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45:銀狼

銀色の魔族である僕は一生この生を恨むことになるだろう。と、そう思っていた。だが現実は意外と都合の都合の良いものだった。銀色の使徒の最初の巫女、銀狼の乙女の血を引くと言われた僕はその日から教祖になり、教壇をまとめる役となった。困っている魔族たちの悩みを聞き、導く。心なしか僕も穏やかな心を取り戻していった。だが、問題はまだまだ山積みで魔族同士での差別をなくした後に出てきたのは人間からの差別。戒典にはそんなものは載っていなかったので僕はどうしたらいいか頭を抱えて悩んだ。悩んで悩んで果てに出した答えは「人間を魔族にする」だった。だが、探してもそんな魔法や魔術があるはずもなく各地を彷徨っていたところを大神おおがみ阿頼耶あらやに出会った。大神もまた人間同士での差別で悩んでいた。僕の提案を快く受け入れた大神とは、仲良くできると思っていたのに……


「とんだマッドサイエンティストに協力してしまった。」


「あれは魔族というよりもまた別の何かになってますね。」


「汚らわしいな。あんな生命体の全てが失われたような存在は……」


その通りだ。今まで人間に魔族細胞を渡したり注入していたが、皆、感情があり、それぞれがそれぞれの目的を達成できそうで心豊かにしていた。ふと思い出した。先ほどの光景。無機質な目に言われたことにただただ従う姿。そんなものは魔族ではない。魔族は誰にも従わないし、目に光が宿っている。誰しもが悩みを抱え、苦しみ、喜び、悲しみ、人間のようにそれを分かち合い一緒に進んでいる。それなのに、虫如きに尊い魔族細胞を使い、それを思い通りに動かそうとする。それの何が平等だ。無差別だ。大神の研究所を出て、どうしようか悩む。自爆装置のボタンをとっても、あいつを殺しても無駄……ならば、することは一つしかない。


「今回ばかりは魔法術対策機関の手を借りる。」


「ん?まさか依頼をしにいくので?」


「そんな訳ないだろ?僕らが人間に頭を下げるなんて、死んでもごめんだね。」


「ならばどうするのだ?」


「簡単さ。大神をあいつらに確保させる。そのためには僕らがあいつらをここまで案内すればいい。もちろん、銀色の使徒としてね?」


エファとサソリは感心したような顔でうなずいていた。そうさ。いつだって正しいし、最適解を出すのが教祖の役目だからね。こんなのは朝飯前さ。


────────────


ギンロの声が聞こえるパソコンの画面を閉じると、大神 阿頼耶はメガネの位置を直す。


「フフッ…幹部に裏切り者がいるなんて思いもしないだろうねぇ…」


「さて、と。僕は急ピッチで作業を開始しようかな。」


大神は整列させたアリ魔族の方へ振り返り合図をする。その合図で一匹のアリ魔族が前に出てきて大神の前で膝をつく。大神はそのアリ魔族の頭に何か機械を接続しパソコンの操作をする。データ名に「満干の地図、地理、座標」の文字が映るとクリックをしてそのデータを機械を通してアリ魔族へ送信する。そして、大神はまた合図を送り次のアリ魔族が出てきて膝をつく。これにもまた機械を接続し次は「魔法術対策機関 データ」を送信する。パソコン内には魔法術対策機関のメンバーのデータが表示されている。二匹が膝を着いたまま止まるのを確認した大神は他のアリ魔族へ持ち場へ戻るように指示を出す。


「さて、これで僕の復讐も最終局面に入る…この二匹へのデータ送信が終わったら、実行だ……この調子だと、彼らに確保される前には発動できるかな。」


大神は自爆装置のボタンを見て短く嗤うとそのボタンを地面に叩きつけて踏み壊した。


────────────


「うぇぇん。あばらが治らないよぅ…」


ウソ泣きの棒読みで魔法術対策機関 第二班 班長 天々望てんてんぼう四夜華しよか班員の旋風寺せんぷうじ初風ういかへ抱き着く。初風はあははとぎこちない笑いを浮かべてされるがままになっている。そんな二人を見て海辺うみべ海斗かいと台地だいち陸丸りくまるは最近の任務の疲労もあってかため息が漏れ出る。


