廃校の校庭にて…打撃音と橙に光る閃光が灯る。その様子を見る影が三つ。一人は長い黒髪で青い瞳を持っている少女。もう一人は短い黒髪の赤い瞳のボーイッシュな少女。そして、その真ん中にいるのは虹色に見える紙を持つ少女。服の左腹部が破けて肌色が出ている。
「あれは……一体、何なんですか……」
「燃えてるねぇ…鎧。」
「私が見たときは白色だったが、属性の切り替えもできるのか……?」
三人はその閃光のぶつかり合いを見ているしかできなかった。それほど、目の前の二人の戦闘は燃えていた。一方は蜘蛛の魔族。自分の過去を終わらせようと目の前の鎧の戦士を過去の自分に見立てて得意の合気道と爆発の爆発系の魔術で殺しにかかる。そしてもう一方、形見の石で鎧の戦士に変身した魔力のない少年。蜘蛛の魔族により防戦一方だったが、形見の石の力により、炎の姿を手に入れ形勢逆転を図ろうとしていた。
「爆ぜろ!
蜘蛛男は札を一枚投げ、鎧の戦士の目の前で爆発させる。爆発は直撃ではなく、目くらましのもので少年の視界は黒煙で遮られる。だが、少年はその黒煙に焦ることなく、蜘蛛男背中の突起での不意打ちを避ける。突起部を掴み蜘蛛男を無理やり引き寄せると、少年の拳は蜘蛛男の顔を歪ませる。そのまま拳を振り切ると、蜘蛛男の突起部は肉が裂ける音と共に蜘蛛男の背中から地切れてそこから血が噴き出る。
「ぐっ……!!」
少年はそのまま痛みに顔をゆがめる蜘蛛男へ追撃の拳を叩き入れようとそのまま拳を握りっぱなしにするが、蜘蛛男は懐から反射的に札を出し先ほどの詠唱をし再び爆破する。爆破の痛みと衝撃で少年は拳を引いてしまう。その隙を蜘蛛男はうまく利用してもう一度札を取り出し、少年の腹に張り付ける。詠唱は先ほどの物とは違い威力の高いものになった。
「爆ぜろ!!
白く膨らむ札は一度収縮して橙に光ると赤く爆ぜる。鎧もさすがにこの爆発には耐えられないかと思ったが、鎧は黒く煤だらけになり爆発後の黒い煙が上に上がり終わる。だが、衝撃により少年は横へ大きく吹き飛ばされた。そのまま落ちると少年の体はボールが跳ねるようにバウンドする。バウンドした衝撃で少年は口から大量に吐き出してしまう。
「ごがっ……」
「くっ……どうだ!!」
蜘蛛男はそのまま動かなくなった少年に近づき息を確認しようとする。その瞬間、少年は起き上がり、蜘蛛男に拳を振る。また綺麗に入った拳は熱を帯び始める。
「
少年の言葉で熱を帯びた箇所が燃え上がる。左頬と、右わき腹は燃え上がりそのまま全身へ燃え広がっていく。蜘蛛男はその痛みと熱さにもだえながらも少年へ札を投げる。その札は今までの札とは違い、黒地に赤い文字の見るからに危険な札が貼られる。
「燃えろ!!
音もなく破裂する札は廃校の真上に大きな火球を顕現させた。その火球は太陽の如く輝き、周辺を昼のように明るくする。見ていた三人はその規模に度肝を抜かれた。
「あんな規模の魔術一体どこで……」
「ボク、手伝ってこようか?」
「凪、私が合図をしたら、
「なぜ?」
「保険だ…」
その時、通信が入る。三人はその通信に出る。
『こちら
「はい、だいぶやばいです。でも、一般人の晴山 優吾が蜘蛛男と戦闘中です。その影響だと思います。」
晴山 優吾という単語に班長 星々琉聖は首をかしげるが、すぐに話した石の力を行使しているのだと気づく。
『今頭ぐ止められるかい?』
「彩虹寺さんが腹部損傷をしましたが、謎の青年に治療を受けて今のところ貧血です。」
『無理そうだね…それじゃ、僕も向かうから三人ともそこを動かないでね』
三人は了解と一言いいながら、通信を切った。そして、三人は大きく輝く火球を見上げる。
「さて、どうしましょうか。」
「とりあえず、ボクはあやちゃんの指示を待つよ。」
「私もタイミングを見る。」
三人は火球の下を見つめた。そこには何か話している二人がいた。
「もう終わりだな。」
ボロボロの鎧に血を吐く少年は無言でその言葉を聞き流す。
「もう、終わりにしよう……。」
蜘蛛男はそんな少年を無視して、火球を降ろすような指の動作をする。その指と連動して火球はゆっくりと下がった。彩虹寺はその様子に今だと言わんばかりに隣の凪へ合図を送ろうとしたがそれを夢希が止めた。
「なぜ止める!!」
「彼、見てください。」
夢希が指さす方向には腕を大きく広げ、何かを叫んでいる晴山 優吾の姿が見えた。
「この量の魔力を待ってたんだ…………
「何を言って……!?」
晴山 優吾がそうつぶやくと胸の石は火球を吸い込み始める。火球はだんだんと小さくなりその小さな石へと渦巻いて行く。数分もしないうちにその火球は石へすべて吸い込まれ完全に吸収された。
「あの量の魔力を一瞬で……」
「お前、言ってたな…これで終わりだって……」
蜘蛛男はどこか嬉しそうに、だが、それでも悪役に徹した。
「来い!!お前のすべてを受け止めてやろう!!」
優吾は大きく腕を広げる蜘蛛男に対し、拳を構えて詠唱する。
──────拳、烈火の如く、炸裂しろ
燃え上がった拳はさらに収縮し赤く宝石のように小さく輝く。
「
最後の一撃、その一撃は腕を広げ、こちらへ撃ち込めと言わんばかりの蜘蛛男の胸へと当てた。拳が胸へと当たると蜘蛛男の頭以外が吹き飛ぶ。瞬間の打撃は音を置き去りに、衝撃が蜘蛛男の後ろへ爆音をまくし立てながら吹き抜けた。
その音、衝撃は見ていた三人の鼓膜と網膜に焼きつき、今、この場の誰もあの鎧をまとった勇吾には勝てないと思うほどだった。優吾はそのまま魔力切れで魔装が解除されると、頭だけになった蜘蛛男へと近づく。
「ごめんな。」
優吾の口から出た謝罪に蜘蛛男……八尺 伊織は目を見開く……
「何を言ってるんだ。ここまで僕のわがままに付き合ってくれたんだ。安心して地獄に落ちることができるとも……」
伊織の頭はしゃべるにつれてだんだんと灰と化していく。
「君と、もう少し早くあっていれば、僕は間違えてを犯してはいなかったのかもね…」
優吾はだんだん消えていく伊織の頭へ手を伸ばす。だが、その手を触れると伊織の頭は余計に崩れていく。
「俺も、早くに出会っていたかったな。お前とは気が合うかもしれなかった……」
伊織は微笑み、声が出せない消えゆく意識の中、口を動かした。
「ありがとう」
その口の動きを読み取れたのかわからないが優吾はその場でただ微笑むだけだった。
そして、優吾は疲労が押し寄せた身体がそのまま地に伏せ、意識が遠のくのがわかった。
意識が遠のく中優吾が最後に目にしたのは、廃校の輪郭から白く暖かい光が差すのだけが見えた。
6:了