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37:未知

目の前で粉々にされる優吾の形見。周りで見ている者達…それこそ、敵も味方も皆、目を見開き石が粉々に砕ける様子を見ていた。黒い鎧の戦士は優吾を見おろし、見くだし、蔑む。


「命令など、もう、どうでもよい…俺様が何もかも破壊してやる……」


────────────


時を遡り、数時間前。怪我で痛む肩をさすりながら優吾はソファに横たわり、ボーっとテレビを見つめる。これといった趣味もなく、外での用もない。さらに夏休みで学校もない。つまり、現在晴山 優吾は暇である。クロスケが優吾の腹の上で寝息を立て、テレビの音が程よく耳に入り、エアコンの温度も丁度良く、調整しているので部屋の中は今、うたた寝をするのに丁度良い環境である。昨日の戦闘の疲労もあり、優吾はそのままウトウトと瞼が下がりそうになり、その眠気に意味もなく抗う。そんな良い眠気に浸っている優吾の耳にどこからか何かが落下する音が聞こえてきた。なにか、紙の束が滑り落ちたような、本がどこからか落下したような音。音を耳にしたからには見に行かないと行けない。優吾はそう思いながら、深呼吸をしてソファから立ち上がる。もちろん、クロスケは寝ているのでそっと腹からどけて自分がいた位置へと丁寧に置く。


「なんだぁ…?」


優吾は、お風呂場の方へ向かうとなにか見慣れない物が落ちていた。近寄ってみると黒い革製の無地の本だった。この本はどこかで見たような気がして少し頭を捻ったがどうにも思い出せずにその本を手に取ってみた。背表紙かと思って本の裏と表を確認するが、タイトルも何も書かれていない。中身を見ようと表紙か裏表紙かに指を触れたとき、クロスケの鳴き声が聞こえてきた。時計を確認すると長針と短針は重なり12時となっていた。手に持った本を持ったまま優吾はキッチンにある冷蔵庫へ向かい皿に乗ったリンゴを取り出し、そのままダイニングの机に乗せる。クロスケは優吾の手に持っている本を見ると、「なにそれ~」と言っているかのような鳴き声を出す。


「これは、俺も知らん。さぁ、クロスケはリンゴ食べな。俺は余りもんで何か作って食うからさ。」


カァ。分かった。


優吾は手に持った本を机の上に置き、自分の食べる物を準備するため冷蔵庫の中を探り、キャベツや人参の余った部分を取り出す。HIコンロの前に立ちその下にあるフライパン、まな板を取り出し、余った野菜を乗せて切っていく。そして、思い出した様に冷蔵庫から醤油やコショウを取り出しパッパッと振っていく。そして、簡単な野菜炒めを作り終えると、そのままお皿に野菜炒めをよそい、その上にさらにご飯を乗せて机に行く。


「さぁて、ご飯だご飯だ……」


カァ?それで足りるの?


「ん?これは俺のだからダメだぞ?というか、お前さんが食べたら毒だぜぇ?」


カァ!食べないわよ!


「なぁに怒ってんだよ~分かった分かった……落ち着けって……」


クロスケはそのままそっぽを向いてソファで丸まってしまう。優吾はその様子に首を傾げながらも昼食を平らげる。洗い物を済ませ、本を開こうと机に座る。表紙に指をかけ、本を開こうとしたが、クロスケが何かに反応し、優吾の手の甲をつついた。


「あいたっ…!もう、なんだよ…さっきの仕返しかぁ?」


カァ!違う!


クロスケは分かりやすく首を横に振り優吾の質問を否定する。優吾はクロスケの初めて見るその行動に再び質問する。


「違うのか?んじゃ、なんだよ?」


カァカァカァ!それ、なんか嫌だ!


クロスケはくちばしで本の表紙をつつき首を横に振った。優吾は、最初何を伝えたいか頭を捻ったが、頭の中でピースを組み替えていって答えを導き出した。


「もしかして、この本を開くなってことか?」


カァ!カァ!うん!そう!


