの扱い

 忍崎家。

 古くは忍者として生きてきた一族で、忍法と称した魔法にて諜報活動を行ってきた影に生きる一族である。


 とはいえ明治以降は忍者としての活動はキッパリと止め、エリート魔法使いたちのサポート業務を主な生業としているらしい。


 そんな忍崎家が受け継ぐ固有魔法は「二体一心」。


 なんでも忍崎の血筋の者は必ず双子で生まれてくるらしい(とはいえ、男女の双子で生まれてきたコイツはかなり珍しいらしいが)。

 そんな生まれたばかりの双子の魂を謎の魔法技術で合体させ、一つの魂とする。


 その一つの魂が二つの肉体を同時に扱う……そうすることで普通の二人一組よりも潜入工作や情報収集の精度が上がるのだとか。 


「「二重人格ってあるじゃない? 一つの身体に二つの心ってやつ。あれの逆みたいな感じだよ」」


 忍崎ふたりは、二人並んで正座しながらそう言った。

 しかし名は体を表すとは言ったものの、そのままなヤツも相当珍しい。


「いろいろと気になりまくる。戸籍とかどうなってるの?」

「「二人分あるよ。中学までは義務教育だからどっちの身体も通ってたけど、高校からは一人分でいいかなって思って。ほら、片方男だと、女ボディでも嫌がる女子が多そうでしょう?」」


 まぁ確かにそうだよな。

 俺も聞いててよくわかんない……っていうか、二つの身体を一つの心で扱うって、どんな感覚なのか想像つかないもん。

 あとハモるの止めて欲しい。なんか怖い。


「なるほどな。それで荷物が多かったのか……。ん? 待てよ? ってことはもしかして」

「そう」「こっちの女ボディも」「この部屋を使う」「よ」

「交互喋りも止めろ。ってか……え? ということは……」


 俺、女ともルームメイトになったってこと?

 いや……それはちょっと不味いんじゃ……。


「大丈夫だよ。ちゃんと学園側からの許可は得てるから!」

「許可出ちゃってるのかよ!?」


 固有魔法によっては動物が必須な魔法使いもいるらしく、そういう生徒は事前に申請することで部屋にペットとして連れ込むことができる。

 忍崎の女の方の身体も同じノリで許可が下りたのだとか。


「いや~しかし」「二人部屋になるのは」「想定外でね」「入学試験難しくて」「E組になっちゃった」


 いやいやいや。

 俺だって15歳の男。同じ部屋に女がいるのはかなりキツいんだけど……。

 ってか倫理的にどうなん?

 あっ……。


「そうか……俺のランクが低いから……面倒なヤツ押しつけられたんだ……」


 綺麗なマンション風の寮に興奮していたから油断した。そうか。この倫理的問題児とのルームシェアこそが、低ランク故の不遇扱いということか。

 となると150位のやつがどんなのとルームメイトになったのか気になるところだな……。


「はぁ。本当は澪里にバレないように一年間を終える予定だったんだけどなぁ」

「いや正直に言ってくれや。屋根裏に知らない人が住んでる怖い都市伝説のやつみたいで嫌だよそれ」


 だからコイツ、初対面であそこまで挙動不審だったのか。納得がいった。


「というわけで」「改めて、これからよろしくね」「「澪里~」」


 両サイドから媚びるようにダブル忍崎に挟まれる。さながら忍崎サンドだ。

 片方が押しつけてくる凶悪な胸部に理性が持って行かれないように速やかに離れると、俺は朝の準備を開始した。


「え~もう朝の支度?」「もうちょっとゆっくり寝てようよ~」

「くっつくな! あと女の方! 俺の布団に入るな!」


 二人の忍崎ふたりと格闘していると、スマホが鳴った。

 む、こんな朝から誰だろう? と画面を見ると、どうやら糸式からのようだった。


「もしもし」

『グッドモーニング。いい朝ね』


 軽快な挨拶に俺も「おはよう」と返事をする。

 流石は糸式。朝早くでもいつも通りのコンディションだ。


『ねぇ朝倉くん。提案なんだけど、朝食はまだかしら?』

「ああ。ついさっき起きたところだからな」

『それなら、今日は学食の方で一緒にモーニングなんてどうかしら? 祝勝会というわけではないけれど、昨日の勝利のお祝いがしたいの。朝のコーヒーをご馳走するわよ?』

「モーニングにコーヒーか。なんか大人ぽくていいな。うん、行こう」

『それじゃ、七時半ごろに食堂で会いましょう』

「ああ。じゃあ切るぞ……ふぅ」


 電話を終えると、ダブル忍崎がニヤニヤとこちらを見ている。


「なんだよ何見てるんだよ」

「「彼女?」」

「違う。友達」

「えぇ~ホントに~? 怪しいな~」


 ボディは男女で別れているものの、心なしか女忍崎の方がウザったく絡んでくるような気がする。男忍崎は陰キャぽくて一緒に居て落ち着くんだけどな。

 俺はさっと制服に着替えると、鞄を持って先に部屋を出た。


「同室ガチャは……残念ながらハズレだったな」


 とはいえこれも低ランク故のこと。うん。くじけずに頑張ろう。

 このなんとも言えない気持ちも、上を目指すための重要なモチベーションになるのだから。


 そう思いつつ寮を出て、学校内の広い敷地を歩いて10分ほどで校舎に辿り着く。

 人の少ない食堂に入ると、先に糸式が到着していた。


 テーブルにはコーヒーとサンドイッチなどの軽食が並んでいる。ほんのりと浮かんだ湯気がとても食欲をそそる。


「おはよう糸式。待たせて悪かったな」

「おはよう朝倉くん。気にしないで。待つのも楽しいから」


 糸式の向かいに座る。奢りとのことなので、遠慮なくサンドイッチを頂く。


 うん。美味しい!


「――それでね。うちのクラスの先生がね」


 楽しそうにおしゃべりしている糸式と対象に、俺はまだ今朝あった出来事を消化しきれないでいた。


 忍崎(女)の胸……デカかったな。

 なんてことを考えながら、俺はふと、自然に、ごく当然の流れで、本当にチラッと、糸式の胸元に視線を落とした。


 手の平に今朝の感覚が蘇り、少しだけ心がかき乱される。


「ねぇ朝倉くん。何か失礼なこと考えてない?」

「いや……別に」


 女子は自分の胸元への視線にすぐ気づくというが、それは本当らしい。

 ギロリと睨まれた俺は素直に反省する。


 ライバルであり目標である糸式にそういう感情を抱くのは失礼だ。この煩悩は消し去らなければならない。


 今日の放課後は滝行でも行こうかな。


 そう思い糸式に「この学校滝とかある?」と尋ねたところ、普通に「あるわよ」と答えが返ってきた。


「……あるんかい」


 改めてこの学校、凄いなと思った。


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