目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

3:焔

「さぁて、中年の被害者さんの事情聴取は終わったし……夢希ちゃん……?どうしたの?そんな顔して……」


眉間にしわを寄せて何か気持ちの悪いモノでも見たかのような顔をする雪白ゆきしら夢希ゆきは怒りと愚痴をこぼす。


「あの中年は即刻極刑でいいと思います。妻や娘さんに申し訳ないと思わないのでしょうか……これだから男は……」


夢希ゆきに対して、琉聖りゅうせいは優しく諭すように落ち着かせる。


「まぁ、生きていれば罪は犯すものさ。それを見逃さないようにするのも僕らの仕事だからね。」


夢希を諭した終わった琉聖は次に不安そうな彩虹寺さいこうじの顔を覗き込む。


「それより、綾那あやなちゃん。大丈夫かね?」


「大丈夫じゃないですね……」


彩虹寺さいこうじが一層不安そうな顔をすると琉聖は元気づけるように声をかける。


「大丈夫だよ。いくら男嫌いの夢希ちゃんでも手加減してくれるよ…多分…」


「ブフォwwおにぃ希望的観測的過ぎて草。」


率直に先程の事情聴取で何があったかというと、中年が〇交のことを告白したら夢希が中年を足半分まで凍らせてしまいほぼ拷問みたいになっていた。


「夢希ちゃんお手柔らかに……」


件の少年の事情聴取をするため病室へと向かう。病室へ入ると、男子高校生はベッドから降りようとしていた。


「やぁ、失礼するよ。」


少年を見つめる琉聖は少し冷たく鋭かった。


「ど、どうも……」


「ははっ、そんな緊張しなくてもいいのに……って言っても無駄かね……」


おどおどとした態度の晴山 優吾が気に入らないようで殺気を仄かに滲みだしていた。

その様子に義理の妹、ほむらなぎは夢希の肩を掴みそっと二人で強制退出した。優吾の緊張の9割が退出したところで彩虹寺さいこうじ琉聖りゅうせいは優吾の方へ視線を向ける。


「……さて、本題へ移ろうか……」


琉聖は殺気を抑え気味で優吾へにじり寄る。再び緊張が病室内へとむせ返る。優吾はその時の状況を事細かに説明する。


「鎧を纏う魔法?魔術?か……」


あらかた事情聴取を終えると琉聖は個人的な質問をした。


「ところで、君の苗字……」


「晴山……ですね。」


「父親の名前は?」


「大介です。晴山大介。考古学者?をしていて、世界中を飛び回っていたんですよ。」


琉聖は目を子供の用に輝かせて身を乗り出すと嘘のようにの殺気が消え失せた。


「やっぱりぃ?そうだよね?苗字を聞いてから何となくだよねって思ってたんだよ~なっつかしぃなぁ……僕ね、大介さんと一緒の大学で僕ね、教え子だったんだよ!あの人の授業すごかったんだよ~まさか結婚していたなんて……確かによく見たらどことなく似てる……それで?大介さんは?元気にしてるかい?」


人が変わったように幼子に戻ったようにはしゃいでいる。その表情とは裏腹に優吾は曇る。


「父さんは多分もう生きていないです。」


その言葉に騒がしかった琉聖は黙り込む。そして、落ち着きを取り戻し優吾へ向き直る。


「ど、どうして……?」


優吾は思い出しながらつぎはぎに喋り始める。


「父さんはある遺跡の発掘の作業中?に行方不明になったって……生き延びた父さんの知り合いがその時の状況とこの石をくれたんです。」


琉聖はその言葉に少し驚きながら、それでも琉聖は優吾の手をに握る。


「ごめんね。辛いことを……」


「いいです。父を知っている人に会えて嬉しいです。」


その後、琉聖と優吾は父についての話をした。

「……すまないね。これで事情聴取は終了だ。怪我が治るまではここにいていいからさ。経過を見てからうちの医療の人が大丈夫って言ったら退院だね。」


「はい、ありがとうございます。」


退出時、琉聖は優吾と石を睨みながら冷たく言い放つ。


「その石…話を聞く限りでも君は一般人。その力は、君には余る物だ。」


そして、手を差し伸べる。


「その石、今すぐにでもこちらに渡しくれ。」


その問いに優吾はバッサリと切り捨てる。


「それは無理です。」


優吾のその答えに琉聖はまた言い放つ。


「そうか……ごめんね。ただ、君はあくまで一般人だから、その力はあまり使わないでくれ……ると、うれしいな……なんて……」


優吾はその言葉に少し動揺しながらも無言で頷く。


──────その夜──────


頭痛と共に目が覚める。起き上がる優吾は額を抑えるが、熱はない。だが、汗はとめどなく額から顎に伝う。そして、またもや頭の中に映像が流れ込んでくる。


誰かの目線。逃げ惑う学生服の三人を追う目線。


映像は切り替わり、次は彩虹寺が首を切られる映像。


……炎を纏った戦士。


そして、映像は乱れ優吾の目線に戻る。


「彩虹寺が危ない……」


この石がでたらめを流し込んでくるとは思えない優吾は石を一瞬睨むが昨晩の戦闘の経験から石の情報を信じて病室から見つからないように抜け出した。その数分後、警鐘と共に魔法術対策機関 第一班が動き出した。


