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魔装戦士
魔装戦士
河鹿虫圭
現代ファンタジースーパーヒーロー
2025年05月01日
公開日
3.7万字
連載中
少年は戦う、己が意思を突き通すため── 魔法と科学が発達した世界。 そんな世界で魔力がない不良高校生 晴山 優吾は何となく高校に行き何となく暮らしていた。 そんなある日、いつも通り遅刻して学校へ行き、指導室で反省文を書いているとクラスメイトの彩虹寺 綾那が松葉杖を突いて入ってくる。意気投合とまでは行かなかったが、彩虹寺と少し話して退学しようとしていた考えを改める。 その後は彩虹寺のいじめにも遭遇し、何か縁を感じ始め放課後も何となく一緒に帰ろうと誘おうとしたが、彩虹寺の様子がおかしい。後をつけるとなんと彩虹寺は魔法術対策機関として魔族から人を守っている様子を目撃してしまった。 ピンチに陥った彩虹寺の様子に優吾は彩虹寺を庇い魔族に追われる。そして、優吾がピンチに陥った時、形見の石が語りかけてきた。 イシを持ちし者よ。聞こえますか─── 力を使いなさい─── と…… わけも分からないまま優吾は石を握り、頭の中に流れ込んできた詠唱文を唱える…… 魔装!!─── これは、魔力のない少年が父から貰った形見の石に運命を動かされる物語であり、少年が魔装戦士として戦い、成長する物語である。 カタラレヌ・クロニクル シリーズ第2弾(仮)(予定)!!

1:戦士

夢を見た。


誰の身体か分からない一人称視点の夢。何か黒い靄と戦っている夢。


時折、自分の両手を見て拳を握る。そして、再び視線を黒い靄へと向け、殴り掛かろうとしたところで目が覚める。


「あ、やべ。」


スマホの液晶を見ると、とっくに始業の時間を過ぎており遅刻であることを表示していた。

このまま登校しても無駄だし、今日は休むかと再び布団へ顔をうずめるが、枕もとの父の形見の石を見る。青くキラリと朝日に照らされる美しい光。それが目に入ると父に見られているようで気まずくなり、石を握り起き上がる。


どのみち遅刻なのでゆっくりと支度を始める。風呂に入り、制服の袖に腕を通す。形見の石を首にかけ、そして簡単にトーストを焼き、バターを塗り、口へと放り込む。2枚のパンを完食して、登校用のカバンを玄関へ置き、靴へ履き替えようと靴箱へ手を伸ばそうとしたが、忘れていたものを思い出し、リビングに向かう。そして、両親が笑顔で並ぶ写真のある仏壇へ手を合わせて、再び玄関へと向かい靴へ履き替える。立てかけてある自転車を押して門をくぐる。そしてペダルへ足をかけて、そのまま長い坂を勢いをそのままに下る。


この地域は立地が特殊でとても深い窪地になっている。元々、この辺は海で隕石かもしくは、地盤隆起でこの辺一帯が蒸発したのだそうだ。その地域を見つけた人々がここを”満”ちて”干”上がった地域を満干みちひきと命名したそうだ。そして、魔族との交流もあり、他の地域よりも名門の魔術師や魔法使の家系が多く存在する。窪地で他の町から文化が入らない分、この地域自体も独特な文化が根付いている。


長い坂を下っていると俺の通う高校が見えてきた。そのままの勢いで学校へ入ろうとスピードを緩めずにいると校門で何か人影が仁王立ちしてるのが見えた。その影に顔をひきつらせ、ブレーキをかけようと指を乗せたが、人影は俺に気付くと大声で俺の名前を呼んだ。


