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ロキの悪戯

「輪廻転生」とは、魂の再利用である。生前にカルマを背負った咎人、逆にグナを積んだ善人の魂の記憶を洗浄、再形成、保管をしてしかるべき時に魂を利用することが輪廻転生である。カルマを背負った咎人には罪を償うために苦難の道へグナを積んだ善人は生前の臨んだ人生をそれぞれ贈る。


ただし例外もある。


歴史的な快挙、これまた逆に歴史的な大罪。歴史に名を刻んだ人物はまた別である。その魂は生前の善意、悪意、知識、こだわりが魂に強く定着してしまっていて洗浄や再形成が不可能なのだ。そのためそれらの魂は神も入れないような保管庫で厳重に丁寧に保管されている。もし、その魂が何かの手違いで輪廻転生してしまうと現世に「歪み」が発生して世界の法則が壊れる。もちろん、その魂が内包されている媒体も現世に持ち込んではいけない。


─────────────


北欧神話の悪戯の神 ロキは魂の保管庫の前につく。保管庫の警備をしている神使の二人は、向かってくるロキを呼び止める。


「ロキ様、ここから先はロキ様でも立ち入りを許せません。」


「この先は神も入ってはいけない領域。お引き取りください。」


ロキはなおも歩みを進めてくる。二人はそんなロキを止めようと槍先を向ける。


「お引き取りください。」


「え~…い~じゃん…ちょっとだけ見せてよ。」


「見るのも入るのも行けません。お引き取りください。オーディン様へ言いつけますよ。」


ロキは「え~」とがっかりすると踵を返して帰る振りをして、二人を手刀で気絶させた。倒れた二人を並べて懐を探って保管庫のカギを手に取った。


「ふぅ、君らみたいなモブが神である僕に勝てるわきゃないでしょ~……っとさて、僕は僕の仕事をまっとうしようかな~♪」


ロキは保管庫へ入りその美しさに目を奪われた。魂の保管庫での魂の保管の仕方は奇抜で魂の水晶を土に埋めてその水晶を「種」として木を育てるように保管する。年月が経つに連れて水晶からは芽が出てやがて樹木となり華が咲いたり果実が実ったりする。その華や果実をたまに「神」の気まぐれで一般の魂へエッセンスとして入れたりする。現代に皆もびっくりするような天才が時たま現れるのはこのためだ。

ロキは最奥に生えているストレチアの花が咲き誇っている場所へとたどり着いた。美しいストレチアの花へ手を伸ばして露ロキは根元から花を摘んだ。その後も、純白のカサブランカ、真っ赤なグズマニア、革命的な緑色のキング・プロテア、希望に満ちた黄色のガーベラなど目についた花を摘んでいく。そしてふと我に返り、手に持った花を見つめる。


「ふふ…面白いことになるぞ~」


ロキはそうつぶやくと花を持ったまま保管庫を出て摘んだ花束を空へ思い切り投げた。花は保管庫の近くの水面へ落ちるとそのまま落ちていく。ロキはその様子を見つめて悪戯ぽく嗤いその場から去った。もちろん、そのあと目が覚めた警備の二人は大慌てで「神」へ急いで報告した。


─────────────


呼び出された布田 龍兎と無田 皆無は「神」の前にたどり着く。上も下も左右も曖昧で時間も空間認識もできない空間に玉座が一つ。その玉座に男にも女にも知り合いにも見知らぬ人にも見える人型が座っている。