『B-2ブロックの廃校にて蜘蛛男が目撃。廃校には高校生と思しき三人の目撃情報もあり第一班は直ちに向かってください。』


第一班の面々は待機室兼会議室から飛び出る。琉聖は三人を向かわせ、一応心配なので優吾の様子を見に病室を覗く。病室にはトイレもお風呂もついているので外に出る必要は全くない。ベッドには瀧のような汗の跡にスリッパはそのままだったが、優吾の着てきたボロボロの制服と靴が消えているのが分かる。


「しまったな。」


琉聖は額を抑え、見張りをつけなかったことを反省しながら班にだけ分かるように指示を出した。


「こちら、班長。病室の優吾くんが消えた。恐らく現場に向かったと思われる。総員は優吾くんを見つけ次第捕獲してくれ。」


その通信に真っ先に彩虹寺が頭を抱えた。


「了解……最悪だ。」


恐らく、自分の時と同じで何か映像が頭を流れたのだと彩虹寺は考え現場に急いだ。


──────B-2ブロックの廃校──────


魔法術対策機関内のデータにてB-2ブロックと位置付けられてここは、以前は活気があり優秀な人材を育成するのに適した地域だった。だが約5年前、事件は起こった。


『大殺戮事件』


最終的にそう呼ばれた事件はとある学校に突然魔族が現れ生徒や教師をまとめて皆殺しにしたという凄惨な内容のものだ。教室、職員室、図書館、体育館、グラウンドに至るまで、死体の山、血の海が広がっていた。そんな事件のせいでこの地域は活気を徐々に失い、廃校や廃墟だらけになってしまっているにもかかわらず、ここにはよく小・中・高はおろか、いい大人も訪れる。ほとんどは廃校や廃墟での肝試しだ。今日もまた遊び半分で廃校へ入る三人組の影がぽつり。


学生服を着崩した金髪の男子高生がヘラヘラと笑いながら気の弱そうな男子高生の肩をがっちりと組む。気の弱そうな男子高生は怯えた様子で目を合わせないようにしている。その様子をニヤニヤともう一人ののっぽは面白がっている。


「お~い、そんなビクビクすんなよ~肝試しに行くだけだろ~?」


「そうだで。俺らだって一緒に行くんだからよ~」


どうやら、気の弱そうな男子高生とのっぽと金髪の3人で肝試しをしようと廃校へ向かっているらしい。そして、廃校が近くなるとのっぽはおもむろにスマホを取り出し、動画を回す。時間はすでに深夜を回りそうな時間帯。廃校へ着くとのっぽは動画投稿者のように喋り始め、金髪もそれに乗っかる。

今にも崩れそうな床や壁を何食わぬ顔でヘラヘラと歩き、時には机や花瓶を蹴り飛ばす不良2名。今にも崩れるのではいかとハラハラドキドキの気の弱い男子高生。三人は廃校探索をしているととある教室へ着く。どこの教室よりもボロボロで崩れそうな床に壁。その壁にこびりついた血痕。明らかに血痕の数が多く、入ると体温が一気に下がるのを自覚する。


「ここだけはどうやら魔族が執拗に攻撃したって話だで?」


「なんだよそれ、誰か恨みでも買ってたのか?」


「さぁ、ただの噂だから知らね~」


「ね、ねぇ、二人とも……もう、帰ろうよ……」


「何だよソウタくん~ビビってんの~?」


「そうだよ、ユーレイなんているわきゃないざ……ん?」


のっぽは足元に絡まる白いネバネバを発見する。ガムだと思い地面に擦り合わせてはがそうとしたがなかなかはがれない。


「ひっ!!」


その時、気の弱い男子高生の短い悲鳴と共に姿が消えるのを視界の端でとらえたのっぽは慌ててその手を引こうと手を伸ばしたが間に合わず、男子高生は教室の外を出て、廊下の闇へと姿を消した。のっぽは慌てて金髪の方を向き逃げようと、手を引いたが、その手はすでに肉塊としていた。


「は?」


金髪の手を落とすと、その場から後ずさり教室から出ようとしたが、何かにぶつかる。背丈、殺気の放ち方。素人でも分かるくらいのその殺気は明らかに男子高生の物ではない。

次第に、後ろを向くのは危ないと生物的本能が警鐘を鳴らす。


「キシャ……ほら、こっち向けよ……」


その声に汗と涙と震えが止まらなくなったのっぽは恐る恐る振りむ……けなかった。

恐らく振り向けば殺される。のっぽは苦手だが手のひらに炎の魔力をためる。


「く、く、くら、くらえぇぇぇぇぇ!!!」


のっぽは勇気を振り絞り蜘蛛男の顔面にファイヤーボールをぶつける。蜘蛛男はそのファイヤーボールを避けるとのっぽの喉に向かってその爪を突き刺そうと突き出したが、その攻撃は氷の弾丸で防がれた。視線を移すとそこには黒いロングヘアの少女が手を構えていた。