晴山はるやま優吾ゆうごぉ!!!貴様はまた遅刻しおって!!!今日という今日は絶対に逃がさんからな!!!」


「俺が来るまで待ってたのかよ!!」


ブレーキを思い切り掛けたが、もはや意味がない。


指導教員の嵐山あらしやま岩太がんた通称、山男はその巨体を構え、俺を受け止める体勢になっており、確実に俺を捕まえるという意志を感じる。

山男は足に力を込め、魔法を発動させた。


「マグネキャッチ!!!」


灰色の幾何学模様と共に俺の自転車が赤く光り山男は青く光る。ブレーキを掛けた自転車はその勢いが上がり、山男へと吸い寄せられる。俺だけではない。周りの自転車や、粗大ごみの鍋や、冷蔵庫まで、金属製品が山男へと引き寄せられていた。ブレーキで減速しているにも関わらず自転車は坂を下るよりも速い速度で山男の胸の中へと飛び込み、そのまま拘束された。5月の爽やかな朝の空の下、俺はそのまま生徒指導室へ連行された。生徒指導室へ放り込まれると、反省文を4月の分から合わせて数十枚の原稿用紙が準備されていた。


「よぉし、やっと捕まえたぞ。入学からわざと遅刻しおって。そのくせ、筆記試験は上位付近に食い込む……貴様のように学生を舐めているとろくな大人にならん。いいか?この原稿用紙にみっちりと反省文を書き終えるまで今日は自分の教室へ戻ることは許さんからな?」


んなこと言われても、どのみちあの教室にはすでに俺の場所はないだろう。溜息混じりの返事をすると、俺は約束通り、原稿用紙を埋め始める。2~3時間できっちりと終わらせると、少し、頭を休める。

子供の頃から魔法が使えず、魔力もないから、魔術のうまく詠唱も聞き取れなかった。近くの病院へ行っても原因不明。ただ、体調などに問題がないことから呪いの類でもないと言われた。そんな原因不明のまま魔術文字を翻訳しながら、筆記”だけ”は誰よりも優秀で実技はできない”頭でっかち”と言われ続けてとうとう高校生になってしまった。


「このまま、ここにいてもな。」


ここにいても俺は魔法も魔術も使えないただの無能だ。明日にでも退学願いを出して、どこかで働くか……高校卒業認定とか何とかは後からでも取れるだろうし……

そんな事を考えていると教室の扉がスライドされる。山男が戻ってきたかと席を立ち、完成した反省文を見せようと視線を向けたが、そこにいたのは松葉杖をついた少女がいた。眼帯に、頭の包帯。腕のギプスから相当な怪我をしたのだろうと思うより先にその髪色に目が奪われた。


始めは銀髪に見えたが、光の当たり具合や角度によって様々な色に見える髪の毛。背中の下あたりまで伸びたその髪の毛に目を奪われ、思わず息を飲み込む。そして、うつむいていた少女の顔が目線が俺と合うと次はその瞳の色に目を奪われる。髪の毛同様様々な色に見えてとても綺麗だ。そして、少女と目を合わせたまま数分時間が止まったように少女と見つめ合う。


「……あ、だ、大丈夫か?」


見とれてしまい、少女に声を掛けるのが遅れた。慌てて、手を伸ばし、肩を貸そうとしたが、少女は無言で俺の横を通り過ぎ、俺の席の斜め後ろになるように自分でイスを用意して座った。そのまま、松葉杖を置き窓際に突っ伏してしまう。


「どこか、具合が悪いのか?」


「気にしないでくれ。」


少女は突っ伏したままそういうとそのまま背中をゆっくりと動かし始めていた。

俺も席に着き、山男が来るのを待った。

というか、この空気はとても気まずい…。何か、話題でも振るか?でも、この子は気にしないでくれと言っていたし……


「な、なぁ…その怪我、どうしたの?」


思わず会話を振ってしまった。数分沈黙が流れた後、彼女の背中はゆっくりと起き上がり俺と視線を合わせた。そして、何かを考えるようにさらに沈黙が続くと口を開いた。


「……転んだんんだ。」


「そんな訳ねぇだろ」


思わずツッコミを入れてしまったが、彼女は窓の外を見つめてしまった。そして、また沈黙が流れる。さらに気まずいことになったので、俺は思わず、自己紹介をした。


「お、俺は1-Aの晴山はるやま優吾ゆうごき、君は……?」


1分ほどの間があり、少女はため息交じりに返答した。


「私も、1-A。君とは同じクラスのはずなんだが?」


あ、そうなんだ……俺、入学してから、授業も時々しか受けてなかったし、クラスメイトもろくに覚えてないからなぁ。なんか、悲しくなってきたし、さらに気まずくなってきた。


