俺は言われるがままに書類を書き終え入学手続きを進めていた。
とある男が来るまでは。
「お前…なんでそんなとこに入ろうとしてるの?」
その声は、俺に向けられたものだった。
「テストの結果らしい」
「らしい…ねぇ」
その男は何かを言うわけでもなくじっと俺を見つめる。
「お前が入るべき学園はそこじゃない」
「?」
男は俺のそばにいた試験官らしい男をにらみつける。
「【異界王序列10位】グリモア」
男が口にしたのは名前だろうか?
だが、その瞬間雰囲気が変わる。
「我の名においてこの男を【神聖ラルグ学園】に入学させる」
「お…お待ちください!」
試験官がそれを止めようとするより早く、グリモアと名乗った男は俺が書いていた書類をつかむと、どこからか炎がわき紙を炭に変えた。
「こっちの書類にサインしろ」
グリモアと名乗った男に渡されたのは1枚の紙。
さっきまで書いていた書類とは雰囲気が違い神聖な書類に見えた。
だが、サインしろと言われたのでそのまま俺はサインをした。
「完了だ。晴れてお前は神聖ラルグ学園の十二番目の生徒となった」
らしい。
やはり【自分】のことがわからない。
すべてが他人事のように感じる。
「貴様…名前は?」
ふいにグリモアからそんな問いを投げかけられた。
「わからない」
「ほう…なら貴様はしばらくザグと名乗れ」
「ザグ…?」
「ああ。名前がないと不便だからな」
そういうものなのか…
「我のことはグリモアでいいぞ。同じ異界王だろうからな」
「異界…王?」
「この能力都市を統括しているのが異界王だ。十二名分の席が用意されているんだが…ザグで席が埋まったな」
「異界王は…何をすればいい?」
「自分の得意なことをすればいい。どうせ全権利は序列1位が持っている。1位にならない限りはそう忙しいものでもないしな」
さて…とグリモアは一息つき、言った。
「歓迎するぞザグ。新たな仲間として」
差し出された手を、俺は握り返すのだった。