黒い鉄の塊が宙へ舞う。石に手を当てた優吾は顔をこわばらせる。その膨大な闇の魔力量にモグラ三人衆は慌てて優吾を止めようと必死に距離を詰めたが黒い鉄の塊が行く手を阻んだ。優吾の様子を見ていた彩虹寺も腰を持ち上げたが優吾は詠唱する。
「魔装!!」
優吾に黒い鉄の塊が突き刺さり鎧の形を形成していく。魔装を完了するとその瞳が赤黒く光った。
「
拳を固め優吾は速攻をかけた。まずは後ろで後ろで準備をするグラモへ距離を詰める。他の二人は優吾の背中を追うが優吾は膨大な魔力の放出でそれを邪魔する。そのままグラモへ拳を振るい地面へと食い込ませる。グラモの処理を終えた優吾は次に防御担当のモラグへ目を向け無言で迫る。
『まだ大丈夫。まだ大丈夫。』
そう言い聞かせながら拳を振るい頭をわしづかみにして倒壊したビルの壁にぶつけて気絶させる。そして最後、爪の斬撃を飛ばしてくるラグモへ視線を移動させて一歩の跳躍で距離を詰める。だが、その時意識が遠のく。
『まずい……まずい……』
薄れゆく意識の中魔装を解除しようと胸の石に手をかざしたが、腰に何かがつかみかかってきた。ぼやける視界を向けるとそこには地面にめり込めせたはずのグラモがいた。優吾は必死に振り払おうとするが背中にも誰かがつかみかかってきた。銀色の腕が見えたことからモラグであることがうかがえた。
『やめろ……俺は、前みたいに……やめろ……』
振り払おうとしたが、優吾の意識は完全に持っていかれた。
────────────
『また、やっちまった……』
目の前に広がっているのは、モグラ三人衆を痛めつける自分の拳。今までの魔族と違い頑丈なので一匹一匹の急所を的確に攻撃している。 ただモグラ三人衆もやられっぱなしではなく攻防一体の連携で優吾を押し始める。だが、当の本人はハンドルから手を離している状態なので関係がない。ただただ、椅子に座り映画を見ているような錯覚に陥る。モグラ三人衆と優吾の戦いで町の被害はさらに広がっていく。優吾は広がる被害をただ眺めるだけしかできない。
『俺のせいでまた誰かが、仲間が、傷つく……俺はどうしたら……』
絶望の眼差しで目の前から目をそらした時、背中から声をかけられる。
「目をそらすな小僧。」
聞き覚えのある声に体をひるがえし自分の後ろに目をやる。そこには、闇の大魔導師アレイスター・クロウリーを筆頭とした各属性の大魔導師だった。赤を基調とした服装の長身の猫背の魔導師が前に出て手を伸ばす。
「立て、それでも戦士か?」
優吾は炎の大魔導師スカーレッド・アルフレアに手を引かれ大魔導師たちの元へと向かう。そのまま大魔導師の輪の中に入った優吾は魔導師たちの顔を見渡す。中華風の服を身にまとった女性水の大魔導師
「安心しろ、これから君の鎧は完全なものとなる。」
「そーそーそして、これからその最終儀式をするってわけ……」
金髪の爽やかな声をもつイケメン風の大魔導師テンペスト・ガゼルフォードがそういって優吾へウィンクをする。龍の大魔導師のドレイク兄弟もこちらを見るとガッツポーズやサムズアップをしている。そして、アレイスター・クロウリーとロゼ=ハイライト=クリスティがこちらへ歩み寄る。
「戦士よ申し訳ございません。鎧を完全体にする準備に手間取っていました。」
優吾はロゼの以前の発言に疑問を抱いていた。完全な鎧になると言っていたのに龍の鎧には偏りがあった。他の鎧にも能力の偏りがあった。その偏りが今、解消されると聞き、優吾には緊張が走る。
「どんな儀式をするんだ?俺の体ならどうなってもかまわない。早くやってくれ。」
「もちろん。クロウリーも参戦したので完全体+αといったところまで強化されます……では、皆さん持ち場についてください。」
大魔導師たちは優吾を中心にして円を作る。そして、それぞれが手をかざし詠唱を始める。
気炎万丈──────
明鏡止水──────
龍を交えた拳と剣──────
暗き闇に溺れようとも──────
「戦士は拳を掲げる……魔装!!」
優吾の意識がそこで途切れ覚醒する。優吾は拳を止め距離を取った。 一旦魔装が解除され、優吾を止めようとしていた彩虹寺はその姿を見て尻もちをつき安堵した。優吾は、彩虹寺を目でとらえると、サムズアップをして魔装をする。白と黒の鉄の塊が入り交じり飛び交いながらモグラ三人衆の邪魔をする。鉄の塊が優吾へ突き刺さると鎧の形を形成していく。優吾はそのままモグラ三人衆へ近寄っていく。足、腰、動体、手の順番で鎧が形成されていき、最後に頭の鎧が形成された。黒いローブを引くと辺りに風が吹き荒れた。
