斎藤楓が立っていた。
そしてその足元に、全身に傷が目立つ男が咳をしながら倒れている。
「長谷川……さん」
アサルトライフルを持っていた男がそう呟いて、気絶してしまった。
僕らより前を歩いていた彼らは、あの銃撃で重傷を負ってしまった。
「楓先輩」
「……来たな、村瀬」
僕は彼と目があった。
僕はそれまで抑えていた怒りがふつふつと熱を帯びていく感覚に、平衡感覚を失い、僕は拳銃を向けた。
「村瀬!」
背後に居た中村と浅井がそれを静止させようと声を荒げた。
……僕は拳銃を下ろして二人の方を見た。
そして、現状をどう看破するか思案させる。まず、呼吸を安定させて心拍数を落ち着かせる。
「村瀬さん、あなたはここまで来ておきながら、だんまりですか」
斎藤の声がする。
スモークグレネードを投げてあそこにいる全員に発砲させないようにする。それから、
「出てこないと、長谷川をここで殺します」
視界を奪ってから近づいてアサルトライフルを奪い、
「5」
足を打って無力化させて時間を稼ぎ、
「4」
地下に向かう西本と中村、
「3」
彼女の元へ僕と浅井と渋木さんが、
「2」
いいや、そんなうまく行くわけがない。
「1」
「――――」
僕はその一言を告げると、両手をあげて廊下に体を晒した。
拳銃を捨てて、一歩一歩と歩いた。
「斎藤楓 先輩」
彼の薄い金髪が揺れ、黄色い瞳が僕に憎悪を向けていた。
そして、僕は背後で拳銃を構えている中村と――指示通り隠れてアサルトライフルを持った浅井に向けて、こう言った。
「撃ちまくれ」
同時に渋木さんと西本が投げ入れたスモークグレネードと、中村と浅井の激しい銃撃が僕の両耳を激しく揺らした。
前方からも銃弾が飛び交ったが、僕は後ろにジャンプして頭を両手で守り、地面に寝転がった。
背後へ思いっきり飛び込んだ時、自分の下の方で寝転がっていた味方の男達の黄色い布に真っ赤な血が染まっていくのが見えた。