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第8話

 ◆


 目覚めたとき、美咲の身体を襲ったのは鋭く刺すような腹部の痛みだった。


 ベッドから起き上がろうとすると痛みが走り、思わず呻き声をあげる。


「痛っ……!」


 両手で腹部を押さえ、しばらくじっとしていると痛みは和らぐが、完全には消えなかった。


 美咲は壁を伝うように立ち上がり、洗面所へ向かう。鏡に映った顔はひどく青ざめ、目の下には濃い隈が浮いている。


 こんな状態で大学へ行くのは無理だ。美咲は再び病院を訪れることを決めた。


 前回と同じ内科医が、再び美咲の診察を行った。


「またお腹の痛みですか……。前回よりも酷くなったと?」


「はい……もう、日常生活も辛くて」


 医師は慎重に腹部を触診し、その後、前回よりもさらに詳しい検査を行った。血液検査も含め、エコー、レントゲン、あらゆる検査を済ませた後で、診察室に再び呼ばれる。


「やはり、異常はないですね……」


「そんな、でも痛いんです……本当に、すごく」


「うーん……」


 医師も困惑した顔を隠さなかった。データ上は何一つ異常がないのだ。


「ひょっとすると精神的な要因が強くなっているのかもしれません。何か最近、不安なこととかありました?」


 美咲は何も答えられなかった。ただ、あの手紙のことが頭をよぎった。


 結局、「痛み止めを処方しますから様子を見てください」と言われただけで診察は終わった。


 部屋に戻ると、郵便受けにはやはり新たな封筒が差し込まれていた。美咲はそれを手に取った瞬間、再び腹部に鋭い痛みが走った。


 苦しみながらも、美咲は部屋に戻り封を切った。


――


『おかあさんへ


きょうもさくらは、いいこにしています。

でも、おとうさんはまだおこっています。

おとうさんは、さくらがいなくなればいいといいました。

さくらがいるから、おとうさんはしあわせになれないそうです。


きのうは、ごはんをたべさせてもらえませんでした。

さくらはおなかがすいて、ないてしまいました。

でも、おとうさんはもっとおこってしまいました。


さくらはどうしたらいいですか?

さくらはもっともっといいこになります。

だから、おかあさん、はやくあいにきてください。』


――


 読み終えると同時に、腹部の痛みが再び激しくなり、美咲はその場に崩れ落ちた。


「……やめて……」


 苦しみの中で、美咲は呻くようにそう呟く。


 さくらの苦痛が、まるで自分の中に移ってきているようだった。


 しかしどうしてこんなことが起きているのか、誰にも説明することはできなかった。

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