トラブル大統領の逆襲
ある日の朝、職員室で耳にしたニュースに、倉子と真子は思わず顔を見合わせた。
「トラブル大統領、再選されました」
「……嫌な予感しかしない」
真子はニュース画面に目を凝らしてつぶやく。
「でも、この期間、平日っすよ? うちらは学校あるんで“安泰”っす」
「……だと、いいんだけど」
そして放課後、悪夢は現実になった。
携帯に届いた“社長”からの緊急連絡。
『本日の学校での護衛任務終了後、大統領警備に参加するように。場所は滞在ホテル。詳細は現地指揮官と合流の上で伝える』
「はあ? 私たちには何の関係もないでしょ!? 向こうには本物の専属SPがいるはず……」
『向こうからの名指し指名だ。拒否は許されない』
「えええええええええ!?」
その日の夕刻、二人は制服のまま、大統領の滞在する超高級ホテルへ向かっていた。
ホテルのロビーで合流したのは、前回の来日時にも苦楽をともにしたアメリカ側のSPたち。
「やあ、二人とも。昨年以来だね」
「ご無沙汰っす……」
妙な親近感と同士のような空気が流れる。
「早速で悪いが、総理大臣官邸に同行してくれ」
「総理大臣官邸!? えっ、なにそれ……本当に行くんですか?」
「ずっと悪い予感が続いてる……」
その予感は的中する。
官邸の応接室に通され、スーツ姿でいつになく真面目な表情を浮かべた大統領が立ち上がった。
「二人のおかげで、我が軍に所属する兵士の愚かな行為が未然に防がれた。君たちは我が国の名誉を守った英雄だ。ここに“大統領自由勲章”を贈りたい」
「……は?」倉子
「……え?」真子
「えええええーーーー!?」
頭が真っ白になる中、隣に座っていた日本の総理大臣まで口を開いた。
「我が国としても、二人の行動に感謝を表したい。外務省と防衛省より、正式な表彰を検討している」
「ええええええええええええええ!???」
絶叫する二人の制服姿は、国際会談の場においてあまりにも異様で、だが誰よりも目立っていた。
こうして、“制服のSP”、世界に再び名を轟かせる。
――そして、地味に、だが確実に、伝説はまたひとつ更新されたのだった。
エピローグ:締めのトラブル
焼き鳥外交という名の悪夢が、ようやく一段落した……そう思ったのは、ほんの束の間だった。
「いやあ、実にうまかった! やっぱり日本の焼き鳥は最高だね」
満足げに串を手にしたまま、大統領がにこやかに言う。
「さて、締めにラーメン行きたいね」
倉子と真子の動きが止まる。
(……え? 締め?)
「うむ、予約を取った店があります」
何の躊躇もなく応じたのは、まさかの総理大臣だった。
(……え? 総理……?)
「地元でも評判のラーメン店です。ぜひご一緒に」
(いやいやいやいやいや! 総理! なんでそんなに前のめり!?)
二人は再び、両国の首脳に挟まれ、今度はラーメン屋の暖簾をくぐることになる。
国家規模で繰り広げられる“ラーメンの儀式”を、誰が想像できただろうか。
「……この流れ、終わる気がしない……」
「次はスイーツですかね……? もう笑うしかないっす……」
制服のSPに、明日も明後日も安息はない。