頭は狼、体は龍、足は鷲、手には魚、それらが混ざったような鎧を纏った戦士。しかし前身は黒を基調としており若干の不安を覚えるが、優吾の意識には危うい感じはなく、逆にみなぎってくる力が全身に際限なくいきわたる感覚。
「
モグラ三人衆には今までよりも緊張が走り優吾へコンビネーション攻撃を仕掛けようとしたが、優吾は三人へ迫り、
分離した。
それぞれの優吾がそれぞれのモグラ三人衆を引き離し町には静寂が訪れた。彩虹寺は右肩の出血を抑えながら、埋まった海辺と陸丸を救出した。
「晴山の奴は?」
彩虹寺は目の前で起こったことを細かく説明するが、二人はありえねぇだろやにわかには…といったことを口に出し、町の被害を確認しに、住人の避難にあたっていた夢希と焔を呼び被害確認に出た。そして、ふと彩虹寺は優吾へ通信をつなげてみる。雑音と風の音が聞こえると、吐息交じりの優吾の声が聞こえてきた。
『な、なんだよ。』
「いや、忘れていたので伝えようと思ってな……今回の魔族は倒すのではなく、生け捕り……つまり捕獲してくれ。」
『はぁ?マジかよ……』
「まさかもう、倒してしまったのか?」
『いや、倒してはいないけど……わかった頑張ってみる。』
優吾は通信を切ると、彩虹寺は歩いている海辺と陸丸、夢希、焔の背中を追った。
B-2ブロックの校庭。昼間であるが辺りは暗く音一つない校庭になっているが、そこに土煙を上げて優吾がモラグを掴んで到着する。そのままモラグを飛ばしタイマンに持ち込むことに成功した。
「ここまでくれば、コンビネーション攻撃とかは出来ねぇよな?」
優吾は土煙を振り払いモラグと目を合わせる。黒い炎の蓼がたなびく優吾の姿は炎の鎧に近いものになっていた。そのまま拳を固め、モラグとの距離を詰める。モラグは胸を張ってその拳を防御する体勢に入る。優吾はその胸めがけて拳をぶつける。優吾の拳はモラグの胸に衝撃を与えるが、モラグは余裕そうな表情を見せるが、優吾はそのまま拳打を連打する。次第にモラグの銀色の鎧にはヒビが入り、幾度目かの拳でモラグの鎧は完全に砕け散ってしまった。そのまま大きく吹き飛んだモラグはギリギリのところで足を踏ん張り廃校舎への激突は免れたが、体勢を立て直す前に優吾が目の前まで迫って来ていた。優吾はそのまま拳を下向きに振るい地面にめり込む。そして、とどめを刺そうと拳を固めたが彩虹寺の言葉を思い出し、どうしたものかと頭を抱える。何か捕縛する方法を探していると、モラグが優吾の隙を突き魔力弾を撃ってきた。優吾はそれを避けてモラグと距離を空けた。
「やっちまったな……さて、どうするかな……」
炎の優吾は頭を回転させながら、モラグとまた距離を詰めた。
昼の満干のドーム前。今日はイベントもなく静かな日となっていたが、そこへ優吾がグラモを掴みながら現れた。グラモは優吾の手から離れるとロケット頭突きをするが黒いコート型の鎧を身にまとった水の鎧に似た姿の優吾は、その頭突きをいなしながら周りに被害を被らないようにそのまま地面へ叩きつける。なおも攻撃を仕掛けてくるグラモ。それをいなしてカウンターを決める優吾。しかしながら、優吾は頭を悩ませながら攻撃をいなしていく。
「倒さないように、捕縛……捕縛……おっ、そうだ。」
優吾はグラモへと迫った。
満干から離れた森の中。まだ戦いの跡が残る崖の下。そこへ黒い閃光が現れ、優吾はラグモを投げ飛ばす。そのまま足で踏みつけ優吾はラグモの爪を壊そうと足に魔力を溜めて一気に回し蹴りをする。ラグモの銀色の爪は見事に割れて使い物にならなくなった。そして、優吾は一旦距離を置き地面に何かを書き殴る。
「えっと、なになに……こうやって、ここをこうやって……こうだ!!」
何かを書き終えると、ラグモへ人差し指を立てて挑発をする。ラグモはその挑発に乗り優吾と距離を詰めようとしたが優吾は詠唱する。
「影の鎖よ獲物を縛れ……シャドーチェーン。」
魔術式の上に立っていたラグモの足元から黒い鎖が出てくる。そして、ラグモの手足を縛り身動きを取れなくする。優吾は、その鎖を掴み大きく息を吐きながら胸をなでおろした。
「ふぅ……これで、いいかな…」
他の炎の優吾と水の優吾も同じように魔術を使い彩虹寺たちの元へと急いで帰っていった。帰り道、優吾は彩虹寺へ連絡を取った。
『やったか……?』
「おう、無事、三人とも捕縛成功だ。どこに連れて行けばいい?」
『本部まで連行を頼む。私から琉聖さんに伝えておくからよろしく。』
「了解。」
優吾は初めての了解の声にウキウキしながら魔法術対策機関の本部まで戻っていった。
42:了