「来たぞ~」


「今回は何が?」


神は二人の近くへ玉座をおろして今回の概要を説明する。


「今回の指令はね……まぁ、なんだろうな……」


歯切れの悪い神に二人は首をかしげる。


「どうした?何をそんなに口ごもっている?」


「言葉を選んでいるのだろう。考えればわかるだろう阿呆が。」


「んだと?」


「ふん!」


二人が喧嘩を始める前に神は口を開く。


「今回はね、魂の保管庫に保管されていた「魂の花」が五輪とも摘み取られてその五輪ともが様々な世界へ落とされてしまった。君たちにはその五輪を破棄してもらいたい。」


二人は破棄という言葉に神へ向き直る。大体、こんな時は「回収」という言葉になるのだが、今回は何やら事情があるようだ。


「破棄?珍しいな。すでに世界が壊れかかっているのか?」


「もしくは、あなたたち側のミスとか?」


皆無の言葉に神は図星を突かれたようで微妙な顔をして黙り込んでしまい、二人は呆れた顔で神を見つめる。


「はぁ……お前マジかよ。」


「我々側の問題だったらあなたはこんな指示は出さないはずですからね。」


「いやぁ…その、ね?今回は例の問題神もんだいじがね?」


「どの問題神かわからんが?」


皆無が挙手をして先ほどの推理同様に鋭い答えを口に出す。


「こんなことをするのは北欧神話の悪戯の神ロキですね?」


神はまたしても図星で無言でうなずく。


「はぁ、マジかよ……」


そして、神は申し訳なさそうに口を開いた。


「ということで、二人には悪いけど尻ぬぐいをお願いしたい。回収だと邪魔されたときに別の問題が発生するから今回はすぐに破棄でいいよ。」


「そりゃわかったが、期限は?どこの世界にどんな感じになっている?」


「ん~……そうだな……今回はこちら側のミスも加味しても五輪で10年の50年以内だな……」


「そちらのミスなのに?」


「ん~……」


「ほれほれ、もうひとこえ。もうひとこえ。」


神は数分うなった後にため息交じりに口を開く。


「わかった……今回はこちらのミスも加味して60年以内だ。それまでに五輪の魂の花を破棄すること。」


修正係フィックス 布田ふた 龍兎りゅうと頑張りま~す!」


抹消係イレイザー 無田むでん 皆無かいむ使命をまっとうします。」


二人が踵を返して行こうとした時に神は慌てて二人を呼び止める。


「二人ともちょっと待って!」


「んだよ。」


「なんでしょうか?」


「今回は二人が知っている世界の過去とか未来とかに散らばってて、花の力を持ってしまった群衆モブがいるんだ。」


「もう、なんでもありだな。」


「まぁ、いいでしょう。それで?それだけのために呼び止めたのでは無いでしょう?」


神はうなずくと手をかざした。するとそこにだんだんと人型が形成され始める。龍兎と皆無はだんだんとその人型ができてくると顔をゆがめていく。二人の前に現れたのは五人。人相の悪いつり目の高校生くらいの少年。黒髪で真面目そうな雰囲気の少年。丸い目をした純粋そうな青年。大きな身体の中年くらいの男性。そして、刀を携えた制服の少年。五人は目を開くと「空白の空間」を見渡す。


「各世界の主人公…彼らを英霊サーヴァントとして現界させた。彼らと一緒に花を破棄してきてくれ。ちなみに、英霊と言っても彼らの死ぬ前の記憶と過去の彼からから少しずつ記憶を集めて作ったものだから記憶は死ぬ直後で身体は全盛期のものになっているよ。」


「マジか…なんでもありだな。」


「なるほど、これを入れて最初は規則通りの50年と言っていたのですね。」


「では、幸運を祈る。」


二人は召喚された五人へ説明して何とかついてきてもらったのだった。


【召喚された各世界の主人公】


科学と魔法の世界 主人公 出典:「魔装戦士」

晴山 優悟


異能力の世界 主人公 出典:「BLACK D.O.G 」

黒瀬 零


科学と自然の世界 主人公 出典:「オウィディウス:リュコス乂ティグリス」

明星 一狼


怪獣の世界 主人公 出典:「№4」

六代 伊吹


科学の世界 主人公 出典:「月光霧刀の魔幻導士」

夜月 朧


次回 花弁(魔装戦士の世界)1

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