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16:再会

葵は初風の話を聞き終えると少しうつむく。初風は葵の様子を伺いながら少し前のめりになる。そのまま本日幾度目かの沈黙が流れ、葵が立ち上がり初風の隣へ座る。そして、無言で手を握る。初風はそんな葵にされるがままで何も考えていな様子である。


「初風ちゃん…頑張ったね……」


「いえ、私はそんな……本当に気にしないでください。」


そして、立ち上がる葵は再びダイニングへ立つ。そして、鍋へ水を入れたところでダイニングで大きな落下音が響いた。初風は慌ててダイニングへ走り、葵がいたであろう場所に目を向ける。


「や、やっちゃった……」


突然のことで初風の頭はパニック寸前である。そしてそんな頭の中、一時班長権限を持った海辺の言葉を思い出す。そして、急いで海辺へ通信を繋げた。


「海辺しゃん!」


「初風ちゃん!どうかした!?」


「私が目を離したすきに葵さんが何者かに連れ去られまひた!!!」


そして、初風は続けて状況の説明を始めるが、海辺はうまくその状況が想像できずに初風が説明をし終わったその時に初風に伝える。


「分かった!今そっちに向かう。丁度天々望さんとも合流できたから……すぐに向かう!!」


「ひゃい!!」


初風はしどろもどろになりながらも全力で伝え終え肩で息をする。そして、現場の保護のためにとりあえずKEEPOUTの黄色のリボンを貼っていく。さらに不備がないか頭の中にあるマニュアルを唱えるように小さく口に出す。


「現場マニュアル第一項……」


それから数分後に残りの二班メンバーが来ると初風は勢いよくドアから飛び出す。その慌てた様子に二班の面々は初風を落ち着かせるように肩に手を置きながら現場へ案内をしてもらう。


「ここ、ここで、ここでう!!」


「落ち着け。ニワトリみたいになってんぞ。」



陸丸が初風を優しく跳ね除けKEEPOUTのリボンが貼られまくったダイニングへ入る。


「いや、リボン貼りすぎな!どこからどこまでの間で消えたか分んねぇだろうが!!」


初風は陸丸の大声にひぃぃと短く悲鳴を上げながら縮こまる。そして、その初風を慰めるように海辺が近寄り腰を落とす。


「初風ちゃん。大丈夫だから、立って状況を一緒にゆっくりと確認しようか。」


「は、はい……」


そして、海辺は初風と一緒に葵の消えたダイニングを説明してもらう。海辺は現場の内容を確認すると、二班はその場で簡易会議を始める。


「さて、初風ちんが言うには、ダイニングキッチンで料理の準備を始めた護衛対象ちんが消えたと……で、残されたのは、水の張った鍋ってことねぇ……」


「状況を察するに「鍋の中の水から魔族が出てきてに連れ去れた」だが、そんなことはあり得るか?」


「ありえなくもないが……でも、魔族がこんな広範囲に結界を貼ることが可能なのか?」


海辺は四夜華へ目を向けるが、四夜華は、はて?ととぼけたような顔をする。それに気づく海辺は四夜華へ近寄る。


「班長、何か知っていますね?」


「さぇね?まぁ、知ってたとしてもこれはテストみたいなものだから自分たちで考えてみようか。」


四夜華の態度に陸丸は苛立ちを我慢できずに口を開いてしまう。


「へ、自分がわからんからって俺らの考えさせるって魂胆か?何様だ?班長……」


「煽ってるところ悪いけど、焦った方がいいんじゃない?連れ去られて一時間が経つよ?」


その言葉に陸丸は舌打ちをしながらも現場を見て水の張った鍋へ札を一枚浮かべ詠唱する。


「魔を示せ、時を示せ、たもとともとも指し示せ。」


札が詠唱を聞きいれると青く光る。陸丸はその札を鍋からとり、自らの額へくっつける。そして、また先ほどと同じ詠唱をすると札は緑に光り始め、陸丸は目を開ける。二班の三人の視線が陸丸に集まる。


「どうかな。陸丸……」


海辺と視線が合った陸丸は難しい顔をしてうなりながら口を開いた。


「あ”ー….。これは…結界だが……結界なのは確かなんだが……」


「何か問題なの?」


「ここからは入ることが出来ねぇ……」


「先着一名様ってことか……?」


「まぁ、そんなとこだろうよ……で、恐らく全部わかっているであろうそこの班長様はどうなんだ?」


初風から半ば奪った状態のバランス栄養食を頬張っている四夜華は陸丸と海辺の視線を受けて立ち上がりながら得意げにどや顔をする。


「も~二人は仕方ないにゃ~ボクがこの事件を解決して見せよう!」


「うぜ、いいから説明しろい…」


「お願いします。班長、早くしないと葵さんが……」


そして、四夜華は一言適当な方向を指さしながら言う。


「この事件の犯人のいる場所は、いつかの路地裏だよ!」


三人は首をかしげて、思い出そうとする。”いつかの路地裏”鎧をまとった少年を思い出し、そして、葵が消えた路地裏を思い出した。


「思い出せた?」


「でも、あそこには何もなかったはずですよ?」


「水たまりに陸丸のソレ、使ったかい?」


四夜華は陸丸の札を指さす。三人は黙ったまま確かにと納得する。


「というわけで、件の路地裏に行こうか。」


第二班は葵のダンス教室の近くの路地裏へ向かった。


────────────


また、暗がりに放り出される葵はデジャヴを感じながらも恐る恐る歩みを進めていくと美しい歌声が聞こえてくる。


「あなたが…聞いてるこの声は……」


はっきりと聞こえる歌声に葵は躊躇なくその歌声に近寄っていく。


白鳴しろな!!」


葵は名前を叫ぶ。その声に反応した影は葵の方へ振り向きゆっくりと近寄ってくる。目が慣れてきた葵はその姿に涙を流す。


白鳴しろな……」


「葵。久しぶり……」


葵は思い切り白鳴へ抱きつくと白鳴も葵を抱き返す。数分の抱擁のあと、葵は思い出したように慌てる。


「白鳴、ここにいたらダメだよ。行こう!」


「どこへ?」


「出口を探そう!とりあえず、ここにいたらダメなの!」


手を引く葵をよそに白鳴はそこから動こうとしない。葵は白鳴の方を向き慌てる。


「どうしたの?」


「何でもない。でも、私はここからは出られない。」


「どういうこと?」


白鳴は震えながら、葵から少し距離を置きうつむいたまま口を開いた。


「ごめんね。私……もう人間じゃヴぁヴぃヴんヴぁ……」


声がだんだんと聞き覚えのある魔族の声へと変わっていき、その姿も見たことのある姿へと変わった。


「うそ……」


信じられなかった。いや、信じたくなかった。目の前の将来を誓った幼馴染は自分を襲ってきた魔族だったのだ。


「ごめんね……」


最悪の再会を果たした二人は対面した。


16:了

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