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エルフ少年と私のスイーツ巡り ~ 抹茶パフェは罪深い味
エルフ少年と私のスイーツ巡り ~ 抹茶パフェは罪深い味
裃左右
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年05月01日
公開日
3,801字
連載中
 二度目の人生を歩む少年 陽介は、「異世界と繋がった現代日本」で、異世界からの留学生である少年エルフ、ファルグリンと同級生になる。 美形だが尊大で人間差別的な言動も厭わないファルグリンだが、どこか憎めない彼と陽介は友人として交流を深めていた。  そんなある日、ファルグリンは初めて食べた抹茶パフェに「人間が作ったとは思えないほど美味」「実に罪深い」と衝撃を受ける。これをきっかけに、エルフの独特な食文化観を持つ彼は、陽介を巻き込んで現代日本の「和風スイーツ巡り」を開始する。  老舗の和菓子、モダンなカフェスイーツ……様々な「罪深い」和スイーツに触れるたび、ファルグリンは驚きの声を上げ、陽介はそれに戸惑いつつも面白く付き合う。価値観の違いに触れ、ツッコミと感心の応酬を繰り返す二人。スイーツを通して異文化理解が進む中で、彼らはそれぞれの世界の「普通」を知り、お互いの存在が、この少し不安定な世界でかけがえのないものになりつつあることに気づいていく。  これは、一度人生を終えた人間と、永い時を生きるエルフが、甘くて「罪深い」和風スイーツを味わいながら、友情と絆を深めていく、ほのぼのユニークでちょっぴりエモい物語。

第1話 罪深いパフェと出会った

 生前は、野郎のエルフと抹茶パフェ食べることになるとは思わなかった。

 人生とはわからぬものである。

 ちなみに生前とは言ったものの、今の私は幽霊ではない。二度目の人生を歩んでいるだけである。いわば来世ともいえるだろうか。


 それはさておき、私の知る限りエルフはみな美しい。

 もちろん、同席するこの男にも言えることだった。


「人間が作ったとは思えないほど美味だな」


 エルフの男は差別意識を露わにして、パフェを評した。

 いや、男というには、少し幼すぎたか。

 そう、私と一緒にパフェを食べているのは少年のエルフだった。それでも店内の女性たちの目線をくぎ付けにしているのだから、将来が恐ろしいものである。

 古来より、イケメンはモテるものだ。エルフなんて街中を歩けば、女性が列をなしてついてきそうなものである。


 ……なんの大名行列だ、それは。


「聞いているのか、陽介」

「もちろん聞いているよ」


 陽介は、今の私の名前だった。


「ふん、どうだかな。ただでさえ人間は寿命が短いんだ、ぼーっと生きて無駄にするほど余裕があると思うなよ」

「耳が痛い忠告だね、気を付けるよ」

「ああ、そうしろ。僕が人間に忠告することなんてそうはない」


 彼は何かと人間に対して差別的意識があることを、人間である私にすら明言してくる。

 と言っても、彼に悪意はない。


 非常に差別的でエルフが最もこの世で優れていると思っているだけで、基本的に善意の人(エルフ?)である。

 毒舌なのは機嫌が悪いからではなく、これが素だ。むしろ上機嫌なくらいだ。


 いつもは口をへの字に曲げ、眉をしかめている様なのだが、今は穏やかに眉毛がアーチを描いている。

 まあ、どんな表情をしていても美形は様になるのだから、うらやましい。


「そうかい? 君に気に入ってもらえて何よりだよ」


 嫉妬なんてどこへやら、私は微笑みかけた。


「せっかく一緒に食べるのだから、君にも楽しんでもらえないとね」

「ふん。最初はどんな粗末な場所に連れていかれるかと思ったが、悪くない店だ。……それに、この抹茶といったか」


 スプーンでパフェを掬うたび、彼は満足そうにうなづく。


「実に素晴らしい。ぜひ、父上にも食べさせてやりたいものだ」


 この尊大な少年エルフ、その名もファルグリン。


 古いエルフの言葉で、運命を司る精霊を意味するのだそうだ。

 なおフルネームもっと長い。エルフは祖先を大事にしていて、尊敬する人の名前を、いくつも受け継ぎ連ねるルールがあるそうなので。


 もっともフルネームを名乗るなんて、人前でみだりにする習慣ではなく。大事な儀式の際に口にすることがある程度の頻度らしい。

 なので、ファルグリンと私は良き友人であるのだけどフルネームは知らなかった。


「にしても、この国の和風スイーツとやらは、実に罪深い」


 ファルグリンは真剣な表情で、そう和風スイーツについて考察した。

 何言ってるんだ、このエルフ。


「罪深い?それは……なんというか、未知の見解だね」


 和風スイーツが罪深いとは、生前生後を含めて初めて聞いた。

 ここのパフェは牛乳を取り扱う企業直営のカフェ。濃厚なソフトクリームに芳醇な香りの抹茶、道産小豆に白玉をトッピングした正統派和風パフェだ。

 これのどこが罪深いのか。


「ああ、人間にはわからぬ感覚だろうが、な」

「それはエルフの文化に関係することなのかな」

「まあ、そうだな。原初のエルフは『始まりの大樹』より産み落とされた。いわば、世界樹とも言える存在を母体としている」

「なるほど。授業でエルフ史について、すこし聞いた気がするよ」


 ファルグリンとは同級生だった。

 エルフは見た目で年がわからないものだが、ファルグリンは見た目通りの年齢である。

 見た目通りじゃないのは、ある意味むしろ私の方だった。なにせ一度死んでやり直している身である。


「ならば話は早いだろう。エルフにとってすれば、植物こそが血肉だ」

「ああ、そうなる……のか?」


 いまいち感覚的に納得できなかった。

 祖先が樹木なら、植物を食べる事こそが肉を食むこと同じだと?


「僕らの感覚からしてみれば、サラダなんて人間の食事の仕方は非常に野蛮な部類だった」

「え、本当に?」

「ああ。僕や父上は食べるがね、古代じゃあるまいし」

「へえ、君はなかなか革新的なエルフなんだね」


 サラダを食べるエルフは、革新的。自分で言っていて、意味が分からないね。


「それはそうだ、こちらの世界に留学するくらいだからな」

「文化的ギャップが激しそうだね。次元を超えてくるなんて尊敬に値すると思うよ」


 そう、生前との大きな違いはそれだった。

 歴史があちこち改変されて、第二次世界大戦のさなかに日本は異世界とつながっていたのである。


 他にも、アメリカやドイツが異世界と繋がっている。

 ここだけ聞けば夢がありそうなものだが、異世界の事情は深刻であり、こちらも繋がった理由が悲劇的なものだった。

 なにせ、それには核兵器による爆発が関係しているのだから。

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