閃光
白い拳が拳を防ぐ
一閃
輝く白はその攻撃を華麗に躱す。
殴り合いの果てにクロスカウンターが蜘蛛男の顔をゆっくりと歪める。拳はそのまま顔面を振り切り突き抜ける。そのまま倒れる寸前の蜘蛛男に追い打ちの膝蹴りが顔面にクリーンヒットし、蜘蛛男はその痛みで再び顔歪める。
「キシャ……ッ!」
蜘蛛男は何とか体勢を立て直し、優吾の方へ視線を向け、札を一枚投げる。
「爆ぜろ!
札はそのまま白く光り輝き優吾の目の前で爆発する。目くらましの黒煙は優吾の視界を完全に塞ぐ、優吾は慌てて煙から飛び出て蜘蛛男の奇襲に備える。辺りをぐるりと一周するが、殺気だけで蜘蛛男は認知できない。
「どこに行った」
だんだんと近づく殺気に突然背後から衝撃に襲われる。蜘蛛男とは違った毛色の攻撃。後ろを振り向くとそこには
「な、なんだこれ……俺、バ、バケモノに…」
自分の顔を触ったりするが、紛れもなく本物で優吾はその耐えがたい現実に逃げ出そうかと
「
輝く赤い炎の玉が優吾に向かってきたが、優吾はその玉を受けて体勢を崩しつつも彩虹寺へ覆い被さり、彩虹寺を蜘蛛男の魔の手から守った。
「キシャ、あと少しだったのに!!」
「てめぇ、ぜってぇ許さねぇ…」
優吾は彩虹寺を背に守る体勢を取り蜘蛛男をにらみつける。彩虹寺はその会話の声で白い魔族もどきが優吾だと理解し、こちらを見た優吾と目が合う。
「き、君は…」
優吾は声をかけられると無言でサムズアップをして蜘蛛男へ殴り掛かっていった。
「だぁぁぁ!!」
蜘蛛男は単調な攻撃を躱し、優吾の背に隠れるようにしている彩虹寺を狙い札を投げようと構えるが優吾は、空を切った勢いのまま足を踏み込み前宙する。そのままかかとが蜘蛛男の札を持つ手へと当たりその札をはたき落とす。
「キ…!」
「やらせねぇ」
そのまま優吾は蜘蛛音の足を払い体勢を崩す。蜘蛛男は崩れた体勢のまま優吾へ札を投げようとしたが、次は彩虹寺がその札を燃やすように
「運のいい奴らめ、次こそは絶対に裁きを…」
「逃げんな!!」
優吾は蜘蛛男の後を追うが限界が来た彩虹寺がその場で倒れ込む。優吾は自分の姿を見ながらもそれでも彩虹寺の方へ駆け寄る。幸い、意識はあるようで優吾の事はきちんと認知出来ているようだった。
「君のその姿は?」
「俺にも分からない。ただ、親父の残していった形見のおかげなのは分かるんだ。」
すると優吾の胸の石は再び青白く輝き、優吾の姿を人間へと戻した。
「も、戻った?」
「なんで、戻ったんだ?あ……?」
優吾は自分の手のひらを見て彩虹寺へ視線を向けたが、急に視界が歪みだす。水面のように揺れ、暗くなっていく視界。最後に見たのは彩虹寺の慌てる顔だった。そして、優吾の視界はそのまま真っ暗になった。
「おい、晴山!」
彩虹寺は慌てて、優吾へ這いずり寄っていき安否を確認する。脈、呼吸、どれも正常でただ眠っているだけのようだった。その様子に彩虹寺は安心し、気を失うまいと誰かに通信するためにスマホ型のデバイスを取り出し耳に当てる。
「こちら彩虹寺。
デバイスが手から滑り落ちると彩虹寺も気を失った。プツリと通信が切れると彩虹寺と通信を取っていた人物はのんきな様子で準備を開始する。
「これは、緊急事態……なのかな。」
「お兄様少しは慌ててください。凪ちゃんはそろそろゲーム機を閉じて準備して」
「ん~、あと少しだったのに~」
お兄様と呼ばれた男性はメガネの位置を直し、彩虹寺の位置情報を改めて確認する。凪と呼ばれた少女は携帯ゲーム機を閉じ、疲れ目をシパシパと瞬きする。
「それじゃ、魔法術対策機関 第一班、行こうか。」
「了解。」
「りょーかい~」
三人は落ち着いた様子で本部を後にした。
────────────
島国 ジパングでの魔族、魔術師、魔法使、その他もろもろの事件、事故は毎年数十万件以上にも及ぶ。そんな事件、事故を防ぐために組織されたのが魔法術対策機関である。
北は
そんな魔法術対策機関だが、組織の構成人数は少数でより優れた魔術師や魔法使しか入れないエリート集団である。
「こちら、
『了解、凪ちゃんのほうはどう?今回の被害者は見つかった?』
凪と呼ばれた少女は被害者の男性を見つける。脈、呼吸その他もろもろを調べ、命に別状はないと確認する。
「こちら
おにぃと呼ばれた男性は公園内のカメラを確認する。そこには、被害者の男性が公園内に入り、蜘蛛男に襲われる姿や、蜘蛛男を発見し、すぐに男性を救出しようと松葉杖をつく彩虹寺の姿が見えてその後を追う一人の少年の姿を見る事ができた。少年は急に頭を抑え、うずくまると汗を拭い、彩虹寺の向かった方向へと怪訝そうな様子で歩いて行った。
「ふむふむ、この子か……」
カメラを確認し終わった男性は管理室を後に
「こちら、
『こちら、焔。りょーかい~んじゃ、おにぃ、ボクのとこお願い。』
「了解。すぐに向かう。
『了解。ただ、倒れているかたは腹部の傷が彩虹寺さんよりも傷が深いようなのでなるべく速めにお願いします。』
『りょ~かい~それじゃ、ボクはまず、ゆき
