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第19話 改造魔獣

「――ブラックバインド!」


 糸式が魔力を込めて投げた三つのヘアゴムは強靱な鎖のように魔物の動きを封じ込める。


「ギエエエエエエエ!?」


 糸式家の固有魔法は束縛魔法。様々な条件下で発動し敵の動きを封じ込める魔法だ。


「――バレット!」


 糸式のお陰で敵の動きが止まった。その隙を突いて再びフルパワーでバレットを放つが、マジックビートルの外殻によって軽減され、大したダメージにはならない。


「マジかよ。本当にさっきよりパワーアップしている」

「ギギギ……」


 俺の攻撃で焼け焦げた外殻もジュウゥと音を立てて再生していく。

 そして、出来上がるのはさらに分厚く堅そうな外殻。


「む、無駄です。あの魔物は捕食した魔物のデータを使って肉体を修復するんです。ダメージを与えれば与えただけ、強くなる」


 俺たちが助けた女子生徒――灰村先輩はそう語る。「これが根拠」とでも言いたげに自身のスマホ画面を見せつけてきた。


 彼女のスマホ画面に表示されているのはあのAランク魔物を構成する魔法式。

 確かにアイツの肉体の修復と同時に魔法文字が書き換わり、変化している。


「いやちょっと待てよ。ってことはあの魔物は先輩がリアライズさせたのか?」

「は……はい」


 彼女、灰村先輩は個人で魔物の研究を行っていたらしい。


 リアライズする魔物をもっと強く、賢くできれば魔法使いが戦わなくていい時代が来るのでは? とのことから魔物の魔法式の解析を続けていたのだとか。


 そして、彼女が目を付けたのがDランクのスライムという魔物。


 スライムの捕食という能力。弱い魔物を肉体に吸収することで性質を変化させる特性に目を付けた。


 日々コツコツ。アナログの魔法文字を書き連ね、ようやくデジタル化に成功した改造スライム。今日はその実験初日だったのだという。


「で、暴走したと」

「はじめはよかったんです。でも3体くらい取り込んだところから言うことを聞かなくなってしまって……」


 実験に失敗はつきものだ。トライアンドエラーが成功の鍵。


 とはいえこれは失敗の規模が大きすぎる。あれが大暴れすれば死者が出るだろう。


 いや……そもそもこのまま俺たちだって。


「話は終わったかしら? そろそろ対策を考えたいんだけど」


 敵を拘束し続ける糸式が叫ぶ。幾重にも束縛の魔法を使い敵の動きを封じているが、その額には汗が浮かんでいる。あまり時間はなさそうだ。


「大丈夫だ。攻略法法は思いついた」

「本当なの朝倉くん!?」


 驚く糸式と灰村先輩に、俺は頷いた。


「一番不本意なやり方だけどな。先輩、スマホを借りてもいいですか」

「え!? 一体どうするつもりなの?」

「なるほど……朝倉くんならできるわね」


 困惑する先輩と、俺の意図を察した糸式。


「で、でもでも男の子にスマホを渡すなんて……」

「いいから先輩。早く」

「はいっ」


 糸式に言われ、先輩はおずおずと俺にスマホを手渡した。


 俺は開かれていたあの改造スライムの魔法式をスクロールさせる。


「なるほど。大体わかった。順番に剥がしていけばなんとかなりそうだ」

「は、剥がす? 君は一体何をするつもりで」


 簡単だ。

 先輩はさっき、あの魔物が進化する度に魔法式が書き換わっていると言ったが、それは肉体を構成する部分のみ。


 もちろん現在リアライズしているヤツの肉体部分に干渉することはできないが……。


「ここ。捕食リストなら書き換えが可能みたいですね」


 捕食リストの項目。ここにはヤツが食べたと思われる魔物のデータが保管されている。魔物数体分の莫大なデータ。


 ここを消していけば……ヤツを弱体化させられる。


「よ、よくわかったね……へぇ、ここが捕食者リストなんだ」

「彼は特別なんですよ」


「よし、じゃあ始めるぞ」


 まずはさっき食べたマジックビートルから。


「ギ!? ギギギギギ!?」


 糸式に拘束されたままの魔物の姿が変化した。あれはここに来る前の、先輩を抱えて飛んでいた時の姿だ。


「す、凄い……戻った」

「狙い通りね朝倉くん」

「ああ。どんどんいくぜ」


 勢いよく、敵の捕食者リストを削除していく。その度にヤツは弱体化していき……そして。


「ぷるん……」


 Dランクの魔物……素の改造スライムがその場に残った。

 あれなら、楽勝そうだ。


「ぷるうううう」

「あら、逃がさないわよ」


 スライムのいる地面に魔法陣が広がり動きを封じられる。さっきからちょいちょい思ってたけど、糸式の魔法全部強いな?


「当然。糸式家の固有魔法ですもの。じゃあ朝倉くん」

「ああ。トドメは俺に任せろ」


 俺は動けない改造スライムに対してバレットを放つ。もちろん、最大出力。


「ぷるうううううううう!?」


 ゼリーみたいにぷるぷるだったスライムは、一撃で蒸発した。


「ふぅ……なんとかなったな」


 こうして、俺たちは演習場での騒ぎを静めることに成功するのだった。

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