クロスケはそこで初めて首を縦に振った。魔獣のクロスケがこの本を嫌うってことはこの本は何かまずい物なのかと思い本に触れるのをやめる。


「分かったよ……とりあえず、この本は……父さんの書籍に置いて来よう……」


本を手に持ち、父親の書斎へ行き机の上に適当に置き、階段を登っていった。

父・大介の書斎は小さいころ、良く入って遊んでいたが大介が行方不明になってからは入っていない。ふと、思う、もしかして、あの本は父が持ってきたアンティークだったのではないかと……書斎のドアを見て優吾はため息を吐きリビングに戻ろうとしたが、頭の中に映像が流れる。


黒い鎧の戦士が昨日までと違う姿で星々やギンロたちを蹂躙している様子だった。


「まずいな……」


優吾は完治はおろか、昨日診断一ヶ月と言われた右肩を見て額に汗を浮かべる。だが、頭の中には珍しく二回目の映像…しかも、同じ映像が流れてくる。


「今日はなんか珍しいことが起こりまくるな……」


黒い本といい、クロスケのいつもは見せない態度といい、この映像と言い、今日は否が応でも従った方がいいのかもしれない。そう思った優吾はクロスケに行き先を伝えてそのまま家を飛び出した。


書斎の机に投げられた黒い本はそのままバタバタと動き出し、鈍く黒く光った。


『ミツケタ アト ハ センシ ヲ ヤミ ヘ オトス』


黒い本はそのまま溜っていた魔力を使い、消えた。

────────────


廃工場から離れた森の一角LEOを担いでいるエファは黙り込むLEOへ視線を向ける。無言で視線を向けるエファに対してギンロは玲央れおへ話しかける。


「ねぇ、殺気から黙ってるけど、君、一人で歩けないの~?」


エファはそんなこと言ったってこいつはおそらく無言を貫いて……と思っていると、玲央

は突然口を開く。


「ほざけ。俺様を誰だと思っている。」


力無く下がる腕の脇の隙間からギンロをにらみつける。


「ハハッ…意識が本人に戻ってるね~」


エファとサソリは背筋に寒気を覚え、エファは玲央を地面に落とし、ギンロの方へ逃げる。一方落とされた玲央はフラフラと立ち上がりギンロたちへ向き直る。そして、エファを指さしながらあふれんばかりに殺気を出す。


「おい、そこのデカブツ……誰を地に放ったか理解しているか……?」


「ほぉら……エファ、謝ってよ~」


エファはギンロに「ふざけないでください」というと、殺気立つ玲央へ目を向け、臨戦態勢に入る。玲央はエファが戦う意志を見せたことで、玲央は胸にかかっている魔石へ目を向ける。そして、何かを悟ったように石を握り、詠唱する。


「これで、変身できるのか……?まぁ…いい…………魔装…。」


黒い鉄の塊が現れ、周りに浮遊する。ギンロたちはその様子に緊張しながらも各々で拳を構える。そんなギンロたちが怯えているように見えた玲央はだんだんと近づいて行く。浮遊している黒い鉄の塊は玲央へ突き刺さっていく。玲央の体へ刺さる鉄はその形鎧へと変わっていく。そして、完全に魔装を完了した玲央はボロボロの体を引きずるように近づき、ゆっくりと拳を握っていく。エファはサソリはいつもならそんなにノロノロとしてる相手には速攻を仕掛けるが、玲央を目の前にした二人はなぜか動かない。否、