「そこまでです。蜘蛛男。」


「貴様、機関の人間か?」


「えぇ、でも人間・・ではないですね。」


氷の弾丸を放った少女は銃を握るそぶりを見せると詠唱を開始する。


「グリップは握りやすく、マガジンは魔力が尽きるまで、銃身バレルは短く、銃口マズルは47口径……使用する弾丸は『氷の魔弾』」


「何をブツブツと!!!」


パチパチカチカチと手元が凍る。少女は向かってくる蜘蛛男にその銃口を向ける。そして、その引き金を引いた。

雪白ゆきしら夢希ゆきの使う魔法は氷造形クラフト自分の考えている物体を具現化する魔法。事細かに造形を口にすることで制度はもちろんその性能は本物と同等の物になる。


氷造形クラフト氷の砂漠デザートイーグル


乾いた音と共に蜘蛛男の肩に弾丸は命中したかに思えたが、蜘蛛男はその弾丸を紙一重で避ける。そして、相性有利とはんだんするや否や、札を一枚取り出し、雪希へと投げつける。


「爆ぜろ!柘榴ザクロ!骨まで燃やせ!」


爆風を目くらましに蜘蛛男はその場から即罪に逃走した。夢希は気を失っているのっぽ男子高生へ目を向けると溜息をつきながらその首根っこを引っ張り引きずりながら校舎入口まで持っていった。


「こちら、雪白。男子高生を一人保護。蜘蛛男と交戦したが、すぐに逃走されてしまいました。」


『了解~こちらは片手のない男子高生と無傷の男子高生を保護~今からゆきねぇのところに行くよ~』


「了解。あと、片手が切断されている方はきちんと止血してね。」


『りょ~かい』


凪の通信が切れると、次は彩虹寺からの通信を受信する。


「こちら、雪白。どうしましたか?副班長。」


『夢希。男子高生3名は無事保護できたか?』


「はい、私が今、一人保護しまして、凪ちゃんが二人……」


『そうか、それなら良かった……こちらは蜘蛛男と接触した。二人は引き続き保護を頼む』


「了解。凪ちゃんと合流次第、被害者の治療その他を優先します。」


夢希が通信を切ると、階段を勢いよく登る足音が聞こえてきた。こんな緊急事態にまた被害者が増えてはいけないと夢希は階段を登る者を待ち構える。すると、登ってきたのは病室にいるはずの晴山優吾だった。優吾は夢希と目が合うと、まずいと言った表情をして戻ろうとする。夢希はその後ろ姿に殺気を込めた声を上げる。

「待て!!」


優吾はすぐに止まり夢希に肩を掴まれる。


「やっちまった……」


「面倒ごとを増やさないでいただきたい。あなたは、病室にいたはずです。なぜこの場所へ来たのですか?」


「彩虹寺が危ないんだ。」


魔力を感じられない少年の口から出てきたのはまさかの自分よりも強い相手を心配する言葉だった。夢希は鼻で笑うと、さらに殺気を放ちながら低い声でうなるように言う。


「余計なお世話ですね。魔力もないあなたに心配されるほどあの人は弱くない。冷やかしですか?今ここで取り押さえてもいいんです……よ?」


夢希は優吾がきっとビクビクしながらうろたえていると思いそんな言葉をかけたが、優吾と再び視線がぶつかると、こちらの殺気を凌駕するほどの気迫を向けていた。


「たしかに、俺は何もできないかもしれない。でも……」


優吾は夢希を退けると、突然現れた鋭い突起物から夢希をかばうために盾となった。夢希は先程の気迫が自分に向けられたものではなく、いつの間にかいた蜘蛛男へのものだと理解した。


「あなたは……!!」


「でも、俺にだってできることがあるはずだ!!……魔装!!!」


突起物を抜き取ると、肩から大量に出血しながら優吾は石を握り鎧を纏う。蜘蛛男はその姿にニヤリと口角を上げ、優吾へ襲いかかる。


魔装戦士マガ=べラトル……魔装完了All Set!!」


「やはり現れたな鎧の戦士……」


優吾は蜘蛛男を踊り場の壁に抑え込む。


「彩虹寺はどうした!!」


蜘蛛男はわざと頭をひねるそぶりを見せ、そしてわざとらしく大げさに思い出したように言う。


「あの、珍しい毛色の女か!先程、上の階で戦って殺したぞ?」


優吾はその言葉を聞くと無言で蜘蛛男の背中を殴り、壁を破壊しながら外へと一緒に身を投げた。その光景を後ろで見ていた夢希は優吾の力にも、その気迫にも驚き腰を抜かしていた。そして、蜘蛛男の言葉を思い出す。


「彩虹寺さん!!」


上の階で殺したという言葉を思い出し、抜かしていた腰を無理やり上げて彩虹寺の元へ向かった。


3:了

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?