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第14話 魔法の授業

 入学直後の浮ついた気分も冷めやらぬ中、七星学園一年生の授業は始まった。


 一般科目の授業レベルは非常に高い。春休み期間も勉学を怠ったつもりはなかったが、それでも内容を理解するので精一杯だった。

 気を抜けば、一瞬で振り落とされ置いていかれてしまう。そんなピリついた雰囲気に、口角が自然と上がる。


 これだよこれ。俺はこういうのを待っていたんだ!


 そして、午後からは魔法関連の授業が行われる。

 一年一学期は担任が指導担当となり、初歩的な汎用魔法の使い方をマスターする。


 初日の授業ではインパクトを使った的当てと、俺にとっては簡単な授業内容で拍子抜けしたが、二日目からその難易度は格段と高くなった。


「よし。では各自練習を開始しろ」


 汎用魔法の授業はその日に使う魔法をダウンロードし、先生の実演を見せて貰う。

 そして詳しい使い方の説明の後に課題が与えられ、各自の練習時間。


 授業内に課題をクリアできれば合格で、ランキングの「学内活動」に加点が入る。


 各授業での加点は1点と塵みたいな数字だが、これを積み重ねることに意味がある。塵も積もれば山となるだ。


「とは言ったものの、どうするかね」


 今日の魔法授業のテーマは「フユーン」という汎用魔法。その名の通り、物体を空中に浮かせる魔法である。


 手の平から浮かせたい物体に対して魔力を放ち、覆う。すると魔法式の効果によって物体がふわふわと浮かぶので、魔力コントロールによってその状態を保つ。


 今日の授業では、バスケットボールを30秒間浮かせることができれば課題クリアとなる。


 説明を聞いた限りでは簡単そうに思われたが、これが結構難しい。


「――フユーン!」


 スマホに魔力を通し、変換された魔法を手から放つ。ここまではインパクトと同じ要領でできる。

 だが自分の体から離れた魔力のコントロールは想像以上に難しい。


 浮遊状態を維持どころか、対象の物体を浮かせることができない。


「はっ! くっそムズい! 楽しいなぁおい!」

「みおりんうるさいし」


 叫んでいたら横のギャルに怒られてしまった。


 とはいえ難し過ぎて逆に面白いのは本当だ。同時に、叫びたくなるほどイライラしているのも事実。

 先生の説明では持ち上げるまでは魔法がやってくれるようなことを話していたが、実際やってみたら持ち上げるのにもコツがいる。


 そのコツが掴めない限り、この魔法をマスターすることはできなそうだ。


「よし30秒。忍崎ふたり、合格」

「ほっ……」


 授業開始からまだ10分だというのに、もう合格者が出始めている。

 無策でこのままやっていても仕方ないし、合格者にコツを聞きに行くか。


「なぁ忍崎」

「うん? どうしたのみおりん」


 俺は課題をクリアし教室の隅でスマホを弄り始めた忍崎(男)に尋ねる。


「コツとかあるか? 魔法を使ってもバスケットボールが浮かび上がらなくてさ」

「ええ~? それってスタートラインにすら立ててないじゃない」

「ぐっ。まぁいいじゃないか。それでさ、コツとかあったら教えてくれよ」

「うんいいよ。ええとね。ひゅーんひょいって感じ」

「は?」


 忍崎は妙なジェスチャーをしつつそう言った。


「ひゅーんひょい……とは?」

「だからひゅーんひょいだよ。魔法はフィーリングが全てだからそうとしか言えない。それでわからないならそれまでだよ」

「それまでって……」

「いいじゃん別にできなくても。落第とかある訳じゃないんだし」

「いや、できないまま終わるのは気持ちが悪いだろ」

「ええ~?」


 すると、俺と忍崎が言い争っているとでも思ったのか、担任の黒崎が近づいてきた。


「おいおいどうした。喧嘩か? 喧嘩は怖いから止めてくれ~」


「いや、違います。ちょっと忍崎のコツを聞いていただけで」

「コツ?」


 俺は事情を説明した。物体を浮かせるときの感覚が掴めないのだと。


 先生から魔法をマスターするための何か有益な手がかりが掴めるかと思ったが……。


「ふぅむ。これは忍崎が言っていることが正しいな。最初の段階で感覚を掴めないヤツはいくらやっても無駄だろう」

「そんな……」

「所謂才能ってやつだな。魔法に関しては生まれ持った適正が全てだ。できるやつは最初からできるし、できないやつは何をやっても無駄。おいおいそう睨むな朝倉。一学期の汎用魔法の授業は『汎用魔法を使えるようになる』授業じゃないんだぜ?」

「え?」

「自分がどんな魔法に適正があるのか? それを知るための期間だと思え。なぁにそう不安がる必要はない。お前にも何か適正がある魔法が見つかるさ。見つかったら、それを伸ばせばいい」

「……」


 その言葉に頷くことはできなかった。


 才能。生まれ持った能力。


 そんな言葉で片付けたくない。


「そもそも汎用魔法って、誰にでも使える魔法じゃなかったのかよ」


 そう悪態をつきつつも、頭では理解している。誰にでもできるのは魔法の「発動」まで。

 それを使いこなせるかどうかは適正次第ということだろう。


 例えるなら銃だ。銃は引き金を引く力さえあれば誰でも撃つことができる。だが撃った弾が狙い通りに当たるかは腕次第。


「タイムリミットは18時か……」


 まだ時間はある。闇雲に挑戦するより、周囲を観察してみることにする。


 既に課題を終えている者を除けば、この場にいる生徒は二種類。


 俺のように全く浮かない者と、浮かせることはできるが30秒キープできない者。


 この場で観察するべきは後者。一体俺とアイツらでは何が違う?


 生まれ持った感覚? いや、そんなはずはない。

 魔法という技術において、生まれ持った才能が必要なのは固有魔法と魔力の有無のみのはず。

 いくらフィーリング重視とは言え、魔法の発動感覚に生まれ持った能力が必要とは思えない。

 天才的な能力の代名詞だったあの絶対音感ですら、最近の研究で後天的に身に付けられると判明しているのだ。


 何か、何か感覚を掴むためのヒントがあるはずなんだ。


 よく見ろ。観察しろ。何か……何か。


「あ~ん。あと2秒だったのにぃ~!」


 とある女子が失敗したらしい。大きな声に釣られてそちらを見てみる。


 バイン……バイン……バンバン


 浮遊魔法が解除され、地面に落下。その後何度かバウンドしているバスケットボールが目に入った。


「そういえば、なんで浮かせる対象はバスケットボールなんだろう。わざわざ体育館から運んできて。なんでも良さそうなもんだけど。もしかして何か意味があるのか……いや待てよ」


 その時、俺は閃いた。

 どうしてこの課題のターゲットがバスケットボールでなくてはならなかったのか。


「残り時間で掴めるかはわからないけど……やってみるか」



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