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海都ポルト

「間もなく海都ポルトです。長時間の移動、お疲れさまでした」

 聞こえてきた案内に反応したレイカが、客車につけられた窓から顔を出す。


 同じ行動を取り、進行方向へと視線を向けると、白い石材を基盤に作られた真っ白な都が見えた。


「あれが海都ポルト……。魔法剣士ギルドがある街……!」

「そうだよ。これから僕たちは、あの大きな船がある建物に向かう。あそこに魔法剣士ギルドがあるんだ」

 街の中心から外れた場所に大きな帆船が繋げられた港があり、すぐそばに魔法剣士ギルドの本部がある。


 今回の僕たちの目的は、船を使わせてもらう許可を得ること。

 それと、レイカの紹介をすることだ。


「私、魔法剣士になれるのかな……。なってもいいのかな……」

「才能の有無で断られることはどうしてもあるけど、君なら問題ないよ。ちょっと魔法剣士の戦い方を教えただけなのに、既に自分の物にできているんだから」

 魔法剣士を志そうとする者は、最初に試験を受けることになっている。


 試験内容は各種能力の確認と実技試験。

 その後、いくつかの任務を受けて認められることで、正式な魔法剣士として活動できるのだ。


「それにしても、レイカちゃんを魔法剣士にさせたい理由が、二人を守りたいからだなんて……。普段のほほんとしてる割に、時々とんでもないことを思いつくんですから」

「魔法剣士という存在を利用しているようなもんだし、あまり褒められたことではないだろうけどね……。使えるものは何でも使う。魔法剣士の教えの一つさ」

 魔法剣士ギルドは世間的に大きく知られた組織なので、姉弟の内のどちらかを所属させておけば、悪意を持った手が近寄ってくることはなくなるだろう。


 危害を加えられる可能性が減るだけでなく、いざという時に自分たちを守る力も得られるというわけだ。


「それに魔法剣士になれば、ギルド内の施設は家族内であればいくらでも利用できるようになるんだ。蔵書室には結構な年代物の本もあるから、レイカたちにはうってつけさ」

 蔵書室という言葉に、姉弟の目はキラキラと光り輝きだす。


 彼女たちとしては、それを利用できることこそが最も嬉しいことなのかもしれない。


「渡航許可と、船を使わせてくれる許可が出ない限りは『アイラル大陸』に向かえない。それまではここに滞在することになるから、あとで街の紹介もしないとね」

 現在は冬の始め。冬の間に船を出せなければ意味がない。


 遅くとも二か月以内に許可が出ればいいのだが。


「気長に行くしかないけど……。さあ、到着だ。荷物を持って、魔法剣士ギルドに行こう!」

 僕たち四人は客車から降り、海都へと入っていく。


 吹き付ける潮風は、冷たくも懐かしい香りだった。



「ここが魔法剣士ギルド。さあ、扉を開けるよ」

 特に寄り道をすることもなく、僕たちは魔法剣士ギルドの正面玄関にやって来た。


 木製の扉を開けるため、取っ手に手をかけようとするのだが。


「ルペスさん、また遊びに来ますねー! あ、ごめんなさい! 失礼しました~」

 それよりも早く、嬉しそうな笑顔を浮かべた女性が扉を押し開けて外に出てきた。


 ぶつかりそうになった彼女は、僕に小さく会釈をしてから去っていく。

 あの人は魔法剣士ではなさそうだ。


「……相変わらず、お元気なようですね」

「さっきの人、ナナさんの知り合い?」

「ん? さっきの人は全然知らないよ。中にいる人がね、面白い人なんだ」

 ナナとレンのやり取りを聞きつつ、ギルドの入り口を通り抜ける。


 建物の中には多数のテーブルと椅子が置かれ、奥には左右に一つずつカウンターが。

 数名ずつの集団が各テーブルに座り、飲み物を口にしながら談笑しているようだ。


「変わらない……。五年前と同じだ……」

 感傷に浸りながらも、向かって右側にあるカウンターへ向かう。


 そこは依頼の受注等を行う受付であり、一般の人たちが列をなして並んでいる。


「依頼を受領いたしました。あとは我々魔法剣士にお任せあれ……」

 カウンターでは、白い服を着た男性が気取りながら受付作業をしている姿が。


 リハビリをしながら、様々な業務をしていると連絡があった。

 元気よく働けている姿を見て嬉しいと思うのと同時に、少し寂しい気持ちに襲われてしまう。


 そんなこんなでしばらく待ち続け、とうとう僕たちの番となる。