「バカだな君は。露骨に落ち込むくらいなら、普段から授業に出ればいいじゃないか。サボり魔。」


「ごもっとも……。」


彩虹寺さいこうじ綾那あやな……」


突然、誰かの名前をいうと、首を傾げる俺の方へ振り向く。


「私の名前だ。同じクラスなのだから、覚えてもらわないと困る。」


「さいこうじ、あやな……か。よ、よろしくな。」


あやな、あやなか~綺麗な人は名前も綺麗だな。ただ、こいつはこの成りだ、もしかしたら、クラスで浮いてるかもしれない。今度ペア作れって言われたらこいつと組もう。


「よい、しょ」


彩虹寺さいこうじは辛そうにイスから立つと指導室を出ようと松葉杖をつく。


「おい、大丈夫か本当に。保健室まで送るぞ?」


手を伸ばしたが、彩虹寺さいこうじに手を振り払われ睨まれる。


「やめてくれ、授業も出ない奴と一緒にいたら、バカにされるし、それに名前を教えた程度の中だ。そこまで仲良くはないし、仲良くするつもりもない。」


彩虹寺さいこうじは教室から出ると、松葉杖の音はだんだんと遠くなっていった。

俺は少し、ショックを受けていると、山男が入ってきた。俺は山男へ反省文を見せて、教室へ戻ることを許された。

彩虹寺さいこうじの事は少し気になりつつ、俺は昼飯を買いに購買へと向かった。


──────昼休み──────


昼食は無事に菓子パンを3袋ほど買うことができ、俺はそれをもってこっそりと屋上へ向かう。基本、屋上には入ってはいけないが、教室の奴らは俺がいると教室の奴らは気を悪くするだろうと思い、いつも屋上で昼食を取っているのだ。


「今日の♪メシはカレーパンに~ホットドック~♪」


歌いながら、屋上へ続く階段を駆け上がり、屋上のドアを開ける。そして、誰もいないことを確認して、昼食を取ろうと、菓子パンの袋に指を掛けていると、どこからか声が聞こえてきた。


「誰かいるのか?」


先約がいるのならここでは飯食えねぇじゃんと思いながら、場所を移そうとドアノブに手を掛けたとき、その声と会話が大きな音と共に聞こえてきた。


「お前さ本当にうざいんだよ!」


心配になり、声と音のする方へと向かう。丁度、死角の多い場所で女子が複数人で誰かを囲んでいて、殴ったり蹴ったりをしていた。つまるところ、いじめの現場に遭遇してしまったようだ。俺は気付かれずに近くまで寄ってみる。取り囲んでいる女子生徒たちは何人か俺が授業をサボっているとき同じくサボっているのを見たことがある顔で。その中心には彩虹寺さいこうじが松葉杖を折られた状態でさらにボロボロになりながら、目を瞑っていた。


思わず、本当に思わずだった。いや、らしくないのは分かっているんだ。俺が人を助けるとか、でも、この光景はなんか見ていて嫌になった。だから…だから俺は無言でその輪に割って入り、彩虹寺さいこうじの腕を引っ張った。


「あんた、なに?」


女子生徒達は驚きながらも俺に視線を集中させたが、俺は構わず彩虹寺さいこうじを抱えて階段を一気に駆けおりた。階段を降りきり、俺は彩虹寺さいこうじを抱えながら、大声で叫ぶ。


