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12:銀閃

星々は通信をいきなりぶつ切りにしたことを少し申し訳なく思い、目の前のローブの三人衆に炎の矢の照準を合わせる。星々が慌てて通信をぶつ切りにした理由。目の前のローブの三人衆の異常な魔力量と殺気だ。人から出る魔力ではなく魔族から出る特有の魔力。その異様な量の魔力に思わず通信をぶつ切りに臨戦態勢に入る。


「魔族か?それも高位の。」


三人は星々の質問を無視し、ゆっくりと近づく。星々は迫るおぞましい殺気に全力を出す警告として全力でセーブしている自らの魔力を解放する。その全開状態の星々の魔力を感じ取り三人はやっと口を開き、ローブから顔を出す。それぞれ、人に見えるが、魔族だと分かる特徴が残っている。サソリの尻尾が生えた細身の男。艶のない灰色の短い神の大男。


「これが、現代の大魔導師の全力の魔力量ですか……」


「確かに、これは脅威になりそうだね。」


「これは、あいつが警戒するのも理解できるな。」


三人は星々の反応を無視してそのまま会話をしている。そして、最後、真ん中にいる中肉中背の少年が顔を出すが、その顔は彼と瓜二つだった。


「ゆ、優吾くん……じゃないよな……!?」


サソリ男と大男の影から出てきたのは、三人の中でも異常な魔力量の持ち主だ。銀髪に透き通るような白肌……目つきの悪さや犬歯の見える口はその穏やかな口調で緩和されているが、その容姿は晴山 優吾と全く同じ姿の少年が出てくる。


「やはり、彼に似ているんだね……僕はギンロ……ギンロ=シルヴァス。銀色の使徒シルヴァ アポストル現教祖だよ。」


「銀色の使徒?あれは、おとぎ話の伝説で、架空の宗教のはずだ!!」


銀色の使徒、数千年前に突如現れ、その後数百年後には消えた宗教。詳細な書物や、記録がないため古代人の創作物と認定された宗教である。が、その創作物を名乗る魔族が目の前に三人いる。


「何を企んでいる。」


星々の質問にギンロは少し考えてから口を開く。


「……まぁ、そうだね。どのみち対峙する運命だったし、君にも言っておいた方がいいか……僕らは銀色の使徒として、人間を救済するとだけ言っておこうかな。」



「救済?」

ギンロは懐から小瓶を摘む。中には何色とも形容しがたい色の液体が入っている。


「なんだそれは……?」


「これは、魔族細胞が入った液体…これを人間に注入して人間を魔族に変えるのさ。」


そんな事象はきいたことがない。人間と魔族の間の子どもなら聞いたことがあるが、細胞を全て入れ替えない限り人が魔族になるのは不可能である。


「それを可能にした人間がいたからね。僕らは彼と手を取り、この世の人間を魔族に変え、救済する。」


訳の分からないことを言うギンロに星々は頭が追い付かず、迫る二人の攻撃に後れを取る。

サソリ男は姿を人間から魔族へと変え、大男のゾウのような魔族へ見た目を変えながら迫ってきている。星々は迫る二人に遅れた分を取り戻すためそれぞれ捌く。

サソリ魔族の尻尾での毒針を赤紫の槍で受け止め、ゾウ魔族の拳を金色の斧で受け止める


蠍の槍スコルピオン!!……と、牡牛の大斧タウロス!!」


「ほう…大魔導師というだけあってこれはなかなか……」


「気持ち悪いですねぇ~」


「くっ!!はぁぁ!」


そのまま回転をかけ二人を吹き飛ばす。それぞれ、星々をはさむように吹き飛んだサソリ魔族とゾウ魔族は体勢を立て直しまた一斉に攻撃を仕掛けようと飛び出す。


「二人相手なら……双子の幻惑ダブル!!」


二人に分離した星々はサソリ魔族とゾウ魔族の攻撃をそれぞれ受け止める。

サソリ魔族には蠍の槍スコルピオンを持った星々、ゾウ魔族には牡牛の大斧タウロスを持った星々が


蠍の槍スコルピオン


槍でサソリ魔族の尻尾を受け止めると鍔迫り合いのようにお互いに力が拮抗する。


「分離もできるのですか、本当に気持ち悪いですねぇ……」


サソリ魔族の”気持ち悪い”を誉め言葉と受け取った星々は口角を上げ距離をとった。


「君ほどじゃないさ。」


「不愉快だぁ…」


口角を下げたサソリ魔族は尻尾を腕に巻き付け、そのまま一歩を踏みだす。


だが、その一歩はすでに遅かった。


「君が一言も発さずにそれをしていれば、好機はあったかな?」


槍での突撃。赤い閃光がサソリ魔族の目の前に現れる。


蠍の一突きアンタレス


「くぅ……」


サソリ魔族は星々の突撃に紙一重で間に合い、尻尾を巻き付けている腕でガードする。しかし、その威力は土埃を上げ、廃ビルの窓にひびを入れる。サソリ魔族はギリギリ間に合ったガードで足を踏ん張らせてその威力を抑えようと必死になる。


