背中へ衝撃を感じたギンロは抱えていたモラグをエファへ投げ渡す。エファは無言でうなずくとそのままサソリと一緒にモグラ三人衆を抱えて走り去っていく。優吾はその背中を追おうとしたが、ギンロに足を掴まれ倒れる。
「てんめぇ……」
「僕と遊ぼうぜ。」
優吾は拳を固めてギンロへ殴り掛かるがギンロは避ける様子もなくその拳を余裕の笑みで受ける。
「どうしたの?強くなったんでしょ?」
「あぁ、強くなったさ……」
優吾は止まった拳へ魔力を送り込み、止まった拳でギンロを吹き飛ばす。ギンロはその拳に吹き飛び壁へと激突する。吐血したギンロは星々へ向けるような純真無垢な笑みを優吾へ向けた。その瞬間、ギンロは殺気と魔力を解放した。解放された魔力に優吾は気圧されそうになったが、拳を構えながらギンロとの距離を詰めていく。ギンロもそのまま優吾と距離を詰めて互いに拳が入る間合いになる。
「打ってこいよ晴山優吾。」
優吾はその挑発に乗り拳を素早くギンロの顔面へと振るう。ギンロはその拳を最小限の動きで躱し優吾の胴へボディブローを入れる。優吾はその拳を受けると拳を打ったギンロの隙をつきカウンターの拳をギンロの顔面へと叩き入れる。それを皮切りにギンロも優吾へ拳を叩き込み、お互いにそれを素早く繰り返す。
「ほらほら、どうした僕はそんなんじゃ死なねぇぞぉ?」
「うるせぇ…俺はお前を殺さない…今まで傷つけてきた人間達へ償いをさせる……」
「君だって同じだろう?」
その瞬間、優吾の頭に白鳴とミルザムの顔がよぎった。それを隙としたギンロは優吾の頭部にめがけてハイキックを叩き込んだ。
「がっ!?」
優吾はその衝撃に一瞬、意識を失いかけたが何とか持ち直しギンロの地についている足に足払いをする。ギンロは背中から倒れるかと思いきや、そのままバク転し受け身を取った。そして、二人はまた視線をぶつける。
「どうした?僕はまだピンピンしてるぞ?」
「だから、どうやったら捕まえられるか考えてんだろうが……」
優吾は肩で息をしながらギンロを見つめ息を整える。そして、全身の魔力を集中させる。そして、足に力を入れ跳躍する。拳を構え突っ込んでくる優吾にギンロはため息をつきながら迎え撃とうとしたが、背中に衝撃が走った。後ろを振り返ると、拳を構えて跳躍している優吾の姿だった。ギンロは前を見て後ろを見てどちらも優吾だと認識する。前から来る優吾の拳は顔面に見事命中するがギンロはそのまま拳を掴み後ろから来た優吾へ拳を当てる。優吾同士でぶつかったが、そのまま立ち上がり二人の優吾はギンロを見つめる。ギンロはそのまあ二人と相手をしようと足を踏ん張ったがまたもや背中に攻撃が入る。後ろを見ると優吾がさらに三人増えていた。それぞれ、闇の鎧の隣は炎の鎧に酷似、後ろにいた優吾はそれぞれ風、水、龍(拳)と酷似している姿をしていた。
「数なら押し切れるとでも?」
「現に押されてるだろう?」
ギンロの笑みはさらに増し、魔力量がとめどなく出てきている。優吾はだんだんと慣れてきたギンロの魔力にひるむことなく五人の優吾でギンロを取り押さえようと飛び掛かる。
「甘いな…甘いよ。それだから君はダメなんだ…」
ギンロは飛び掛かってくる優吾達にめがけて魔力弾を飛ばしていく。炎、水、風の優吾はその魔力弾で消え去ったが、龍(拳)の優吾と本体の優吾はそのままギンロへつかみかかる。
「だから、僕とやるなら殺す勢いでやらないとダメだろ!?」
ギンロは龍(拳)の優吾を蹴り飛ばし、本体と組み合う。
「ほら、殺し合うよ!!」
「嫌だね...!お前を捕まえる…」
「そうは……行かないね!!」
ギンロが体勢を変えて優吾に殴り掛かろうとしたその時、足元が凍りギンロは体勢を崩した。そのまま優吾はギンロの腹部へ膝を入れて吹き飛ばす。優吾とギンロが氷が飛んできて方向を見るとそこには二人に氷の銃を向けている雪白 夢希がいた。
「晴山さん。早く彼を確保してください。」
「おう!」
優吾は急いでギンロを確保しようと地面に魔術式を書き始めたが、ギンロは優吾にむかって魔力弾を撃ち、夢希へ目くらましのための魔力弾を撃つ。優吾はその魔力弾をよけ、夢希へ迫っている魔力弾を受ける盾となった。
「それじゃ、僕はそろそろ行くよ。二人もそろそろここから遠ざかっただろうしね~」
ギンロは手を振りながらビルの間を縫って見えなくなっていった。緊張が解けた優吾は魔装を解除して尻餅をついた。
「ふぅ……怖かった……」
夢希は優吾へ声をかけることなく踵を返し本部内へ戻ろうとする。優吾はそんな夢希へ向けて声をかけた。
