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弁当配布

 人夫さん達が集まり、ようやく仮設の療養部屋の建設が開始された。あらかじめ仕切りを作っておいたし、患者さんがここに入る事はまずないので俺達はいつも通りとはいかないが、診療を開始した。


 来る患者さんもさすがに疑問を抱いたのか俺に工事の事を訪ねてくる。


「ねえ、あれって何なの?」

「あれは仮設の療養部屋の建設をお願いしているんです」

「療養部屋?」

「そうですね、大ケガとかですぐに帰れない方の為に一時的に泊っていただく部屋ですね」


 俺が療養部屋の話をするとその患者さんは驚きを隠せず声をあげる。


「まあ、大ケガで寝泊まりができる建物がこの街でできるなんてすごいわ」

「やっぱり入院施設って珍しいものなんですか?」

「ええ、教会がある街ならそれも可能だけど、キッコには教会がないからね」


 教会が入院施設のような役割をしているのかこの世界は、いや、俺の住んでいた世界でも病院施設が本格的に造られる前はそうだったかもしれないな。


 そんな話も聞いて、午前の診療が終わり、俺は少し外に出て人夫さん達に声をかける。


「皆さん、お疲れ様です。その疲れてませんか?」

「旦那!俺達はもっと大変な現場を経験してますし、これくらい平気でさあ!」

「それは頼もしいですね、でもおなかがすきませんか?」

「そういやあ、腹が減って来たな、よし、みんな!メシにするぞ!」


 それなりに人数はいるが何かふるまった方がいいだろうな、そう考えているとどこからともなく声が聞こえてきた。


「こんにちは、ユーイチ君!人夫の皆さん、お腹が空いたなら私の作ったお弁当はいかがですか?」

「お!美人さんが俺達に弁当を!旦那、気が利きやすね!」

「いえ、俺は特には……、そういえばメルどうして今日が建設の開始日って知ってたんだ?話す暇はなかったはずだ」


 2日しかなかったし、俺の方も人夫さんを受け入れる準備をしていたからメルに話す暇はなかったが、メルがこの事を知っている理由を話してくれた。


「昨日ね、うちの店にソフィアさんがトム君と一緒に食べに来てね、その時建設の話を聞いたの」

「ソフィアさんが、そうだったのか」

「それに前にユーイチ君にも話したじゃない、お弁当を持っていくって」

「確かにそう言ってたが、まさか初日に来てくれるとは思わなかったな」


 俺がそう言うとメルがお弁当を人夫さんの元に運んで配布している。


「はい、皆さん、どうぞ召し上がってください」

「ありがてえ、あんた女神だぜ」

「ええ⁉女神……、そ、そうだユーイチ君達の分もあるよ」


 女神か、この調子で料理界の女神になってくれ。

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