魔法術対策機関 本部の通信班の元へ彩虹寺から通信が入る。内容は大量の魔族に襲撃されたというものだった。
「了解。ですが今、こちらで動ける班員は……」
通信班が「いない状態」と言おうとした時、肩に手が乗る。誰だろうと振り向くとそこには、前に大けがをしているメンバーが並んでいた。
「星々班長……まさか……」
「僕だけじゃなくて四夜華も初風も行ける。それに、場所は三班の近くでしょ?久々に全員でってのもありだなって……ダメかい?」
「怪我の判断は私にはできません。ですが、星々さん達が行けるというのでしたら、通信で伝えることはできます。」
「行けるよ。僕らは」
「……分かりました……遅くなりました。通信班です。こちらにいる星々さん達とそちらにいる三班の二名に応援要請を伝えます。」
『……!?琉聖さん達は怪我の状態がひどいだろう?本人たちが言ったんですか?』
「はい。本人たちが言ってます。」
『はぁ……了解しました……それでは応援よろしくお願いします。』
「了解しました……ということですので……」
続きをしゃべろうとしたが、星々たちはすでに姿を消していた。通信班i員はため息をつき前に向き直った。
「頑張ってください。魔法術対策機関の班員。」
廊下を走る星々はけんけんで進みずらそうな初風を見て止まりかがんでおんぶの姿勢を取る。
「初風ちゃん。乗って。」
初風は松葉杖の他に自分用のライフルも担いでおり一旦躊躇しようと後ずさるが四夜華と目を合わせて優しくうなずかれそのまま星々へ身をゆだねた。
「よし、急ごう。」
「おっけい。」
「りょ、了解。」
三人はそのまま廊下を走り駐車場へと急いだ。
場所を移し管理区の遺跡付近、一心へ応援要請の通信が入る。
「ほう……怪我してるやつらも来んのか……いや、
思わず口角が上がる一心を見て朱晴は何の通信だろうと一心の方をじっと見る。通信が終わると、一心はその顔のまま朱晴の方へ顔を向ける。
「どうしたんスか?」
「応援要請だ。ここの近くだとよ……行くぞ。」
「了解っス!!」
第三班の二人はそのまま彩虹寺たちの元へと走った。
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管理区を外れた瘴気が漂う森にて、夢希と焔はコンビネーション攻撃でアリ魔族の大群を一掃していく。焔の
「これじゃ、いくらやってもキリがないですね…」
「……そうだね。こんな時、お兄がいてくれたら……」
「凪ちゃん、余計なことは考えてはいけません。今は二人でできることをやるだけです。もう少し範囲を広げられますか?」
「やってみる……」
かと思いきや、
アリ魔族たちの波へ空から一閃が急降下してくる。その一閃の衝撃でそのほとんどが吹き飛ぶ。二人は何事かと目を開くとそこにいたのは第一班 班長 星々 琉聖だった。
「お兄様!」
「おにぃ!」
二人はギプスを巻いている星々へ近づき抱き着く。
「こらこら、やめなさい。まだ敵がいるんだから。」
「怪我をしているのに応援に来ても大丈夫なのですか?」
「そうだよ。腕まだ直ってないんでしょ?」
「でも、義妹を見捨ててのうのうとしてるのは班長の前に兄として失格だからね……さて、それはそれとして、今は戦闘を再開しようか……向こうも吹き飛ばした分増えてるみたいだからね。」
二人は先ほどと同じように手を構えて魔法の準備をした。星々たちと逆方向では海辺と陸丸が必死に戦っていたが、こちらも増え続ける敵の戦力に防戦一臂になっていた。
「くっっそぉ!!こんなんだったら俺だって大けがしときゃよかったぁぁぁぁ」
「陸丸、しつこい。」
「お前は!いいよな!俺は!魔術式!書かないと!いけないから!手が!限界!なんだよぉぉl!!」
陸丸は魔術式を書き終えてアリ魔族たちの足元へ次々に投げていく。
「大岩はそれを押しつぶす。
アリ魔族たちの頭の上に大きな岩が現れるとそのままその岩に押しつぶされるかと思いきや、アリ魔族たちの外骨格はすさまじく頑丈で陸丸の魔術では傷一つもつかない。
「うぞだろ……?」
「陸丸、出し惜しみはしない方がいいんじゃない?」
「この式でつぶれなかった奴はいないが……そうだな……ここは出し惜しみしてちゃまずいかもな……」
陸丸は、ステップを踏み、手首足首を回しストレッチをする。そして、クラウチングスタートの体勢に入ると、シュと鋭く息を吐き、アリ魔族たちの中へと走り始める。アリ魔族たちの一部は陸丸を追うように移動を始めたが、海辺がその後頭部へ
「邪魔だ!!」
陸丸はアリ魔族の隙間を縫って再び地面に何かを書き札を貼る。三枚を貼ろうと走っているとアリ魔族たちが密集させその通路を塞いだ。陸丸は止まってしまい、後ろから別のアリ魔族たちにつかまりそうになる。
「クッソッ!」
「陸丸はすーぐ諦める……