「いやぁ…俺、まだ弱いわ。ありがとな雪白。」
夢希はそのまま無言で本部内へ被害報告をしに戻った。優吾はそんな夢希の背中を見て大の字で倒れこむ。
空が青い。
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大神のところへ戻ってきたギンロたちは実験の成果を見せる。大神はほう…とメガネの位置を直しながら、近寄ってくる。
「三回で実験成功させたのはすごいね…まぁ、ボクが失敗なんてことはありえないのだけれどね。」
大神はパソコンで最初に作った成分でまた同じ銀色の液体を作り始める。大神は黙り込むギンロたちへ言葉をかける。
「それで?これを量産すればいいんだっけ?」
「そうだそして、君はここで用済みだよ。」
大神はギンロの方を睨むと爪を突き立ててきたギンロの攻撃を避けて距離を置いた。
「まぁ、そんなことだろうと思ったよ。魔族中心主義のキミらが僕を放っておくわけないよね。」
「その銀色の水があれば君はもはやいらない存在になっただけさ。最初からそういう契約だっただろう?」
「いいや?そんな贄のような契約をした覚えはないけど?」
「死ね。」
ギンロはモグラ三人衆とエファ、サソリへ大神を殺すように指示を出す。大神はその辺の書類を巻き上げて逃げる。銀色の使徒とモグラ三人衆は大神の背中へ魔力弾を撃ちこんでいく。
「ちょっとぉ…やめてよ~。ここ、重要なものがいっぱいあるんだからさ~」
「余裕そうだね。皆、早めに捕まえて。」
大神はう~んと、うなった後何かを思い出したように魔力弾を避けて走る方向を変える。そして、何かを探すようにうずくまる。銀色の魔族たちは大神を囲って爪や武器を構える。
「いやぁ、困った困った。ボクも今日で終わりか……」
「そうだ、覚悟しろ。」
エファが手を伸ばした瞬間、ギンロは大神の手を見てそれを驚愕しエファを止めた。
「何だ。」
「待て、あいつ手に何持ってる。」
大神は手のひらを見せて銀色の魔族たちへニヤニヤと視線を向ける。
「どうしたの?早く捕まえないと逃げちゃうよ?」
「それは何だ。」
「これ?これは自爆ボタンさ。ボクがボタンを押して数分後にはここは全て木っ端微塵に吹き飛ぶ。おっと。ボタンを奪って破壊するとか考えるなよ?破壊しても大爆発を起こす。そして、ここのボタンを押すと……」
板状の銀色に赤いボタンがある自爆装置だが、その下の方に爪を入れて大神はカバーを空けて葵ボタンを押す。
「これで、ボクの生命活動が終了しても、体から離れても爆発する設定にした。」
ギンロはニヤニヤと口角を上げる大神を睨み、殺す指示を取り消し近づかないように命令する。
「そうだ。それでいいんだ。君らにはこれからボクの実験に付き合ってもらう。」
大神が指を鳴らすと、離れたドアから何かがぞろぞろと出てきた。やってきた者たちに魔族たちは目を見開く。列成してきたのは人型の節足動物…昆虫の魔族だった。だが様子がおかしい。まるで、蟻がそのまま人型になったような…そんな不気味な雰囲気にギンロはおそるおそる口を開いた。
「こ、こいつらなんだ?」
「人口の昆虫魔族をクローン量産したんだ。たしか、一万匹くらいだったかな?」
「人口の魔族?」
「そうさ。君らが人を魔族にしていた細胞をアリに注入して魔族にして、それを量産した。それだけさ。」
ギンロは思わず大神へつかみかかる。
「おいおい、君らも人間にやってただろう?何を怒る必要がある?クローンかな?クローンがダメだったのかな?」
大神はまた指を鳴らし、天井から大きな注射器を出すと作っていた銀色の液体を人口アリ魔族へ注入し始める。銀色の液体がすべてのアリ魔族へ注入され終わると、さっそく体に変化が現れた。体全体が銀色になりより人へ近い姿となる。そんな魔族を見てギンロだけがこちを開いた。
「生命、ひいては魔族への冒涜だ…こんなのは……魔族じゃない……」
「いやいや、魔族細胞が注入されているから正真正銘魔族だろ?」
ギンロは他のエファとサソリを連れて大神の部屋を出た。
「ギンロ。」
「あいつはやはり、生かしておけない。」
「ですが、彼の持っているあの自爆装置を奪わなければ我々に勝機はないですよ?」
ギンロは考えた末に無言で歩き出した。
44:了
銀色の使徒 戒
1.我らが銀の主は決して間違いを犯さない。
1.主の名をみだりに声に出してはならない。
1.魔族を殺してはならない。
1.何事にも感謝を忘れてはならない。
1.教祖は主の声を皆へ伝えなければならない。