晴山邸の地下一階にて……以前は父・大介が書斎として使っていた場所で、大介が書いた論文や大介の同期や先輩の資料なども保管されている場所。大介専用のパソコンや文具などもあったが、今はそんなものもなくただの資料部屋となっている。そんな大介の部屋の本棚の一つの本が一冊落ちる。黒い無地の革製の表紙。その黒い本はいきなり開いたかと思えば、自らの表紙と背表紙をまるで鳥の翼のように動かし音を立てながら宙へ浮く。そのまま音を立てながら本は部屋を移動する。出口と思しき扉を見つけると、扉へぶつかり出ようとする。しかし、扉は開くはずもなく部屋には不気味な衝突音が響くだけだった。本はそのまま落ちると意を決した様に鈍く黒く光り始める。再び宙へ浮かぶと表紙を下にして束を開き
、魔力でできた腕を生やしドアノブをひねり地下一階を出た。
『戦士ヲ探ス……』
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ギンロから無事、逃走できた星々は優吾を抱えたまま魔法術対策機関の本部付近の上空へ来た。星々はこの辺でいいかとそのまま高度を下げて着陸する。
「優吾君、大丈夫かい?」
「はい、肩だけです……でも、ちょっと痛いですね…」
右肩をかばう優吾の顔は空元気の笑顔だと分かった星々はそれを指摘するでもなく、肩を組んでそのまま本部まで一緒に歩いて行った。ふと、星々は優吾が剣を持っていないことに気づく。
「優吾君、君、あの剣はどうしたの?」
優吾も思い出した様に探すが、当たり前だが剣はどこにも見当たらない。そして、首にかかっている石を握ろうとした時、眉間にしわを寄せて何か違和感を感じたように石を取り出すと、石の中に紫の剣が入っているのが見えた。その周りには龍の爪のような装飾が施されていた。
「石が……」
「進化してる?」
ホッとした二人はそのまま本部へ入っていく。そのまま優吾は治療室へ向かい、星々は会議室へ向かった。
────治療室────
優吾は博子へ治療をしてもらうために椅子に座り治療をしてもらう。
「ま~た無茶したね~」
「いや~本当、申し訳ないですよ~。」
「そういって~右肩は全治一か月くらいだよ~?」
博子は肩へ包帯を巻くと軽く叩き、他のところへも絆創膏を貼っていったりする。治療を終えた優吾は思いだしたように、石を取り出し博子に見せる。前に見た時と大きく変化してる石に博子はそれを優吾の手から奪うように取り石を見つめ観察する。そして、優吾に気づき、目を輝かせて凝視する。
「な、何ですか?」
「優吾君さ、この石ちょっと貸してくれない?」
一応、変化がないかを調べてもらいたかった優吾はそのまま石を渡す。博子は石を受け取ると目を輝かせたまま石を機械にセットする。優吾をそのままに博子は石の成分や魔力量を検査し始める。検査はそのまま続き、成分、魔力量の検査が終わると、肩を落として優吾の元へと戻ってくる。先ほどとの落差を感じた優吾は博子の顔を覗くように近寄る。
「ど、どうしました?」
「いやぁ……その、ね…前と変わらなかった……」
何か悪いことがあったと思った優吾内心少しホッとしながら、しょんぼりした博子から石を受け取る。優吾はそのまま治療室を出ようとしたが、足を止めて博子の方へ向き直る。
「そういえば、この石はその辺の石と成分は変わらないって言ってましたけど、壊れたりしたら治せるんですか?」
博子はその言葉に少し唸りながら答えた。
「ん~……そうだな……ここには石の専門家はいないし、まして、君の石は魔力で動いているものでもないし…………そうだなぁ……答えは……今のところ”無理”かな…」