陸丸の後ろから迫ってきていたアリ魔族たちへワイヤーが絡まり一斉に捕らえられる。その魔法術を見た陸丸は幻でも見たような顔をしていた。そして、アリ魔族がそのまま締め付けられてそのまま切り刻まれると、第二班 班長 天々望 四夜華が現れた。
「は、班長!?あんた、安静にしてないといけないんじゃないのかよ?」
「フフッ☆来ちゃった♡てゆーか、ボク別にあばら程度じゃ何ともないんだよね☆」
「じゃあなんで今まで任務来なかったんだよ!」
「めんどくさかった。」
「くそ班長がっ!」
「それより、うしろ。」
「は!?」
後ろに迫っていたアリ魔族の一匹の眉間に風の弾丸が風穴を空けた。その直後、初風かから通信が入った。
「り、陸丸くん…わ、私も来てます。」
「お、お前は安静にしてろよ。」
「み、皆が頑張っているのに私だけ逃げるのは違うと思ったから……」
「そうかよ……ガッツあるじゃねぇか……」
陸丸が通信を切ると四夜華が背中を叩き気合を入れた。
「ほら、魔術の途中だろ?行ってこい。」
「おっけい。」
陸丸は再び走り出し、残り三枚の札を貼る準備をする。上空から見ると、陸丸が札を貼った場所は綺麗に五角形を描いている途中だった。そして、場所は大神の本拠地の前に移る。たった一人でアリ魔族の相手をしていた彩虹寺の魔力はそろそろ尽きようとしていた。自分の魔法を撃つのもままならず、彩虹寺は息を切らしながらも優吾の頑張っている姿を想像し自分を奮起させ走りながら魔法を撃つ。しかし、体力も限界の彩虹寺はアリ魔族の数の暴力によって追い詰められる。そんなピンチにも関わらず彩虹寺は空を見上げてそして、目を見開き急いで水魔法を展開する。
「ハイドロガード!!」
彩虹寺のハイドロガード発動と同時に空から大きな火炎弾が降ってくる。その火炎弾はアリ魔族たちとその辺の森林も入り口も一瞬で焼け野原になる。彩虹寺はハイドロガードを解き落ちてきた炎の上に第三班 班長 熱翔原 一心が舞い降りる。
「一心さん。無茶苦茶です。」
「うるせ、助かったんだから文句言うな。」
その数分後に燃えた森から班員の覇々滝 朱晴が現れた。
「はんちょー早いっス~!途中見失いそうになったっスよ~」
「おう、遅かったなこの通り俺が大部分はやったわ。」
「えぇ~そんなのずるいっスよ~」
そんな朱晴の後ろに忍び寄っていたアリ魔族が朱晴へ襲い掛かる。一心がそのアリ魔族に刀を振るおうとしたが、アリ魔族の胸は紫色の石の枝に貫かれる。倒れるアリ魔族の後ろから出てきたのは調査班の黒影だった。黒影の姿を見ると一心は舌打ちをして刀を納刀する。
「チッ…んだよてめぇも来てたんたかよ…」
「あぁ、冬至さん……に代表に頼まれてね。特別合同班の班長をしようとしていたんだが、タイミングが悪かったようだね。」
「おう、ここはお前の出番はねぇからな。さっさと帰りやがれ。」
黒影はアリ魔族の焼死体を踏むと大神の本拠地へ歩みを進める。
「そうもいかない。」
彩虹寺はその様子を見て黒影を止めようと声をかける。
「晴山のところに行くんですか?」
「あぁ、彼が心配だからね。というわけでここは一心とお願いするよ綾那ちゃん。」
「りょ、了解。」
黒影は立ちふさがるアリ魔族を右手の紫の石の枝で突き刺し突破していった。
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ギンロと大神を追って本拠地へ入った優吾は内部にもいたアリ魔族たちに行く手を阻まれるが、優吾は力を温存しながらギンロへ追いついた。
「ギンロ=シルヴァス!!!」
優吾は名前を叫びながら殴り掛かるがエファがその拳を掴む。優吾は掴まれると同時にエファの頭部に回し蹴りをしてエファを壁にめり込ませる。
「邪魔だ。」
「予想より早かったね。晴山 優吾」
視線がぶつかる二人は無言で拳を固めてにじりより、互いに右の拳をぶつけ合う。狭い通路のためぶつかった衝撃でガス管などが破裂する。力が拮抗した二人はその場で止まり距離を取った。
「前より強くなったね。」
「そりゃどうも。」
二人はストレッチをして呼吸を整え、再び拳をぶつけ合うと、とうとう衝撃に耐えられなくなった通路が地下へと落下した。二人は視界が悪いなか互いから目を離さずに落下中にも互いに殴りあう。そして、地価の地面が近づく中つかみ合いなった二人は交互に上になったり下になったり互いへ落下ダメージを押し付けようとしていた。地面まであと2。3メートルになった時、互いに互いを放し優吾は拳を構えるがギンロはがら空きなったボディへ両足で押し出すように蹴りを入れそのまま跳躍し崩落した瓦礫の中から飛び出し、体勢を整える。優吾はそのまま瓦礫に巻き込まれるが、何とか着地に成功する。
「ハハッ……面白くなったね。」
「俺は面白くねぇよ……」
土埃を払った優吾はギンロを睨む。ギンロは無邪気な笑顔を優吾へ向ける。
「ここで決着をつける。」
「いいね。いいよ。」
二人はだんだんと歩く速度を上げて互いに拳を固めながら近寄り互いに拳を顔面にぶつけあった。
47:了