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41:三人

銀色の星がちりばめられた青い夜空の下。月の光に照らされる六人は満干の中心Nブロック廃ビルに集まっていた。膝をついていた三人が立ち上がり、銀色の使徒 教祖 ギンロ=シルヴァスは目の前に立つ銀色になったモグラ魔族のモラグ、グラモ、ラグモの顔を見る。


「それじゃ、三人共よろしくね。」


ギンロはモラグの肩を叩くとそのままエファとサソリを連れて闇夜へ消えていった。モラグは銀色の瞳を光らせ、グラモとラグモを連れその廃ビルを静かに倒壊させた。


──────魔法術対策機関


その日の晴山優吾の朝は、緊急事態に鳴る魔法術対策機関の警鐘で目を覚ました。ベッドから体を起こすと廊下の遠くの方でどたばたと皆の走る足音が聞こえている。そして、石が光ると頭の中に映像が流れた。銀色の魔族三人に戦力がままならない魔法術対策機関の各メンバーが圧倒される映像。優吾は、無言で病院着から普段着に着替えて病室のドアを勢いよく開けて走っていった。その30分後、看護師は優吾の最終チェックをするため、博子を連れて病室に入ってきたがもぬけの空と化した病室をみて大きくため息を漏らしたのだった。


「もう、ここの人たちってなんで完治寸前に飛び出て行っちゃうんですか?!」


「いや~それは完全にこっちの人たちのさがでしょ~」


看護師は肩を落とし踵を返す。博子はその後をスキップしながらついて行った。病室の窓から見えるのはNブロック辺りから登る土煙だけだった。


──────Nブロック


直径一メートルほどの穴が何個も空いているNブロックの道路。人々はその道路を避けて歩いたり車は当然通れないので皆がスマホを耳に当てて警察や魔法術対策機関に電話をしている。数分後、魔法術対策機関のメンバーが到着した。一班は星々の腕の骨折が完治していないため班長顕現が副班長の彩虹寺にあり、指揮をとって班員の夢希と焔を率いている。二班はあばらを3本折って重傷班長の四夜華の代わりに副班長の海辺が指揮を取り班員の初風が足を骨折したため班員は陸丸というツーマンセルでの行動になっていた。


「お互い、班長がいないとなると戦闘はなるべく避けたいけど……」


「これは、魔族の仕業で間違いないからな。戦闘は避けられないだろう……海辺は周辺にも穴が空いてないかの確認を頼む。私たちはこの辺の捜索をする。お互い、魔族に出くわしたらそこへ戦力を集中させよう。」


「了解……って、これってさ、一班と二班合わせた形の特別班にして綾那先輩を班長にして、僕を副班長にした方が良いのでは……?」


「その方が良いかもね。でも、私にはあまり判断力はなにから期待はしないでくれよ?」


二人はそのまま各班員を連れて二手に分かれた。彩虹寺達は穴を見てその深さを確認しようと覗き込むが、穴は深くまで空いており下は見えない状態になっている。周りを見ていると穴以外にはさほどの異常はない。彩虹寺は一応班員二人に市民の避難誘導をするように指示を出した。直後、すぐそばのビルが真下へ落下した。大きな音と共に穴から土煙が上がる。


「まずいな……」


彩虹寺は土煙の上がる穴へ近づき覗きこむ。すると、銀色の魔力弾が彩虹寺の顔めがけて飛んできた。紙一重でそれを避けると、穴の中から何かが出てきた。土煙が晴れると同時にスの姿が現れた。銀色の頭のモグラの魔族グラモ。その目は無機質で無表情に銀色に光っている。その無表情の顔から手のひらをこちらに向けて魔力弾を放ってくる。彩虹寺はその攻撃を迎え撃つため同じく手を構えて魔法を放つ。


二光ツイン:ファイアボール!!」


グラモの放つ魔力弾と彩虹寺のファイアボールがぶつかり合う。彩虹寺の視界は土煙で見えなくなる。次の魔法の準備をしようと手を構えたが大きな音と共にグラモがロケットのように突っ込んでくる。彩虹寺はその予想外の攻撃にそのロケット頭突きをギリギリで躱す。しかし、彩虹寺の脇腹をかすれ、彩虹寺の白い肌が露出しその肌に赤く太い線が入っていた。