優吾はその答えに少し背筋が伸びながら無理に表情を作ったと悟られないように「そうなんですね」と口を開く。そのまま部屋をあとにした優吾は廊下を進み、部屋からかなり離れた場所で石を取り出し見つめる。そして、考える。この石が何かの手違いでもし砕けてしまったら……とじっと見つめ最悪の状況を思い浮かべ首を横に振り考え事を振り払う。
「気をつけよう……」
息を飲み、そのまま優吾は動かしづらい右肩をさすりながらそのまま廊下を抜け、第一班の会議室兼待機室へ顔を出した。部屋には星々はもちろん、他のメンバーもそろっていた。
「やぁ、優吾君。治療は終わったのかい?」
「はい、右肩は全治一ヶ月だそうです。痛みと動かしづらさがあるので全治までは治療室通いです。」
「そうかい。それはよかった。ただ、全治するまでは今後戦闘への参加は我慢だね。」
優吾は少し落ち込んだように返事をすると、そのまま部屋を出て帰宅しようと歩を進めると後ろから彩虹寺の声が聞こえてきた。振り向くと彩虹寺がこちらへ小走りで向かってきた。
「どうした?」
「いや、はんちょ……琉聖さんがもう少しゆっくりしていってもいいと言っていたから、呼び止めたのだが…帰宅か?」
「まぁ、そんなところだな……怪我もしたし……まぁ、前みたいにむやみやたらに戦ったりしねぇから、それじゃ。」
あぁ…と彩虹寺は優吾の背中を見ていたが、心配になりやはり優吾の後を追いかける。
「なんだよ…」
「いや、ココから君の家まで距離があるからな。私が護衛として家まで送っていく。」
「琉聖さんに連絡しなくてもいいのかよ。」
彩虹寺は第一班の部屋を見て、優吾へ向き直る。
「まぁ、大丈夫だ。私は一応優秀だからな。ほら、行こう。」
「分かったら、引っ張るな…って……」
そのまま二人は本部を後にした。彩虹寺を止めようとしていた星々は、そのままニヤついた顔で部屋へ戻る。そんな様子を見た夢希は読書をやめ口を開いた。
「お兄様、どうしたのですか?というか、彩虹寺副班長は?」
「いやぁ?他人の恋路の邪魔はしちゃだめかなって思ってね……さて、資料まとめようっと……」
「おにぃ、わかりやす……でも、あの二人は……」
焔が言おうとしたことを星々は察し、焔戸と口を揃える。
「「いいよね~……」」
そのノリに夢希はため息をつきバカバカしいと言わんばかりに紅茶を淹れ窓に夕日を視ながら読書を再開した。
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ヤガテ ミライ ハ ヤミ 二 ユガミ センシ ハ オノレ ノ ムリョク 二 ウチヒシガレル
優吾はその言葉を聞くと周りを見渡す。
「どうした?」
「いや、なんか声が……」
「いつものか?」
「いや、いつもは頭に直接語り掛けられるんだけど、今のは、どこから聞こえてきたような……」
「空耳ではないか?」
「そうかぁ……?」
優吾は疑問に思ったまま帰路を再び歩く。数時間歩き、自宅へ着いた優吾は門をくぐり、帰ろうとする彩虹寺を呼び止める。
「飯、食ってくか~?」
「いや、今日はまだやることがあるし、私は今日はまた本部へ行くよ。」
「そうか……んじゃ、またいつか、次は琉聖さん達も呼んでで来いよ。」
「あぁ、いつかな」
彩虹寺は門を出ると、優吾へ手を振って、来た道に戻っていった。優吾は彩虹寺の足音が消えるまで玄関ドアを開き、足音が消えた段階でドアをゆっくりと閉める。静かな自宅に響く優吾のただいまの声を聞いて、ダイニングから何かが羽ばたいて来る。黒いそれは優吾の顔にぶつかるとカァと鳴いて肩に乗る。
「クロスケぇ……」
「
何か怒っているのは明らかなクロスケに、優吾は謝りながらクロスケを肩に乗せダイニングへと向かった。その背後、黒本が階段から降りてくるとお風呂場の方へと飛んでいった。
36:本