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第37話 私はそれでも構わない、むしろ私がいると何か不都合な事でもあるのか?

「……入奈先輩、こんなところで何をやってるんですか?」


「ひ、人違いじゃないですか?」


「いや、もう入奈先輩って事は分かってるんで」


 ゴールデンウィークのカラオケの時よりも変装のクオリティは明らかに上がっていたが俺の目は欺けなかった。俺にバレたくなければ特殊メイクでもしてくるしかない。


「この前のカラオケの時もそうだったと思うが何で私だとすぐに分かるんだ?」


「入奈先輩の事にはかなり詳しい自身がありますからね」


 俺と入奈が何年一緒に過ごして来たと思ってるんだ。同棲までしていた事もあって食べ物の細かな好き嫌いや寝相までしっかりと俺は知っている。

 だがそこまで考えて先程の発言に問題しかない事にようやく気付く。付き合ってもいない女子に対してあんな事を言うと普通にキモがられる可能性がある。


「そうか、有翔は私に詳しいのか。良い心がけだ」


 あっ、全然問題なかったわ。入奈の俺に対する好感度が謎に高くて本当に助かった。これが佐渡さんや黒瀬さんならこうは行かなかったと思う。


「それで入奈先輩はアミューズパークまでわざわざ何をしに来たんですか?」


「ああ、有翔が万が一私に対して嘘をついていないかどうか確認しに来たんだ。ちゃんと男子の友達と来てたようだし有翔の無罪は証明された、良かったな」


 相変わらず入奈は謎の行動力を発揮したようだ。その行動力を友達作りに向ければぼっちからも脱却出来ると思うんだが。

 何はともあれこれで入奈の目的は達成されたはずだ。そんな事を思っていると後ろから誰かに話しかけられる。


「佐久間そんなところで何してるんだ……ってもしかして取り込み中だったか?」


「いや、ちょうど今終わったところだ」


 振り向くとそこにはジュースを持った島崎と天瀬の姿があった。そう言えばさっき自動販売機コーナーに行くとか言ってたな。


「佐久間君って意外と女子の友達が多いよね、この前もばったり会ってたと思うし」


「……ちょっとその件について有翔の口から詳しく教えて欲しいのだが?」


 天瀬が余計な事を言ってくれたせいで入奈が面倒な事を言い始めてしまった。そもそも天瀬が言ってるこの前ばったり会ったって女子の友達は多分入奈の事だぞ。それを説明するためにひとまず天瀬に確認する事にする。


「ちなみに天瀬が言ってるのってゴールデンウィークのカラオケの事だよな?」


「うん、そうだよ」


「じゃあその時の子と同一人物だぞ」


「えっ、そうなの!?」


 俺の言葉を聞いた天瀬は驚いた表情でそう声をあげた。入奈は前回とはまた別のテイストで変装をしているため天瀬が気付かなくても仕方がないとは思う。


「って訳だ、これで入奈も満足か?」


「ああ、とりあえずは満足した」


 カラオケの時は他の高校に通う同い年の友達という設定にしていたのでタメ口で話しているわけだが、入奈はその意図を理解してくれたらしく特にツッコミは入れてこない。

 とにかく入奈も納得してくれたのでこれで一件落着だろう。そう思っていたのも束の間、新たな問題が発生してしまう。


「もし良ければ私も有翔達と一緒にボウリングしても良いだろうか?」


「僕は全然大丈夫だよ」


「お、俺も問題ないです」


 何と入奈が俺達に混ざって遊びたいと言い始めた挙句、島崎と天瀬がオッケーを出してしまったのだ。面倒な事になりそうな気がしたので俺は考え直すよう説得を試みる。


「いや、この前のカラオケとは違って全員男子だから正直つまらないと思うぞ」


「私はそれでも構わない、むしろ私がいると何か不都合な事でもあるのか?」


「いや、別にそんな事は無いけどさ」


 これ以上断ろうとすると間違いなく不信感を与えてしまうため諦めるしかなかった。男だけで遊ぶ時間は残念ながら終わりだ。

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