「山男ぉぉぉ!!!」


大声で叫びながら、校内を走り回り、騒ぎを聞きつけた山男が俺たちを見つけてくれた。


「どうした、晴山はるやま!!というか、なぜ、彩虹寺さいこうじを……あぁ、いい話しは後で聞こう。今は保健室だ。」

山男は俺から彩虹寺さいこうじを受け取ると俺よりも素早く、彩虹寺さいこうじを保健室へ送り届けた。そして、その後、彩虹寺さいこうじへのいじめが発覚し、山男は迅速に対応して、おまけで俺は屋上での昼食がバレて放課後まで説教されたのだった。


──────放課後──────


説教を終えた俺は長い坂を自転車を押しながら登っていると、松葉杖をつきながらとぼとぼと歩く彩虹寺さいこうじが見えた。声を掛けようと足早に歩いたが、途中、彩虹寺さいこうじはキョロキョロと辺りを確認しながら、挙動不審になっていた。


「何やってんだ?」


俺は困惑しながら、後をつけてみることにした。坂の途中を曲がり、第一公園方面へと足を踏み入れた。松葉杖をつきながらとはいえ、彩虹寺さいこうじの速度は怪我人のそれではない。何かから逃げているか、何かを追っているか、どちらにせよ怪我人がだしてはいけない速度で歩いている。第一公園へ入り、いつもより心地よい風が首元を吹き抜けると、急に激しい頭痛に襲われる。


「っあ……!!」


短時間で額からは滝のような汗を垂れ流し、その場にうずくまると、頭の中に何か映像が流れてきた。そこには、彩虹寺さいこうじが黒い靄と戦っている光景が映し出されている。まるで今朝みた夢のような光景。そして、映像が流れ終わると汗や頭痛が引き、声が流れてきた。


『まだ間に合う』


俺はその場に自転車を置き去りにし、彩虹寺さいこうじの事へと向かった。辺りも暗くなり始めている。そして、あの映像が本当ならば、彩虹寺さいこうじが危ないかも知れない。


「無事でいてくれ。」


木々や林をかき分けて俺は映像の場所と彩虹寺さいこうじの場所を探す。

すると暗がりの中、彩虹寺さいこうじの声が聞こえてきた。誰かと言い争いをしている?


「これ以上、罪のない人間を殺すのはやめろ。」


間違いなく彩虹寺さいこうじの声だ。声の方へ近づき、歩みを進める。そして、俺は林の中から、その様子を見る。誰かをかばう彩虹寺さいこうじ。よく見るとボロボロの男性で、腹部からは大量に出血している。そして、彩虹寺さいこうじの視線の先、俺は思わず息を飲み、林の影に隠れた。

彩虹寺さいこうじが対峙しているものは間違いなく、魔族だったからだ。


濃い緑の体色に、それを覆う白いボロボロの布。顔面はクモそのもの。腕にはいとも簡単に人を殺せそうな突起物があり、背中にはクモの足のような突起物がついている。

魔族は彩虹寺さいこうじの言葉を鼻で嗤い、おかしな笑い声と共に男の方を指さす。


「キシャシャ……貴様は、そいつが今まで何をしたか分かってそんな事を言っているのか?」


蜘蛛男は唾を吐き捨てると男の今までやってきた事をツラツラと喋り始める。


「その男は、妻に秘密で女子高校生と援○交際。それに費やした金額100万以上、さらに、出会い系サイトで知り合った若い女性との体の関係3件、その3件とも女性を妊○、中絶を要求してしている。まだまだ、言い足りないが、ソイツは妻を裏切り、家族の為の金を血の繋がらない娘と同い年の子に使い、命を3つもこの世から消している。悪党だ。」