「速い…ッ!」


彩虹寺は脇腹を抑え、グラモがいるであろう後ろを振り向き手を構えたが時すでに遅し。

グラモはすでに次のロケット頭突きをしたあとであり、目の前に迫っていた。彩虹寺は反応できずにまたもやギリギリで体を傾けるが次はかすり傷ではなく、右肩にグラモの頭の突起が刺さった。そのままグラモに引きずられビルへ衝突する。右肩へ突起が刺さり出血する。


「ぐッ…」


グラモは突起を抜くと赤く染まった頭を拭い倒れる彩虹寺を見て手を構える。その手には魔力が溜められ、膨れ上がった魔力がその手から発射される。彩虹寺は左手を構え対抗しようとしたが彩虹寺の前に影が立ちふさがった。魔力弾が当たり土煙が上がる。土煙を振り払うとそこに晴山優吾の背中が見えた。


「晴山……」


「よう、助けに来たぜ…」


優吾はそのまま石を握りグラモへ跳躍する。そして拳を固めながら詠唱する。


「魔装!!」


鉄の塊が現れグラモを攻撃しながら優吾へ突き刺さり鎧を形成していく。


魔装戦士マガべラトル……魔装完了ALL SET!!!」


そのまま拳を突き出しグラモへ殴り掛かるがグラモはその頭で防御する。優吾の拳はグラモに弾かれそのまま反動で飛ばされる。


「固っ……」


「気を付けろ、魔力も今までのやつとは段違いだ。」


彩虹寺は手に炎の魔力をためると優吾へ渡す。優吾はその魔力を石で吸収し炎の鎧へ魔装した。


炎化フラマ……魔装マガ!!」


炎に包まれた拳をグラモにぶつけるが、またもや頭で防御される。 しかし優吾は拳をそのまま固めて攻め続ける。鬱陶しくなったグラモは頭で防御しそのまま手のひらに魔力をためて機をうかがう。優吾の幾発目の拳を受けた頃でグラモは魔力弾を目の前で放つ。


「ちょ…」


優吾はガードが間に合わずに直撃する。そのまま彩虹寺の隣に飛ばされると優吾はその場にしゃがみこむ。


「どうした?!」


「いや、拳がよ…あいつ固すぎていてぇんだ。」


優吾は拳を見せると皮膚が見えるほど鎧がボロボロになっていた。


「……無理はするなよ?」


優吾は立ち上がりながら彩虹寺へ目を向ける。鎧で表情は分からないが、恐らく顔であろう本人の声色が彩虹寺の耳に入る。


「無茶はするかもな……?」


「あ、おい……」


彩虹寺が止めようと立ち上がったが、優吾は胸の石をさわり剣を取り出し詠唱する。


龍化ドラコー魔装マガ!!」


紫の鎧になると、剣に魔力を集中させて剣を振った。グラモはさすがにまずいと思ったのかここで初めて優吾の攻撃を避けた。距離が空いた二人の間に沈黙が流れた。優吾は剣を構えてグラモへ迫る。グラモは優吾の攻撃を避けながらしきりに地面を細かく叩く。優吾はそんなグラモへ斬りかかるがグラモはその攻撃をよけ続ける。やっとのこと、グラモを追い詰め剣を天へ突き上げて振り下ろそうとした瞬間、背中に何かが激突する。痛みは龍の鎧のおかげでないものの衝撃はすさまじくグラモが背中にしていたビルへ突っ込むほどだった。立ち上がった優吾は土煙を振り払い誰がいるのか確認する。そこには、グラモと似たようなモグラの魔族がいた。胴体が銀色の発達したモラグ。その後ろに爪が発達したラグモがいる。


「まだ、いたのかよ……」


「待ちやがれ!!」


ラグモの後ろ、こちらへ走ってくる影が二つ。目を凝らしてみると二班の海辺と陸丸の二人だった。二人は深手を負っているわけではなさそうだがボロボロで土埃まみれになっている。優吾は二人からモグラ三人衆へ視線を向け剣を構えたが、三人はすでに優吾の目の前まで迫っていた。優吾が剣を振ったが、モラグが胸で防御し、弾かれて後ろにのけぞった優吾にラグモが爪の斬撃を飛ばして、姿勢を立て直すのを阻止し、最後にグラモがロケット頭突きで突っ込んでくる。


