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43:強奪

B-2ブロックの廃校舎からの帰還途中。優吾は近づく本部に担ぎ上げているモグラ三人衆の一応のリーダーモラグへ目を向ける。


「さて…そろそろしゃべろうぜ。モラグさんよぅ。」


肩に担がれたモラグは無言で真っすぐ前を見つめる。優吾は無言のモラグに大きくため息をつきながら本部近くまで着いた。他の優吾たちの魔力も感じながら足を進める。本部まで数メートルの時、突然モラグは口を開いた。


「俺たちは銀色の使徒となって、魔族を救うのだ。」


脈絡もなくそんなことをつぶやいたモラグへ優吾は質問を開始する。


「俺は、魔族の救済と人間を襲うには関連性が無いように思えるが?」


「そんなことはない。人間は…いや、この町は魔族との共存を謳っているが、それは間違いだ。この町の人間は魔族を自分たちより下の種族だと思っている。」


「その心は?」


「俺の父親だ。父親は俺と同じモグラの魔族だが、母親は人間だ。父親の父親…俺からすればおじいさんに当たる魔族は母のことをとても気に入り結婚を許してくれたそうだが、母かたの祖父は違った。父親との顔合わせの時はそりゃ驚いたし、同時に父親を見下すような発言までしていたそうだ。父かたの親戚は魔族だが、人間を受け入れた。それは、かぁ…母の中身を気に入ったからだ。だが、母からの親戚は違った。結婚の時もそうだし、俺を生んだ後もそうだった。俺たち魔族をどこか見下しているように見えた。この町じゃ魔族はそんな扱いを受けているんだよ。人間の小僧。」


モラグはその後も父方の親戚からの嫌がらせの話を感情を一切表に出すことなく淡々と話していった。優吾は、話を聞き終えるとそれは確かにそうなるわなと思いながら。答える。


「それでも、この世は平等にまわっているんだよ。確か、俺の記憶が正しければ、1900年代には魔族も人間の法律に適応になったはずだせ?」


「あぁ、知っているよ。もちろん。でもな、法律がどうこうじゃないんだ。俺はそんな中でも差別をされていて、しかも、世間は目をそらしていた。俺は、そんな世間が許せなかった……」


「それが犯行の動機だったわけか……」


優吾はそのまま本部へと到着する。本部の前にはギプスを巻いた星々琉聖や一班のメンバーもいた。炎の鎧の形をした黒い鎧を纏う優吾、水の優吾、風の優吾とほぼ同時に降り立った。優吾の姿に星々と双子は驚く。


「鎧がまた進化したのかい?」

「はい、進化しました。」


星々が詳しいことはこの三人の取り調べが終わってからだねと言った星々はモグラ三人衆を連れてくるように彩虹寺たちに指示して本部内へと入っていった。優吾も魔装を解除し星々たちの後ろについていった。取調室へ入り一人ひとり取り調べをしていったが、誰も口を開かない。なかなか開かない三人の様子を見ていた優吾は星々へ先ほどのモラグとの会話の内容をを伝える。星々はうなりながらもうなずき、再び取調室へ入っていった。会話の内容を聞いていた彩虹寺は優吾へこそこそと話す。


「しゃべったのか?あの中の三人と」


「しゃべったっつーか…勝手に口を割ったっつーか…まぁ、愚痴を聞くように聞いてたよ。」


「そうか……まぁ、君には何かと話しやすそうだからな……」


「そ、そうか?なんか照れるな……」


二人がコソコソイチャイチャしているのを見て少しむかついた夢希はムッとした顔でコソコソと二人を注意する。


「お二人とも、いちゃつくのでしたら出て行ってください。」


「「す、すみません……」」


その後もなかなか口を開かないモグラ魔族の三人はそのまま魔族用の牢屋へと運ばれていった。牢屋へ運ぶ際、優吾は三人を別々の牢に入れるように頼んだ。そして、星々は次に優吾の鎧の話になった。優吾は一班の会議兼待機室で鎧の進化の経緯をなるべく細かく話す。


「……てな感じで鎧が進化しました。」


「にわかには信じがたいけど、今まで気を失っていたり、反応が薄かったりとかが多かったからそれ自体は事実だろうね。しかし、すごい進化だね。魔力で分身を作って戦えるってしかも魔術まで使えるようにもなっていたと……」


星々は興味深そうにうなずきながらタイピングを速める。優吾の話が終わると、星々は再びうなりだす。どうやら先ほどのモグラ魔族たちの取り調べがどうも納得いかなかったようだ。