確かに酷い。救いようがないクズだ。


だけど、


「だが、その罪に対して罰を下すのは君ではない!」


彩虹寺さいこうじは札を取り出し詠唱する。


「赤きは炎!その燃ゆる色で我が敵を焼き払え!」


札は赤く燃え上がり、炎の塊になる。その塊を彩虹寺さいこうじは素早く射出した。


火球ファイヤーボール!!」


蜘蛛男は火球を見切ると、素早い動きで木々に飛び移り、彩虹寺さいこうじを翻弄する。そして、彩虹寺さいこうじは隙を突かれ、男に首をわしづかみにされる。


「咎人をかばうか。お前にも罰を下そう。」


苦しそうな彩虹寺さいこうじは足をバタつかせ、必死に蜘蛛音の手首を掴み拘束を解こうと足掻く。だが、蜘蛛男はそんな弱々しい彩虹寺さいこうじを鼻で嗤い、背中の突起で彩虹寺さいこうじの左肩を突き刺す。彩虹寺さいこうじは叫ぶのを我慢しようと口を歪ませている。だが、追い打ちをかけるように蜘蛛男は背中の突起で右肩を貫く。


「があ”あ”あ”あ”!!!!!」


彩虹寺さいこうじが響く。苦しそうな、痛そうな、辛そうな涙声。俺は、そんな声にまた、らしくないことを考えていた。今日は朝からおかしい。変な夢を見るし、普段なら絶対スルーしてるであろういじめを助けるし、変な声と頭痛と……これは全て俺が作り出した妄想なのではないかと最初は思った。


だが、違う。


目の前のそれは現実で、少女は苦しみ、バケモノは嗤っている。


夢だったらどんなに素晴らしい事だろう。


全て幻想で妄想ならば、どれだけ清々しかっただろう。


昼のいじめの時もそうだ。


目の前で困っている人がいたら、目を背けたくなる。だって、その状況は本人が招いた最悪の結果なのだから……自身のせいでその状態に陥っているのだから……だから、目を背けて通り過ぎれば、いずれ、時間が解決してくれる。だから、俺は極力関わりたくない。


ただ、「あの時助けてれば」とか、「手を貸していれば」とかモヤモヤしたくない。


死ぬなら、何の後悔もなく、後腐れなく未練を残さずに笑顔で死にたい。


なら、今の俺は?


未練も、後悔も、後腐れもありありだろうが!!!


でも、そんな事は、こいつの彩虹寺さいこうじの苦しみに比べたらなんてことない!


「こっち向け!!」


俺は、その辺に捨てられていた酒瓶で蜘蛛男の顔面を思い切り殴った。蜘蛛男はその攻撃に反応できずに酒瓶をもろに喰らい顔を覆う。そして、うずくまった蜘蛛男の腹に思い切り前蹴りを放つ。さらにうずくまる蜘蛛男を背に俺は彩虹寺さいこうじを背負い、男性を引きずりながら、森の中を走った。辺りはすっかり暗くなり、どこがどこだか分からないまま俺は走りまわる。痛みで気絶していた彩虹寺さいこうじは目を覚ますなり、耳元で大声をだす。


「何を考えているんだ君は!!!」


「うるさ!いや、知らん。気付いたら身体が勝手に……それより、蜘蛛男はどうなっている。魔族って人よりも速いだろ。」


その言葉も虚しく、やけに軽くなった背中を見ると彩虹寺さいこうじはすでに蜘蛛男に捕まっていた。


彩虹寺さいこうじ!!」


「よせ!その男性を連れて逃げろ!!」


蜘蛛男は俺と目が合うと、背中の突起を彩虹寺さいこうじへ全て向ける。


「よくも、邪魔を……見ていろ。オレに歯向かうとどうなるか……次は貴様がこうなるのだ!!」


俺は男性を放り出し、突起が彩虹寺さいこうじへ突き刺さる前に蜘蛛男へ思い切りタックルした。

「殺した後に見せた方が効果的だったな!!」


彩虹寺さいこうじが放り出されると、俺はそのまま蜘蛛男と共に近くの崖を転げ落ちていった。俺が上になったり蜘蛛男が上になったりを繰り返していると回転はようやく収まった。全身が痛いはずだが、アドレナリンのおかげかすんなり立ち上がり、蜘蛛男の攻撃を躱せた。