「いいよなぁ…俺もあの時もう少し無茶すりゃ良かったぜ……」


「陸丸、それ何回目?聞き飽きた。」


そんな二人を見て申し訳なさそうな初風はせめてもと松葉杖をついて二班の部屋のキッチンでお茶を淹れ始める。初風がソファを立って抱き枕がなくなった四夜華はそのまま寝っ転がり大きなあくびをする。


「さて、初風ちゃんが淹れたお茶を飲み終わったら任務再開だね。」


「うへ~初風~少し遅く入れてくれよ~」


「こら…初風ちゃん気にせずいつも通り淹れてくれて構わないよ。」


「は、はい、お二人の為においしいお茶、い、淹れます。」


その時、二班の部屋の扉がスライドする。皆がそこへ視線を向けると、ギプスを巻いた第一班班長 星々 琉聖が立っていた。


「ん~琉聖ちんどったの?」


「いや、少し相談があってきたんだ。四夜華班長。ちょっといいかい?」


「いやん、誘われてる~ってことで、ボクは行くけど、二人は任務サボらないようにね~特に陸丸~」


四夜華は手を振りながら星々の後をついていき部屋を出ていった。


「余計なお世話だ。」


「でも、サボったらダメだよ。陸丸。」


「あ、お茶、は、入りました……」


丁寧に海辺と陸丸の前に紅茶を置くと初風はソファに座り直し、テレビのリモコンへ手を伸ばした。


「それにしても、班長何を話に言ったんだろう……」


「さぁな。もしかして、前の任務で言ってた合同特別班でも結成するんじゃねぇか?」


「それだと嬉しいね。」


紅茶をすすった二人は、つかの間の休憩で心と肉体を十分に回復させたのだった。そんな二人の話をまるで聞いていたかのようにカフェスペースでは今、二人の班長が合同班を作るか否か話し合っていた。


「…ってことでうちの綾那ちゃんから話があったんだけど……」


「ふ~ん……。ま、恐らくポロっと口から出したのはうちの海斗ちんだと思うけど、それって本当に効率的だと思っている?」


「まぁ、どこかのタイミングで馴染んできたらまた面倒なことになりそうだなとは思うよ。」


「でしょ?でしょ?それじゃ、あんまやらん方がお互いのためじゃん?」


「でも、今後もこんなことが起こるようなら、一度、試しに組んでみた方がいいとは思うんだよね……」


「ほ~ん、意外と乗り気じゃん?前はそんなことあんま言わんかったのに……」


「そうかな?僕は前とあまり変わったなぁとは思わないよ?」


「はいはい、天然天然。まぁ、ぶっちゃけボクはどっちでもいいよ。君がやりたいようにやったらいいと思うよ?次期代表。」


「ちょ、やめてくださいよ。あんまり言われると恥ずかしいです。」


四夜華はへっ!と突っぱねると、星々は紅茶を一口すする。最後に星々四夜華へ確認した結果、班長の怪我が治るまでの一時的な合同班を結成した。


「んじゃ、色々な指示は綾那ちんにしてね?」


「分かったよ。四夜華。」


「はいはい、どうもどうも~」


二人は、それぞれの部屋へ戻り資料をまとめるためにパソコンへ向かった。


────────────


傷の具合を見て、医療班の博子は獅子王 玲央の体を軽く叩く。病院着を羽織る玲央は博子へ質問する。


「あとどれくらいで動ける?」


「ん~そうだな~二、三か月ってところかなぁ…なんせ、穴だらけでその後手術も間もないってのに歩き回ったせいで、治りが遅くなってるからね~」


「それはすまなく思っている。謝罪しよう。」


「あはははは、別にせめてないよぅ~男の子はこのくらい元気で問題はないからね……あ、一応、本部内の散歩はやっていいよ~……それと……」


博子は立ち上がり、奥へと消える。物音を立てて玲央は心配になるも博子が来るのを待った。数分後、物音とともに博子は帰ってくる。その手には、玲央が持っていた魔石が光っていた。


