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第2話 ブルマとセーラー服に涙して

二日目にして地獄を見る二人




 二日目の朝。氷室澪は、いつも通り自宅の玄関を開けた。

 だが、見慣れた黒塗りの高級セダンと運転手ではなく、制服姿の大人の女性がふたり、車の前で並んで立っていた。




「おはようございます、お嬢様」


「おはようございまーす♪」




 微笑むのは、昨日転校してきた謎の“女子高生”二人――

 実は澪を護衛するため、民間警備会社セキュリティ・アテナから送り込まれたボディガード、**服部倉子(24)と真田真子(24)**だった。




「本日より、通学時の送迎は私たちが担当いたします」




 倉子が免許証を差し出し、真子は満面の笑みでドアを開ける。




「どうぞ♪」




 澪は思わず眉をひそめた。




「え……あの、倉子さんが運転を……?」




「ご安心ください。免許は取得済みですし、年齢も――すでにバレておりますから」




(いや、それバラしたの自分ですから!)




 思わず心の中でツッコミを入れる澪。


 さらに車に乗り込む瞬間、彼女はもう一つの重大な懸念を抱えていた。




(いやいやいや、制服姿で運転してるの、どう見ても不審者でしょ!?

 警察に止められない方が奇跡なんですけど!?)




 セーラー服を着たまま高級車のハンドルを握る24歳――

 そのビジュアルがどれほど世間の常識から逸脱しているか、澪は本気で心配になった。




 そしてその日は、まだ始まったばかりだった。




* * *




 午前の授業はなんとか無難に過ぎていった。


 が、昼休みを終えたあとのチャイムが鳴った瞬間、担任の水無瀬先生が明るく言い放った。




「はい、次は体育の時間ですよー!」




 教室中がざわつく中、倉子と真子の顔がピクリと引きつった。




 更衣室に移動して体操服を受け取ったとき、倉子は声を失った。




「……これ、まさか……」




 手にしたのは、白のTシャツと青いブルマ。

 令和の時代に絶滅したはずのそれが、まさかの現役で支給されたのだ。




「嘘でしょ……今どこも短パンでしょ!? なんで!?」


「なにこの文化財みたいな装備!? あたしたち博物館行きっスか!?」




 二人は完全にパニックだったが、着替えないわけにもいかない。

 その後のグラウンドで、地獄は現実となった。




 24歳、ブルマ姿。


 太もも全開。風を感じる。さらなる羞恥の嵐。




 グラウンドに立つ倉子は、ひとこと。




「……体育、男女別なのが、せめてもの救いね……」


「うん……男子に見られてたら、魂が抜けてたッス……」




 体育は50メートル走だった。だが本当の試練は、“走ること”ではなかった。


 走れば揺れる。風が巻く。ブルマが食い込む。




「風が……直接……っ!!」

「太ももが丸見えなのに全力で走るって、羞恥プレイでしかないッス!」




 それでも、なんとか授業を終えた二人は、ずるずると足を引きずりながら更衣室へ戻る。




「……終わった……私の尊厳、消えた……」

「記憶から削除したい……SPにこんな苦行があるなんて聞いてない……」




 だが、地獄の終わりは、まだだった。




「ねえ、真子……この学校って、体育……週何回あるの?」


 倉子が更衣室でぼそっと尋ねる。




 それに気づいたクラスメイトが、軽く答えた。




「ん? 体育? 週に3回だよー。月・水・金!」




「……」




 沈黙。




 倉子の肩が、ピクリと震えた。




「……週、3回……?」


「うっそ……まさかの高頻度……」




 ドサッ。


 二人同時に崩れ落ちる。




「三回もこれ着るとか、死ぬ……!!」

「なにこの拷問……生き地獄ッス……!!」




 この時、屋上でぐったりと日陰に座る二人の表情は、まるで魂を抜かれた抜け殻だった。




「ねえ……真子……私たちの任務って……お嬢様が卒業するまで、だよね……?」


「うちの会社、そう言ってました……」


「……ってことは、あと……三年……?」


「……ブルマ生活三年……?」




 二人の視線が空に溶けていく。




 そして同時に――




「三年もあったら途中で死ぬってば!!」




 夕暮れの空に、ふたりの魂の叫びがこだました。




 こうして、二人の“女子高生護衛任務”は、二日目にして早くも生存限界ラインに突入したのだった――。



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