「まっず……」


優吾はそのまま頭突きを受けて地面にめり込んだ。鎧から吐血するほどの威力、優吾は斬撃を地面に飛ばし土煙を起こす。そのまま優吾はビルから出て二班の二人の方へ向かう。二人と合流すると二人も優吾へ駆け寄ってくる。


「大丈夫かよ。」


「無理しないようにね…」


「むり、し、死ぬ…て、手伝ってくれ……」


二人は優吾の肩へ手を置くとサムズアップをして両省の合図をした。海辺と陸丸と優吾は息を整えてモグラ三人衆へ視線を向ける。


「しゃ、いっちょ反撃と行こうぜ。」


「で、作戦は何かあるの?」


「お前ら何が得意?」


二人はため息をつくと、優吾を押しのけて前に出る。海辺は水の魔力を手にためてその魔力を槍状にして、飛び上がっているグラモへ投げ飛ばす。


「僕は、水の魔法が得意……オリジナルだけどね……海皇伸の槍シー・アロー!!」


陸丸は、札を取り出すとラグモの足元へ投げる。そして、詠唱して魔術を発動させた。


「俺は魔術が得意。俺もこいつと同じでオリジナルで魔術を作っている…縛れ!縛岩タイトロックチェーン……からの……大岩はそれを押しつぶす。漠大岩破サンドロック・ブレイク!!」


ラグモの足元の札から岩の鎖が出てくるとその動きを封じる。その上に大きな岩が降ってくるとその岩はラグモを押しつぶように落ちる。優吾はそんなカッコイイ自己紹介を見て俺も俺もと前に出るが、二人はもう知ってると一蹴する。


「俺もやりたかった……」


「んな悠長にしてられっかよ…ほら、作戦……どうする?」


「僕は比較的なんでもできるよ?」


頭をひねった優吾が何かを閃いたように二人へ耳打ちする。二人は微妙と言わんばかりの顔をするが優吾と目を合わせて渋々了承する。


「行けるか?二人とも。」


「おうよ。」


「いつでも……」


二人の準備完了の声を聞いた優吾は、よしと声を上げ剣を構えて一歩を踏み出し改めてモラグへと迫った。陸丸がグラモとラグモの足元へ札を投げ、優吾から集中をそらす。そのまま詠唱して二人を縛ると海辺へ目くばせする。海辺は優吾の背中を追い、合図があるまで気配を消す。そして、優吾は勢いそのままにモラグへ突っ込む。モラグはもちろん防御の構えをして優吾を迎え撃つが、優吾はそのまま魔力を溜めずにモラグの胴体を叩く。鉄のぶつかり合う音が周辺に響く。モラグはその音に思わず、全身が震える。モラグの筋肉が緩んだその時、優吾は後ろにいた海辺へ合図を送る。


海皇伸の槍シー・アロー!!」


モラグへ当たる槍は海辺と陸丸の予想通り弾かれる。陸丸は必死に残り二人を食い止めながら、大きな声で優吾へ呼びかける。


「やっぱ無理か……」


「何やってんだよ……考えりゃわかるもんだろ……で?どうすんだよ?Bプランとかねぇのかぁ?」


「なぁい!!」


優吾のその言葉に陸丸は頭を抱え大きくため息を吐き海辺に目配せした。陸丸の視線で海辺はすぐに準備にかかる。懐から陸丸の札を取り出し、ひるんだモラグの足元へ投げる。それを見た陸丸は、モラグ分の詠唱もして縛る。


「優吾…さん。一旦この場から離れましょう。」


優吾と海辺がビルから離れると陸丸がさらに詠唱し、大岩をビルの上に落とす。


ビルが倒壊すると大きな土煙が上がる。


「一旦、これで目くらましぃ……ッ!!」


陸丸が引こうとしたら穴に落ちる。そして、海辺も同じく穴へ落ちる。


「ってぇな…!なんだよこの穴……」

「やられたね。」


二人はそのまま穴にはまったまま天を見上げ這い上がろうと穴の壁に手をかける。二人が穴に落ちたことに気づいた優吾はモグラ三人衆を目の前にして拳を固めた。


「やってみるしかねぇな……」


優吾の胸の石が黒く鈍く光った。


41:了


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