動けない。


目の前にいる黒い獅子の鎧の戦士の威圧感。


ギンロ並みの威圧感に圧倒される二人はそのまま固まってしまうが、ギンロはそんな玲央の様子に星々に見せたような無邪気な笑顔をする。


「へぇ、君、その歳でそこまでの魔力の質……修羅場をくぐったか、血を吐くまで鍛錬したか……」


「貴様に話す義理はない…なッ!」


玲央はギンロへ照準を合わせて拳をギンロへ振るうがギンロはその拳を片手で受け止める。


「今のキミだとまた、昨日みたいに負けるよ?」


玲央は何のことだと首を傾げる。そんな様子にギンロは「忘れてるのね」と小声でつぶやき拳を振り払う。玲央は、そのまま膝をつき、魔装を解除する。


「これは、意外と魔力を使うのだな…」


ギンロはそれはそうと、と前置きし、玲央へ質問をしていく。


「君さ、今どんな自分が状態になっているかわかる?」


「さぁな…殺人犯の魔族を捕まえようとして俺様は爆発に巻き込まれて……死んだんだろう?貴様は何か知っているのか?」


「さぁ…僕らは君をオオガミから借りているからね…………にしても爆発に巻き込まれたのか……君は死んだところを回収されたのか…………はたまた……てとこかな?」


「俺様は細かいことは分からないが、何となく今の現状は把握できる。俺様は死んでいない。ということだ。」


「うん、そうだね……とりあえず、君はオオガミのところへ連れて行こうかな……」


「断る。せっかく云年ぶりに意識が戻ったのだ。俺様はこのまま貴様らと一緒に行動しよう。」


ギンロは少し口角を引きつらせ溜息をついた。


「まぁ、いいか…LEO、今、君はひどい怪我をしているからちょっとこっち来て。」


ギンロたちはLEOを担ぎ、また森の中を歩いて行った。


「放せ!俺様は歩ける!」


「エファ、ごめんけどLEOをお願い。」


エファは玲央を受け取ると、無言でギンロの後ろをついて行く。数分歩いているとギンロは何かの接近に気づく。振り返ると、何かがこちらへ向かってきている。


「あれは……」


どこか懐かしいが憎しみも生まれてくる魔力。迫ってきた物体は黒い本だった。黒い本はギンロ、エファ、サソリ、玲央の順に見て玲央の周りを飛び回る。エファは害虫を追い払うように玲央をかばいながらも自分の安全を考慮しつつ本を追い払おうとする。ギンロはそんな様子を見て本を掴む。


「こいつ…魔導書グリモアだね。」


「魔導書にしては、魔力が弱い気がするが……」


「いや、こいつは、わざと抑えているんだよ。」


ギンロはその本を持ちながら、歩いて行く。


「ギンロ、本は持っていくのか?」


「何をしでかすか分かったもんじゃないからね…」


と言いつつギンロはその魔導書を自分の魔力で抑えている。そのまま歩いて行くと、洞窟につく。ギンロはその中へ入り、玲央の手当てをする。そのあと、ギンロは一人で洞窟を出ようとする。サソリはそんなギンロの背中を呼び止める。


「どこへ?」


「今日は僕がやろうかなって……」


サソリは深くため息をつき、ギンロを睨む。


「教祖、いい加減にしてください。あなたは星々という者と対峙しておかしくなっている。ご自覚してますか?」


ギンロは言葉に詰まり、再び背を向ける。


「わかるよ。ここ数百年退屈だったから自分でもおかしくなってるのくらいわかるよ。」


ギンロは跳躍して洞窟を後にした。


────────────


魔法術対策機関本部の警鐘が鳴る。


『Tブロック山岳地帯に銀色の魔族目撃情報があり。被害はいまだ未知数ですが、第一班は直ちに現地に向かってください。』



「お兄様!」


「うん。行こうか」


第一班は準備を終えるといつも通りに現場へと向かう。


Tブロック山岳地帯は登山者が多く、一種の観光スポットとしても有名だ。そんな平穏な山岳地帯に銀色の閃光が走る。


「さぁて、適当なところに雷魔法を……」


ギンロが手を構えていると、晴山優吾がこちらへ走ってくるのが見えた。


「今日は、星々 琉聖は一緒じゃないんだ?」


「いつまでも頼ってられないからな……魔装…!」


優吾は龍の鎧に姿を変え速攻を図る。だが、ギンロは優吾には興味がないようで一発で優吾を打ちのめす。ギンロはそのまま雷魔法を打とうと再び手を構える。優吾はそんなことはさせまいと立ち上がりギンロを止める。


「はぁ……晴山優吾……君は後回しだ。」


ギンロは腰辺りにしがみつく優吾の腹部へ膝蹴りを叩きこむ。優吾の鎧は今ドレイクモードなので耐久と力だけはまだ余裕だ。膝蹴りでも離れない優吾にギンロは大きくため息をつき、背中へ肘打ちをするが、優吾は動かない。ギンロの肘が優吾の鎧の背中部分にひびを入れたとき、ギンロは明後日の方向を見て笑顔を見せた。