「分かった、こっちはこっちで応急処置をしておこう。」
三人はそれぞれ行動し、被害者1名、班員1名とその他1名を運び出し公園に規制線を貼り、あとは警察へ依頼して処理をしてもらうことにした。
──────翌朝──────
彩虹寺は優吾の様子を確認するため、魔法術対策機関本部の医療スペースへと顔を出す。
機関の医療班は計4名で元医師、看護師の経験者で成り立っている。怪我をした班員や被害者はここで手厚い治療を受けることができる。病院のような作りがされており、病院と等しい入院生活も送る事ができる。
個室のドアをゆっくりとスライドすると、そこにはまだ眠っている優吾の姿が見えた。暗がりで見えなかったが、腹部の他に頭にも怪我を負っていた事に今気づく。寝息を立てる彼の顔を見て、彩虹寺は今回は自分に落ち度があった事を反省する。それにしても眠りが深い。
しばらく目覚めるまで傍にいようと彩虹寺はパイプ椅子を開き、優吾のベッドの横に座る。
不意に彼の寝顔を観察してしまっていた。
『まつ毛は思ったよりも長いな…肌も白い……』
そんな顔を観察していると優吾の目はいきなり開眼する。彩虹寺は慌てて目をそらし、体勢を立て直す。優吾はその勢いのまま身体を起こし辺りを見渡す。
「ここ、どこだ?」
「あ、慌てるな、ここは機関の入院スペースだ。」
「機関?なんの?」
彩虹寺はそういえばと改めて自己紹介をする。
「伝え忘れていたな。私は、魔法術対策機関 第一班 副班長
「は?」
優吾はその言葉に一瞬理解を放棄しようとした。魔法術対策機関と聞くとまずエリート集団というのが頭をよぎる。
「マジで?」
「マジだ。」
沈黙が数分続く。その沈黙を気にしない彩虹寺はどんどん話を進めていこうと口を開く。
「晴山、これから事情聴取がある。全て正直に答えてくれ。今から私は班長達に君が目覚めたことを報告する。その間に君は心の準備をしていてくれ。」
彩虹寺はそう言うと病室を後にした。
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魔術とは、術式を用いて人が奇跡を起こす事の総称であった。魔法はその術式を取っ払って行うもの。正確には魔力を外的に起こすか否かの違いがあるのだが、昨夜みた晴山 優吾の纏っていた鎧。あれは魔術を使うときの術式の痕跡も魔法を使った後の魔力の残留も感じられなかった。そして、彼自身に流れる魔力は数値化できないほど微弱。謎が謎を呼ぶこんな事は初めてだ。
そんなことを考えていると、第一班待機室兼会議室へ到着していた。人感センサー式なので手をかざすとスライドドアは静かな機械音を鳴らし開く。待機室兼会議室にはテーブル、資料棚が置かれている。あとの余ったスペースは班員の私物が置かれている。キッチンもあるせいか生活感が否めない。そして、その私物であろう大きなソファに横たわりながら携帯ゲームに熱中している黒髪の短い髪の少女がふと彩虹寺と視線が合った。しかし、数十秒視線を合わせると再びゲームの液晶に熱中し始めた。相変わらずだなと彩虹寺はもう一人窓際で紅茶を飲みながら読書にふける長い黒髪の少女に声をかける。
「
「お兄様ならもうすぐ来るかと……昨日の方はお目覚めに?」
「あぁそうだ。今から事情聴取する。」
「そうですか。それでしたら私はパスで」
「どうしてだ?」
夢希は目つきが鋭くなり殺気を帯びる。それにつられて周りの温度も低くなったような気がした。
「あんな男の事情など聞きたくもありません。」
何かを勘違いしている夢希に彩虹寺は落ち着かせるように伝え直す。
「いや、もう一人いただろう。私と同い年くらいの男が。」
「あの人ですか……どのみち興味はないですけど。」
その時、スライドドアが開き、班長が入ってくる。身長180㎝前後で細いがしっかりとした体格の体つきの爽やかな雰囲気の青年が入ってきた。
「みんなおはよう。今回の事情聴取は尋問に長けた二班が出払っているので僕らでやろうよって話しになってるので僕らでやろうよ~って話だけど、誰かパスする人いる?」
「私や凪はいいですが、夢希はパスだと……」
夢希は彩虹寺の話を遮り琉聖の前へと出る。
「な、何を言っているのですか!私は一言も参加しないなんて言ってません!」
明らかな手のひら返しにソファでゲーム中の凪は思わず吹き出す。
「ブフォ…明らかな手のひら返し草ぁ……」
そして、一通り遊びつくしたのか凪はゲーム機を折り畳みポケットにしまう。そして、思い出したように琉聖へ質問を投げかける。
「そういえば、二班の人、一人は残せって言われてたと思うんだけど……」
「ん~まぁ、そうだなぁ…二班も三班も忙しいって言ってからねぇ……」
「フーンそうなんですなぁ……んじゃ、仕方ないね。てか、おにぃは尋問とかやったことあるん?」
「まぁ、任せてよ。かつ丼食べさせて、泣かせればいいんだよね?」
「班長、それドラマの見過ぎですよ。」
「あれ~違ったっけ?」
第一班はそのまま部屋を後にした。
2:了