「ぐぅぅぅ!!」


やがて、踏ん張りを利かせた足はその力に耐えられずに廃ビルの壁に穴をあけた。だが、サソリ魔族は気を失うことなく、立ち上がり吐血しながらも膝の土埃を払う。


「困りましたねぇ……」


「これで倒れないのか……」


ゾウ魔族対牡牛の大斧タウロス星々は大斧を振るう星々にゾウ魔族はその攻撃をその巨体からは考えられないほどの速さで躱す。


「速い……これが、高位の魔族…!」


「槍も、斧も使いこなすお前も大概だがな……」


斧を振り回しながら、星々は高速で動くゾウ魔族の拳を防ぐ。そして、幾度目かの打撃。星々は斧の刃とは反対側でゾウ魔族の拳を叩き落とし、崩れた体勢を隙としても一度斧を振り上げ、刃と反対側で背中へ打撃を入れる。ゾウ魔族はその攻撃を変則的に回転し、見事に防ぐ。


「すごいな……!」


「その言葉、そっくりそのまま返そう……っ!!」


ゾウ魔族はそのまま体勢を変えようと斧を受け止めたまま立ち上がろうとするが、動かない。


「さて、君がこの斧を受け止めた時点で君の負けは決定しているようなものだね。これを、受け止めて立っていたら相当なものだと思うよ?」


星々は斧をゾウ魔族ごと振り上げ、上へと放る。大体ビルと同じくらいに浮いたゾウ魔族は体勢を変え、拳を構える。そして、落下の速度を利用したパンチを星々に向けるが、星々も斧を構える。


牡牛の断頭アルデバラン


牡牛の断頭アルデバランは本当はその名の通り、相手に振り下ろす技だが、星々は、大体、毎回野球のバットのスウィングのように使う。オレンジ色に光る斧を見てゾウ魔族は恐怖より高揚が勝っていた。


「面白い……貴様の全力受け止めてやろう……」


「はぁぁぁぁぁ!!!」


ゾウ魔族の拳と星々の斧が触れ合う瞬間、とうとう、周りを囲んでいる廃ビルは倒壊を始める。ぶつかった拳と斧は反発し合い、ゾウ魔族はその反発で起こった衝撃波で再び宙を舞うが、次はそのまま満干外の森林へと飛んでいった。


雨の中のビルの倒壊。しかし、通り道には人が奇跡的におらず人災は出ていない。


「や、やり過ぎた……」


「ははははっ!!やっぱり、面白いね。でも、まぁ、今回は力量を見るためだけの戦闘だからね…」


ギンロはサソリ魔族の肩に手を置き、星々の力に驚きと喜びの混ざった感情に襲われていた。そして、そのままサソリ魔族と跳躍し、反対側のビル群へと消えていった。

数分もしないうちに人は集まり、星々は注目の的になるが、それを気にも留めず本部へと連絡する。


「こちら、星々。銀色の使徒と名乗る三人組と遭遇し、戦闘、廃ビルの倒壊。それに加えた被害はなし。しかし、巻き込まれた人もいるかもしれないので確認次第、解体班へ指示を出してほしい。」


『こちら本部。了解しました。あ、それと、位置情報的に妹さん二人が向かっています。』


「了解。合流して捜索の協力をしてもいます。」


通信を切ると同時に夢希と凪が到着した。悲惨な状態に夢希は口元を覆い、星々へ駆け寄る。


「お兄様!!大丈夫ですか?!」


「あぁ、大丈夫。心配かけたね。」


「てか、おにぃ、無傷じゃん。」


制服自体はボロボロだが、星々の体には傷一つついていない。


「と、言うことで、二人にも協力してもらおう……」


「「了解。」」


夢希、凪の二人は星々と共に倒壊した三棟の廃ビルのがれきの下敷きになっている人がいないかの捜索を始めた。


12:了

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