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目覚めたとき、美咲の身体を襲ったのは鋭く刺すような腹部の痛みだった。
ベッドから起き上がろうとすると痛みが走り、思わず呻き声をあげる。
「痛っ……!」
両手で腹部を押さえ、しばらくじっとしていると痛みは和らぐが、完全には消えなかった。
美咲は壁を伝うように立ち上がり、洗面所へ向かう。鏡に映った顔はひどく青ざめ、目の下には濃い隈が浮いている。
こんな状態で大学へ行くのは無理だ。美咲は再び病院を訪れることを決めた。
前回と同じ内科医が、再び美咲の診察を行った。
「またお腹の痛みですか……。前回よりも酷くなったと?」
「はい……もう、日常生活も辛くて」
医師は慎重に腹部を触診し、その後、前回よりもさらに詳しい検査を行った。血液検査も含め、エコー、レントゲン、あらゆる検査を済ませた後で、診察室に再び呼ばれる。
「やはり、異常はないですね……」
「そんな、でも痛いんです……本当に、すごく」
「うーん……」
医師も困惑した顔を隠さなかった。データ上は何一つ異常がないのだ。
「ひょっとすると精神的な要因が強くなっているのかもしれません。何か最近、不安なこととかありました?」
美咲は何も答えられなかった。ただ、あの手紙のことが頭をよぎった。
結局、「痛み止めを処方しますから様子を見てください」と言われただけで診察は終わった。
部屋に戻ると、郵便受けにはやはり新たな封筒が差し込まれていた。美咲はそれを手に取った瞬間、再び腹部に鋭い痛みが走った。
苦しみながらも、美咲は部屋に戻り封を切った。
――
『おかあさんへ
きょうもさくらは、いいこにしています。
でも、おとうさんはまだおこっています。
おとうさんは、さくらがいなくなればいいといいました。
さくらがいるから、おとうさんはしあわせになれないそうです。
きのうは、ごはんをたべさせてもらえませんでした。
さくらはおなかがすいて、ないてしまいました。
でも、おとうさんはもっとおこってしまいました。
さくらはどうしたらいいですか?
さくらはもっともっといいこになります。
だから、おかあさん、はやくあいにきてください。』
――
読み終えると同時に、腹部の痛みが再び激しくなり、美咲はその場に崩れ落ちた。
「……やめて……」
苦しみの中で、美咲は呻くようにそう呟く。
さくらの苦痛が、まるで自分の中に移ってきているようだった。
しかしどうしてこんなことが起きているのか、誰にも説明することはできなかった。