「来た……!」


ギンロの目線の先には通報を聞きつけてやってきた星々琉聖率いる魔法術対策機関第一班がこちらへ走ってきている。


「優吾君!!」


星々の掛け声とともに優吾はギンロから離れる。


射手の矢サジッタ……射手、流星打ちカウス アウストラリス!!!」


炎の矢を放ち星々はギンロとの距離を一気に詰める。ギンロは放たれた矢を掴みその矢をかみ砕く。


「星々ぃ……」


「……?何かおかしいな…」


星々は今回のギンロのことに異変を持ちつつ連続で攻撃を仕掛けていく。その攻撃を裁き、ギンロはそのまま爪を突き立てようとする。二人の目にも止まらぬ速さに、一班のメンバーと優吾はその光景に唖然としている。


「すげぇ…」


「当たり前です。お兄様は大魔導師とも言われますから。」


「なんで、ゆきねぇが誇らしげなの…」


「三人とも、今は、周りに人がいないか観察するぞ。」


文字通り光の速さの二人は周りの被害を気にすることなく互いに攻撃を仕掛ける。だが、ギンロの様子がおかしい。いつもの冷静さが欠けている様子で星々との戦闘を何よりも楽しそうにしている。


「星々ぃ……もっと、オレと戦エ……」


「ギンロ、様子がおかしいぞ?」


「そんナ……こ…………魔導書グリモアを取れ……」


魔導書グリモア?」


ギンロは懐から無理やり本を取り出す。星々はその本を見たときすぐに、ギンロの手からはじき出した。


「なんで魔導書グリモアなんて…」


「飛んできたんだ……捨てたらもっと厄介なことになるからね。持ってたんだ……そしたら、あのざまさ……」


ギンロの手から離れ魔導書グリモアは宙へ浮かぶと黒き渦を巻き、どこかへつながる空間への入口を展開する。数分凝視していると中からエファ、サソリ、そして、玲央の三人が出てきた。エファとサソリの様子はいつも通りだが、玲央の様子がおかしい。ボロボロの星々に肩を組まれていたギンロの姿を見たエファとサソリはギンロへ近づく。


「離れろ。人間が……」


「ギンロ大丈夫か…?」


「僕のことは今はどうでもいい……今は、あの魔導書を止めないと……」


玲央はフラフラの体を引きずりながら渦の中から完全に出てくる。顔を上げた瞬間、全員の背筋が凍る。


「あれは…私の知っている玲央なのか?」


優吾は頭の中に流れてきていた映像を思い出し、震える足を前に出す。無理やりに腕を振って玲央と相対するように前に立つ。そんな様子にギンロすらも慌てる。


「やめろ!今のLEOはこの場の誰よりも強い!それに、君や石をここで失うわけにはいかいない……星々ならこの場を切り抜けられる!頼む!晴山優吾。ここは引いてくれ!」


優吾はそんな声を無視して胸の石を握りしめる。


「魔装……」


それに合わせるように、玲央も魔装をする。


白と黒の鉄の塊が打ち合い、互いの主へ突き刺さっていく。


魔装戦士マガ=べラトル!!」


魔装完了All Set…」


互いに睨みあった二人は互いに歩きながら距離を詰める。優吾は胸をさわり龍の剣を取り出す。


龍化ドラコ―魔装マガ。」


紫の鎧を纏い、剣を構える。


互いに攻撃が入る間合い。


暗くなった空から雨粒が一つ落ちてくる。


その一粒は丁度二人の間に落ちる。


落ちた瞬間、二人の剣が、拳がぶつかり合った。


剣を真横一文字斬りにするが玲Oの拳はその剣をはじく。優吾ははじかれた剣を持ち直し、また振る。LE央はまたそれをはじく。剣を振る、はじく、振る、はじく。それを繰り返していたとき、優吾の右肩に異変が見られた。