「これこれ。これね。正真正銘の魔石。でも人工的に作られていて普通の魔石よりかは出力が弱いってのが結果。」


「そうか。ありがとう。」


玲央は魔石を受け取るポケットへとしまう。そして立ち上がり自分の病室へ戻ろうとドアをスライドさせた。


「では、また数週間後に。」


「はいはい~いつでも来てね~」


玲央が廊下を歩いていると晴山優吾とばったり出会った。


「あ、ども。」


「そんなかしこまらなくてもいい…そうだ、ちょっと来てくれるか?」



玲央は優吾を連れて本部内を散歩し始める。中庭に出て本部の花畑を見ながら話を始めた。


「あのあとはどうだ?本部が襲撃されていただったが…」


「そうだな~ボチボチってところかな…石の力もあんま理解できてないし…そちらは?」


「うむ、俺様はあと二、三か月だと言われた。だが、体感ほとんど痛みはないし、一週間後には完治しているだろうな。」


「怪我の治り早い方なのか……」


「うむ、昔から魔力だけは褒められたからな。魔力での自己修復もお手の物だ時間はかかるがな。」


「それで、完治したらまた協力者になるのか?」


「そうだな。俺様はそれが性に合っている。基本、不器用だからな。」


「そっか、それじゃ、玲央は今から俺の先輩だ。」


「む、そうなるのか…ならば、先輩として優吾を導いてやらんとな。」


二人の話に華が咲こうとしていたその時、優吾の通信機に慌てた様子で彩虹寺からの連絡が入った。


「はい、優吾です。」


『晴山、今大丈夫か?銀色の魔族…ギンロ=シルヴァスが現れた。確保の手伝いをしてくれ。場所はNブロックだ。』


「了解。今向かう……てことで、ちょっと行ってくる。」


「あぁ、分かった。」


優吾は通信を切ると玲央へ手を振ってそれからNブロックへと急いだ。玲央はそんな優吾の背中を見て武者震いを抑えるようにズボンにしわを作った。


「俺様も早く怪我を治して次は、俺様が皆を助ける。」


────────────


未だ、モグラ三人衆の被害が残るNブロックでギンロはただ一人そこに立って瓦礫撤去作業の妨害をしていた。意外なことに被害は拡大しておらずギンロは建物を壊していない。ただしかし、爆発魔法を使い、作業員の人々を怖がらせていた。


「そら、そら、逃げろ逃げろ……ほら!晴山 優吾~!魔法術対策機関!魔族が人を襲ってるぞ!!早くしないと前よりひどいことになるぞ!」


そこへ彩虹寺と優吾が現れる。とギンロは魔法を打つ手を止めていきなり踵を返しビルの上に飛び移る。


「てめぇ、見た瞬間逃走とかとうとう腰抜けになったのかよ~!」


「はん!キミ如きに臆するなら僕は腹切って死ぬよ!さて!次はどこに行こうかな~!」


わざとらしく大きな声を出して別のビルへ飛び移ると優吾はそれを追いかけるように走り出そうとするが、彩虹寺に止められる。


「なんだ?」


「はぁ…君というやつは…あれはどう見ても罠だろう。ギンロが一人で来たんだぞ?君を誘い出してどこかで仲間と合流して君を捕まえる気だ。やめておこう。」


「罠っちゃ~罠だろうな。でも、なんか別の誰かを貶めるための罠に見えたんだよな~。」


「ギンロが他の誰かを貶める為の罠?誰を貶めるんだ?君以外に因縁のある人間がいるのか?」


「さぁ、な。でも俺を使えるためならあいつらは三人で俺を攻撃してくるはずだ。だから、俺はその別の誰かを先回りして助ける。」


「面白い発想だな。他のメンバーもそれぞれ銀色の使徒と接触しているようだし、我々も行くか。」


「そう来なくっちゃ。」


彩虹寺は他のメンバーにも通信をとり、銀色の使徒を追うように指示を出す。もちろん、優吾の言っていた貶められるであろう別の誰かを助ける件も話す。


「無茶苦茶ですね。」


「でも、おもろそうw」


「班長早く戻ってきてくれ~」


「こら、陸丸。」


合同班はそれぞれ銀色の使徒の追跡を始めた。


45:了

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