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19:幕間

軽快なギターの音で締めくくられた音楽は会場のボルテージをさらに上げる。青色のサイリウム一色の会場は大きな舞台に向く。舞台のスポットライトが当たるのは一人の女性。青を基調としたフリルの衣装に身を包む人気アイドル美船 葵は決めポーズを緩めると会場の観客たちに手を振る。会場は一人ひとりの声絵が重なり一つの声となった美船に届く。


『みんな~!ありがと~!それじゃ、次はこの曲!!』


流れ出す音楽はピアノ調のイントロで今テレビで人気のヒーローをテーマにしたアニメのテーマソングの音楽だった。イントロが終わりそうな頃合、葵はタイトルを言いながら歌いだす。


『それでは!聞いてください!『ノーブル:アーマード』!』


────────────


ライブ会場と相反して、外は霧雨が降っている。その霧雨に屋根を濡らすドームの前にぶつかる人影が一つ。一方は狼を模した鎧に身を包む戦士。もう一方は魚の魔族。互いにぶつかりあい、つかみ合いになる。力が拮抗しているためか二人はその場から動かない。キリがないと感じた二人はお互いに手を離して距離をとる。魚魔族は周りに無数の水球を配置する。

そして、一斉にその水球を鎧の戦士にむかって放つ。ドームを背にした戦士はそのまま立ち尽くし、胸の石に手をかざす。



──────明鏡止水の心、揺らめく水面の如く


邪なる心、浄める様に──────


「心知り、心を鎮める。」


水球がそのまま命中する。戦士がいたそこには水のベールがかかる。


水化アクア魔装マガ……」


水のベールを引くと青色のコートを纏った戦士が出てくる。そして、戦士は拳を広げてボクシングスタイルの体勢から武術のように構える。それと同時に声も聞こえてくる。


『Don't think Feel』


「あぁ…分かったよ……」


優吾は深呼吸をする。そして、目を開くと魚魔族の魔力の流れをその目に映した。体中に流れる魔力。その中でも魚魔族は魔力が手に集中している。


「これが、『Don't think Feel』の意味か?」


『それが、水の鎧の能力の一つだ。』


声がそういうと魚魔族は魔力を手にためる。優吾は水球を作らせまいと魚魔族の懐へ飛び込む。そして、魔力の溜る手を握り水球を作るのを阻止する。魚魔族はその妨害に爪を突き出すが、優吾は水のような身のこなしでその攻撃を避ける。そのまま魚魔族の突き出た腕をつかむと無理やり引き寄せながら、自身の背中にぶつける。ぶつかると同時に腕を離し魚魔族を飛ばす。魚魔族はそのまま飛ばされ、地面に接触すると同時に水たまりへ溶ける。魚魔族の居場所を見失った勇吾は慌てずに先ほどのように魚魔族の魔力を視る。


雨足が強まる中、優吾は心を落ち着かせる。


集中する優吾は雨粒の音も聞こえなくなり、やがて、風の音も聞こえなくなる。


Don't think Feel

Don't think Feel


動かなくなった優吾に魚魔族は奇襲を仕掛けようと水たまりの中から飛び出す準備をする。


Don't think Feel

Don't think Feel


そして、勢いよく優吾の目の前に魚魔族が飛び出す。しかし、優吾はすでに掌底の構えをとっていた。


──────掌底、水流が如く流せ


酔流式すいりゅうしき流武魔法術りゅうぶまほうじゅつながれ


手のひらに魔力をためながら魚魔族の腹部へ掌底を叩きこむ。


時間をかけて放出される優吾の魔力。


その魔力はだんだんと細く鋭くなり、やがてウォーターカッターのように斬れる水となり魚魔族の腹部を貫いた。水圧の威力で宙へ浮かぶ魚魔族はそのまま背中から地面へ落ちる。破裂音を伴った落下音はその場に血だまりを作る。優吾は気を抜き、魚魔族の死体の近くへ近寄る。運ぼうと手を伸ばそうとすると死体は奇声を上げながら起き上がりそのまま優吾の顔面へ爪を突き立てようとする。


「……もういいだろ……!」


優吾はその爪をよけ、そして魚魔族が完全に隙を作ったところで拳を握りながら詠唱する。


魔力マガ変換ミューテイションイグニス……」


『少年、それは……!』


声が聞こえるが、優吾はそのまま水の魔力を炎の魔力へ変換する。全身が赤く燃え上がり、赤の鎧を装着し、強烈な眩暈の中、魚魔族へきちんと狙いを定めて、その拳を当てる。


くれない……」


燃え上がる拳を見る優吾は眩暈の中、その火力を過剰に上げる。燃え上がりはするものの魚魔族の体は焦げるだけだった。そして、やっと動きを止めた魚魔族は人の、白鳴の形へ戻っていく。優吾は魔装を解除しそのまま白鳴を抱える。


「ごめんなさい……」


「あなたが謝ることじゃない……」


白鳴は涙を流しながら、優吾の頬に手を伸ばす。


「あの子に会ったら、伝えて……a……」


白鳴はそのまま泡のように消えた。優吾はその泡を抱きしめたままただただ涙を流す。


────────────


ライブもいよいよ終盤に差し掛かる。葵は静かに舞台に立つと真剣な面持ちで、マイクを握り口を開いた。


『今日は皆に大事な報告があります。』


会場は先ほどの盛り上がりではなく、「えぇ!?」や「やめないで!」などという声が聞こえる。葵はそんな声に反応し笑顔で再び口を開く。


「安心してください。アイドル活動はこれからも続けます。大事な報告は……」


その時、観客の一人が奇声を上げて葵の方へ走ってくる。黒いキャップをかぶった男はその手に何か液体の入った丸い瓶を持っている。葵はその男と目があい縮こまった。観客が注目する中、その瓶は葵へと……

葵が目を開くとそこには空中に静止する瓶。舞台用のライトに反射して光るその一本はワイヤーだ。


「そうは問屋が卸さないってね?」


魔法術対策機関 第二班 班長 天々望 四夜華はワイヤーを引き、瓶を回収する。そして、指で合図をすると、班員が葵の盾となり、男を取り押さえたりする。取り押さえられた男は葵に向かって炎魔法を打ち出す。



葵の盾になっている海辺は水魔法で防ぐ


「ハイドロバリケード!」


円を描いた渦は炎魔法を完全に消し葵を守った。男は警備員を突き飛ばし逃げる。だが、そんな男を逃がすまいと陸丸が札を投げる。


「縛れ!縛岩タイトロックチェーン。」


完全に捕縛された男は最後の力を振り絞って葵を睨み叫ぶ。


「結婚なんて!許さない!からな!」


会場はそんな言葉にどよめく。男は言ってやったぜと言わんばかりにそのまま連行されていった。ライブは中止かと思われたが、葵はバンドに目配せして演奏を開始した。葵の曲で聞いたことのない軽快なギターイントロに観客は、舞台へ注目する。


『皆さん!私!結婚もしません!大事な報告は……新曲のことです!』


観客のどよめきは歓声に変わり、サイリウムが揺れ始める。葵は皆が盛り上がったのを見て追加情報を言って歌いだす。


『私が友達のために作詞作曲しました!聞いてください!『ホワイト&ブルー:ウェイヴ』!!』


会場は一体となり、今までにない盛り上がりを見せた。


19:了

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