「お兄様、何か引っかかっているのですか?」


「ん~、同期がね…何か腑に落ちないというか……まぁ、これは調べてみないとわからないからねぇ……」


「私と凪ちゃんからすれば十分すぎる同期ですけどね……」


焔が夢希の後ろでゲームをしながらも静かに頷く。星々はまぁそれはそうなんだけど…と言葉を濁らせながら、うなりながらパソコンを打ち込む。同機としては十分だが絡んでいるのが銀色の使徒なせいか星々はうなる声が止まらない。優吾はそんな星々を見て何か手伝えることはないかなぁと思いながらも夢希ににらまれそのまま部屋から出ていった。


「それじゃ、俺はこの辺で……」


「うん、また頼むね~」


部屋を出ると、優吾は夢希に呼び止められる。


「待ってください。」


正直、夢希が苦手な優吾は少しぎょっとして嫌な顔をしていないか優吾は周辺の反射物を目で探すが夢希にそのまま引っ張られてカフェスペースへとついた。


「で、なんだ…しょう?」


「何ですかその変なしゃべり方……私は中学三年生であなたより年下です……そんなことはどうでもいいので本題へ入りますね。」


夢希は優吾を睨むと冷たい口調で優吾へ話しかけた。


「これ以上、お兄様へ負担をかけるのをやめていただけますか?」


優吾は、悪寒を感じ背筋を伸ばす。


「ふ、負担?」


「えぇ、そうです。お兄様の仕事量が増えた中に明らかにあなたが入ってます。ですので、これ以上、お兄様には近づかないでください。」


優吾は確かにとうつむき考える。確かに優吾は今まで星々へ気苦労をかけている。それは確かに負担になっているなと考えた。優吾が夢希の方を見ると夢希は優吾の返事を待っている。


「俺は…すまない……近づかないというのはできない。」


「はぁ?あなた何を言っているかわか……」


「分かっている。琉聖さんに気苦労をかけていることもそれが完全に負担になっていることも知っている……だから、俺は琉聖さんに苦労を掛けないくらいには強くなるから……だから……」


優吾の必死な目に夢希は少し気圧されてたじろぎながら座る。


「……あなたがこれから強くなって苦労をかけない根拠は?」


「さっきも鎧の説明をしたが、俺は魔術も使えるようになった。強くなった……と思うが、やっぱりこれだけだとダメか?」


「そうですね。根拠にはなりません。」


「…………ッ!そうか、だったら……」


優吾は席を立ち、夢希へ覆い被さった。夢希は何事かと避けようとしたが、奥の方…モグラ魔族たちがいる牢屋の方で大きな爆発音が響く。爆発音が止むと優吾は石を握りながら、そこへ駆け込んでいった。夢希はその背中を急いで追う。優吾は、煙の上がる方向へと走る。

夢希と話しているときに優吾の頭に流れ込んできた映像は、本部を襲撃する銀色の使徒の三人の映像だった。牢屋は地下にあり煙が上がっているほどの爆発。威力はすさまじく職員が慌てふためきながらも言伝で星々などの班長達へ伝える。階段を降り、牢屋付近まで来ると煙がひどい地下では職員が複数人倒れていた。


「大丈夫ですか…!?」


「危ない…後ろ…」


優吾は、石を握り詠唱しながらボロボロの職員を抱える。鉄の塊が防御し攻撃をしかけてきたサソリは不気味に嗤いながら銀色の槍の先を見つめる。


「フフッ…一層気持ち悪くなりましたね~……」


「お前以外にも来てるよな?」


サソリは槍を構えなおしてつぶやいた。


「当り前じゃないですか……」


そのままサソリは槍を突き立てながら優吾へ突進する。優吾は、職員を脇にそっと置くとその槍を掴む。


「これまでの俺だと思ったら大間違いだ……」


白と黒の鉄の塊がサソリへ向かって優吾から距離を離す。優吾はそのまま距離が空くサソリへ拳を固めながら近づき、勢いよく拳を振るった。サソリはその拳をいなしながら、優吾の脇と通り過ぎ背後へと向かった。攻撃を警戒しながら振り向くとそこには銀色の使徒が勢ぞろいしていた。優吾はギンロと目が合った。


「やぁ…。」


「よぉ……」


互いに視線がぶつかる。にこやかなギンロに対して怒りをあらわにする優吾。


「久しぶりだね。晴山優吾。」


「ギンロ=シルヴァス……」


「そう睨むなよ。僕たちは仲間を取り戻しに来ただけなんだから……」


「こっちの被害は考えてないだろが……」


ギンロはハハハッと嗤うとそのまま踵を返し逃走を図った。優吾はギンロを逃がすまいとその背中へ飛び蹴りを入れた。


43:了

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