「痛ってぇぇ……」


「貴様、絶対に許さんぞ。」


激昂する蜘蛛男は背中の突起を伸ばし俺を貫こうとする。


「ちょ、まっ、速いって……」


俺はその攻撃を紙一重と運で躱す。そして、男は札を一枚周辺の木へ飛ばし、貼り付けると詠唱する。


「囲め赤よ!咎人を煉獄の檻へ閉じ込めろ!!炎陣ファイアフォール!!」


俺と蜘蛛男もろとも直径3~4メートルの円状の炎が広がる。逃げようとするが、炎の背は俺より高く、またいで逃げることは出来そうにない。


「ちっ!やられた。」


「これで、ちょこまか逃げられなくなったなぁ?」


さて、どうしたものか。相手は人外。四肢以外にも背中の突起物で中長距離の攻撃が可能。加えて、魔術も扱えるときたものだ。恐らく、魔法もそれなりに使えるだろう。に、対して俺、人間で魔法も魔術もろくに使えない魔法術界きっての凡人以下。肉弾戦は特異だが、格が違い過ぎる。どれもこれも完全にNGだ。今は、彩虹寺さいこうじが来るまで円内を逃げるしか手がない。


俺は蜘蛛男の攻撃を躱しながら、炎に当たって火傷しないように逃げ惑う。だが、いくら体力に自信があるからと言って疲れない訳ではない。とめどない攻撃に足がもつれ、右の腹部に突起が突き刺さる。鋭い痛みと共に右腹部が熱くなる。


「がああああ!」


貫通した突起物は俺を手繰り寄せるように曲がり、蜘蛛男との距離を縮めてしまった。


「くっ……」


「さぁて、どうやって殺そうかぁ?」


ここまでか……


今までで一番後悔してるわ、今。

人生で一度は魔法とか、魔術とか使ってみたかったよな……


『イシを持ちし者よ。聞こえますか?』


誰だこんな時に。


『力を使いなさい。』


俺は魔法も、魔術も使えないんだぜ?どうやって使えって?


『それは、イシが教えてくれます。』


どうしろってんだよ。


『このイシは託されてきたものです。必ずあなたの思いに、意志に答えてくれます。』


そんな曖昧な定義で救われるのならば、救ってくれ。答えてくれ。こんなバケモノを倒せる力を俺に貸してくれ。


そんな俺の意志に答えてくれたのか、石は青白く輝きだす。夢でもこんな光景を見たような気がする。


『詠いなさい。あなたはこの詠唱が分かるはずです。』


言葉と共に、頭の中に記憶と情報が流れ込んできた。


「なにが、起きている?なんだこの輝きはぁ!!」


「……う」


言葉、詠唱により、周りに鉄の塊が現れ、浮かぶ。蜘蛛男はその鉄の塊をどけようと突起物で攻撃したが、逆に蜘蛛男が飛ばされてしまう。俺は改めて詠唱する。


「……魔装」


浮かんでいた鉄の塊は俺に向かって突き刺さり始める。だが痛みはない。鉄の塊は俺に刺さると鎧の形を形成していった。その間も蜘蛛男は攻撃をしてきたが、俺はその攻撃をガードしながら、蜘蛛男へ近づく。やがて、全ての鉄の塊が俺へ刺さり終わると、俺は蜘蛛男を殴って飛ばした。


「なんだ。その姿は!」


記憶の中で見た戦士のイメージ。


神々しい白い毛並みの狼を模した鎧の戦士。


記憶で叫ばれていた名前は、確かそう……


魔装戦士マガ=べラトル!!魔装完了All Set!!」


俺は拳を構え、蜘蛛男の出方をうかがった。


1:了

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