「ようこそ、魔法剣士ギルドへ……。あなたのお話を、私に――って、おや?」

「お久しぶりですルペス先輩。お元気でしたか?」

 受付をしている茶髪の男性――ルペス先輩に挨拶をする。


 最初は動揺が勝っていた碧い瞳が、喜びの色に染まっていく。


「君は……! 大切な後輩の白雲君じゃないか! もちろん、俺は元気さ!」

 先輩は両腕を大きく開き、歓迎をする身振りを取ってくれる。


 先ほどは寂しさを抱いてしまったが、明るく元気な彼の表情を見て、嬉しさが心を満たしていく。


「よく見たら、青薔薇ちゃんもいるじゃないか! 久しぶりだね! 俺のことを覚えているかい?」

「もちろんです。当時はお礼も言えず、申し訳ありませんでした。その節は、本当にありがとうございました」

 ナナは深々とお辞儀をし、お詫びとお礼の言葉を口にする。


 彼女の行動に先輩は驚くような表情を浮かべた後、感慨深げにこう言った。


「そうか……。そこまで戻ってこれたんだな……。グス……。やるじゃないか白雲君!」

 先輩の目じりがキラリと輝いている。


 五年前のことを思えば、彼にとっても嬉しい出来事だろう。


「あの……。白雲君とか、青薔薇ちゃんって何ですか?」

 単語の意味が分からなかったらしく、レイカが質問をしてきた。


 僕から見てもかなり変わっている点なので、先輩を知らない彼女が戸惑うのも無理はないか。


「変わっているとは失礼だなぁ。あだ名をつけることで、親近感を得やすいようにしているというのに」

 先輩は不満げに唇を尖らせていた。


 白雲君というのは僕のことで、青薔薇ちゃんはナナのことを指す。

 彼は誰にでもあだ名をつけることで有名であり、魔法剣士、一般問わず、彼から別名を貰った者は数多い。


 僕のあだ名の由来は、その名の通り空に浮かぶ雲だったはず。

 ナナはどのような意味を込められていただろうか。


「おっと。久々に会えたという感傷に浸りすぎるのも良くないな。白雲君、君がここに来た理由を確認させてもらう――前に、別のテーブルに移動しようか。話が長くなりそうだしね」

 先輩はいくつかの資料をカウンターから取り出しつつ、別の人物に業務の引継ぎをすると、別のテーブルへと移動した。


 僕たちも彼の行動に随行し、席に座る。

 ナナだけはすぐに座らず、もう一つのカウンターへ近づいて行った。


 あそこは飲食関連の受付なので、飲み物を取りに行ってくれたのだろう。


「お話したいことは二点あります。まず一つ目ですが、新たな魔法剣士候補者を一名連れてきました」

 話しつつ、隣に座るレイカを紹介する。


 若干おどおどしている様子を見せたが、以前と比べたら落ち着いているようだ。


「れ、レイカです! よろしくお願いいたします!」

 怯えていることを気取られないようにするためか、大きな声で挨拶をするレイカ。


 王都で行った注意を、ちゃんと実践できているようだ。


「ああ、よろしく! これはまた、新たな名を考えねばいけなさそうだ……!」

 先輩は挨拶を返すと、メモを取り出して何かを書きだした。


 十中八九、レイカのあだ名を考えているのだろう。


「そして、もう一つのお話になります。『アイラル大陸』に向かうための船、レジナ・ウェントゥス号を出して頂きたいのです」

 先輩の行動を気にも留めず、最大の目的を伝える。


 僕の言葉に、彼はメモを取る手を止めた。


「船を出せ……か。とりあえず、その話は置いておくことにしよう。俺たちだけで話すにはあまりにも大事だ」

 先輩はメモ帳をしまうと、資料の束から一枚の紙を取り出した。


 それを僕の前に置き、ペンの用意もしてくれる。


「まずは新人魔法剣士の話からにしようか。候補がいるという話は人伝に聞いてはいたが、君が候補者を連れてくるとはね……。時の移ろいは早いものだ」

 置かれた紙は、登録手続き書のようだ。


 用意してくれたペンを使い、必要事項を記入していく。

 所々でレイカにも記入をしてもらい、必要な部分は全て記入し終えることができた。


「よし、記入に問題はない。早速適性試験を受けてもらいところなんだが……。どうやら、ちょうど良い所に帰ってきたようだね」

 ルペス先輩がつぶやくのとほぼ同時に、魔法剣士ギルドの扉が開け放たれる。


「ルペスさーん! 素材をたっくさん、集めてきましたー!」

 扉を開いて入ってきたのは、朗らかな雰囲気を持つ金髪の少女だった。

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