激痛。


今までにない激痛。


優吾は剣を思わず話してしまい、LE央の拳が胸部へもろに入ってしまった。優吾の魔装の中で防御力が最も高い龍の鎧ならば耐えられるかと思われたが、その信頼は虚しく砕かれる。鎧の胸部が粉々に砕け、優吾自身の肌が露出する。吹き飛ばされると壁にぶつかり吐血する。


「くっそ……」


体勢を立て直そうと腰を持ち上げたがLE央はすぐ目の前に来ていた。


「はやっ……!」


玲Oの拳が顔面に当たる瞬間、近くまで来ていたギンロが風魔法を優吾に向けて撃つ。


「使え!!」


優吾は四の五の言ってられないと詠唱する。


風化ヴェントゥス魔装マガ!!!」


風の鎧を纏うと優吾はその足でLE央の拳を避ける。そして、未来視で次の行動を予測する。


「真っ……すぐ……!?」


ど真ん中ストレートを放つ玲Oの未来。優吾はその未来を視て避ける準備をするが、


ミライ ハ カワル


「は?」


右側から衝撃が来る。


つまり、そう、


未来が変わったのだ。


そのまま倒れそうになる優吾に星々が水の魔法を打ち込む。追撃が来る前に優吾が急いで水の鎧を纏う。


「優吾君!!」


水化アクア魔装マガ…!」


水の鎧を纏い、すぐに体勢を立て直しLE央の攻撃を受け流そうとする。だが、


ミズ ハ カレル


そのいなしは全く意味のない行為になる。


拳をいなそうとした優吾の手は力任せに打ってくるLE央の拳をその身に受ける。再びみんなの目の前に吹き飛ばされた優吾は震える膝を叩き立ち上がる。優吾は震える彩虹寺に目配せして頷く。彩虹寺は最初首を横に振ったが、割れた鎧から見えた優吾の目を見た彩虹寺は渋々うなずいた。そして、手のひらに炎の魔力を溜めて優吾へ放つ。



「……死ぬなよ……?」


「おうよ……炎化フラマ……魔装マガ!!」


優吾は炎の鎧を纏い、拳を固める。すぐ目の前まで来ていたLE央の攻撃を優吾は紙一重で避ける。優吾は、彩虹寺へ目配せをする。彩虹寺は優吾を狙って炎の魔力を打ち続ける。優吾は彩虹寺の攻撃を受けつつ、玲Oの攻撃を避ける。彩虹寺が最後の一発を打ち終わると優吾は、拳を思いきり固めて隙をさらしたLE央の脇腹に思い切り打ち込む。


くれない!!!!!」


山岳地帯全体に響き渡る轟音、雨すらも蒸発させる威力。炎の鎧を初めて纏った時の「紅」の威力をはるかに上回る威力の「紅」。


煙が天高く昇る。


全てを出し切った優吾は、LE央の様子を見る。


「うそだろ……」


これだけの威力の魔力攻撃を受けて立っているとは思えない。だが、玲Oは平然と立っていた。そのまま優吾は、魔力切れで白の鎧に戻る。


「俺は……ッ!俺はぁ……ッ!」


優吾は白い鎧のまま立ち上がり拳を固める。LE央も拳を固め、ゆうごと同時に打つ。


ぶつかり合う拳。だが、勝ったのはLE央の拳だった。


砕け散る鎧。


膝から崩れ落ちる優吾。


それを見るギンロと第一班の面々。


ボロボロになった優吾はそれでも立ち上がろうとしているが、もう、優吾の体は限界を迎えており、動かなくなっていた。睨まれるLE央はそのまま優吾の首から石を奪い取る。奪われた石は地面に叩きつけられ、その上に玲央の足が乗っかる。力を入れると石は音を立てて崩れ去った。


目の前で粉々にされる優吾の形見。周りで見ている者達…それこそ、敵も味方も皆、目を見開き石が粉々に砕ける様子を見ていた。黒い鎧の戦士は優吾を見おろし、見くだし、蔑む。


「命令など、もう、どうでもよい…俺様が何もかも破壊してやる……」


センシ ハ オノレ ノ ムリョク 二 ナミダ ヲ ナガシ ゼツボウ スル


優吾はその光景を最後に気を失った。


37:了

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